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二人きりの夜
4
あの晩、相手をオーグレイルとは知らず、騎士団救出のために城を出た。
あの日、レオノールは生まれて初めてのキスをした。
この、クラウディオと……。
カナリー嬢との一件は思い出したくもないが、あの日2人の距離はグッと近づいた。
あの時の感情はまだ残っているのか。
クラウディオの制止を振り払って城を出たから、愛想を尽かされても仕方ないと覚悟はしていた。
でもオーグレイルに「命ある限りレオノールを諦めない」と啖呵を切ってくれていたから、もう怒っていないんだろうか。
事後処理の間は何かとバタバタして、確認する機会を逸していた。
(用意してくれた部屋も別々だったし、みんな何かと世話を焼きに来てくれたし)
ほとんどが人目に晒される時間だった。
そうこう思いを巡らせていると、ふっとクラウディオの手が離れて、名残惜しい気持ちになる。
「料理は逃げないから、ゆっくり食べろ。セレスとの待ち合わせは明日だから時間ならある。今日は君が満足するまで付き合うよ」
「いいんですか? そんなこと言っちゃって。私まだまだいけますよ」
レオノールは慌てて笑みを浮かべた。
急に押し黙った理由がバレていないか、内心ヒヤヒヤする。
(ついさっきまで忙しかったじゃないですか。早く休んだほうがいいですよ。クラウディオ様は昨日もあんまり寝てないですし)
そう言ってあげたいのに、自分を優先して欲しい欲求が先行する。
まだもっと、こうして2人の時間を楽しみたい。
エルグランに帰ったら帰ったで、片付けなければならない仕事は山積みのはずだ。
レオノールは残っていたワインを飲み干すと、給仕を呼んだ。
今度は自分用にエールと、クラウディオ用にワインのお替わりを注文する。
「もちろんだ。君の望みはできるだけ叶えたい。俺では満足に、君を支えきれないかもしれないが」
追加の注文を終えるとレオノールがまだメニュー表を畳まないうちに、クラウディオは呟く。
正面の席から、まっすぐにこちらを見つめている。
随分と唐突な内容だ。
「急に話が飛躍しましたね。私が支えられないんじゃなくてクラウディオ様がですか?」
「俺は今まで、王子としての役割を完璧にこなしていると思い上がっていた。しかし、今回の戦いを目にして、自分の無力さを思い知らされた。オーグレイルの主張は悪意だけではなく、正しくもあった」
「無力なんて……オーグレイルに何言われたんですか」
「直接ではなく、正しくは奴が作り出した空間内とでも言うべきか。ノーキエ城の地下で魔物と交戦中に、幻を見せられた。君はエルグランでなくノーキエで暮らしたほうが幸せになれると」
幻と聞いてピンと来た。
レオノールも精神に干渉する魔法に囚われかけた時に問われた。
レオノールがクラウディオを褒賞として求めた行為は、相手の意思を無視している。
望まぬ相手を無理やり手篭めにするのと同じだろうと。
「アルヴァロにも指摘されていたのに、俺はろくに気にかけてやれなかった。オーグレイルとどうこうなるのは論外だが、形式ばかりを重視するエルグランで俺に縛りつけられる君は、本当の幸せを手に入れられるだろうか……」
あの日、レオノールは生まれて初めてのキスをした。
この、クラウディオと……。
カナリー嬢との一件は思い出したくもないが、あの日2人の距離はグッと近づいた。
あの時の感情はまだ残っているのか。
クラウディオの制止を振り払って城を出たから、愛想を尽かされても仕方ないと覚悟はしていた。
でもオーグレイルに「命ある限りレオノールを諦めない」と啖呵を切ってくれていたから、もう怒っていないんだろうか。
事後処理の間は何かとバタバタして、確認する機会を逸していた。
(用意してくれた部屋も別々だったし、みんな何かと世話を焼きに来てくれたし)
ほとんどが人目に晒される時間だった。
そうこう思いを巡らせていると、ふっとクラウディオの手が離れて、名残惜しい気持ちになる。
「料理は逃げないから、ゆっくり食べろ。セレスとの待ち合わせは明日だから時間ならある。今日は君が満足するまで付き合うよ」
「いいんですか? そんなこと言っちゃって。私まだまだいけますよ」
レオノールは慌てて笑みを浮かべた。
急に押し黙った理由がバレていないか、内心ヒヤヒヤする。
(ついさっきまで忙しかったじゃないですか。早く休んだほうがいいですよ。クラウディオ様は昨日もあんまり寝てないですし)
そう言ってあげたいのに、自分を優先して欲しい欲求が先行する。
まだもっと、こうして2人の時間を楽しみたい。
エルグランに帰ったら帰ったで、片付けなければならない仕事は山積みのはずだ。
レオノールは残っていたワインを飲み干すと、給仕を呼んだ。
今度は自分用にエールと、クラウディオ用にワインのお替わりを注文する。
「もちろんだ。君の望みはできるだけ叶えたい。俺では満足に、君を支えきれないかもしれないが」
追加の注文を終えるとレオノールがまだメニュー表を畳まないうちに、クラウディオは呟く。
正面の席から、まっすぐにこちらを見つめている。
随分と唐突な内容だ。
「急に話が飛躍しましたね。私が支えられないんじゃなくてクラウディオ様がですか?」
「俺は今まで、王子としての役割を完璧にこなしていると思い上がっていた。しかし、今回の戦いを目にして、自分の無力さを思い知らされた。オーグレイルの主張は悪意だけではなく、正しくもあった」
「無力なんて……オーグレイルに何言われたんですか」
「直接ではなく、正しくは奴が作り出した空間内とでも言うべきか。ノーキエ城の地下で魔物と交戦中に、幻を見せられた。君はエルグランでなくノーキエで暮らしたほうが幸せになれると」
幻と聞いてピンと来た。
レオノールも精神に干渉する魔法に囚われかけた時に問われた。
レオノールがクラウディオを褒賞として求めた行為は、相手の意思を無視している。
望まぬ相手を無理やり手篭めにするのと同じだろうと。
「アルヴァロにも指摘されていたのに、俺はろくに気にかけてやれなかった。オーグレイルとどうこうなるのは論外だが、形式ばかりを重視するエルグランで俺に縛りつけられる君は、本当の幸せを手に入れられるだろうか……」
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