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浅草の恋敵
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山田屋を出て、浅草へ引き返していく深如を両国橋まで見送った。
その後で、悠耶は惣一郎に長屋まで送ってもらう流れになった。
送ってもらう里程でも刻限でもないのに、念のためと食い下がるのでやむを得ない。
広小路から長屋へ向かう堅川通りは今日も賑わっている。
この時季は川開きからしばらく、人通りが絶えない。人通りと、妖怪通りも。
先程の昼下がりに山田屋へ向かった刻限よりも交通量は増えている。
悠耶から見ると、人と同じくらいの数の妖が目に入る。
通りの左右に店と屋台、小屋掛けと、所狭しと並んでいる。
間の通りを忙しそうに棒手振が行き来し、そぞろ歩く人々の周りを一ツ目や垢舐めやらが店から店を渡り歩く。
妖だって賑やかな街は好きなのだ。
見えぬ人々はお構いなしに歩き回っている。
だが見える悠耶が、自然に双方を避けて歩くのは一苦労だ。
「また妙な歩き方をして。足でも痛えのか」
「違うよ。下手に歩くとぶつかっちまうんだ。今は、やたらに多いよ」
惣一郎はふらふらっと、右に左に、踊るように歩く悠耶の肩を押さえた。
こちらへ向かって駆けて来た小鬼が勢いよく膝にぶつかる。
「大丈夫かい?」
声を潜めて尋ねると、小鬼は柊のような手で鼻を押さえた。
小さな頭を縦に振り、また勢いよく引き返して行った。
悠耶の様子を見て、惣一郎は察した。
「なるほどね。ここいらにも大勢いるって訳か」
「ぶつかっても、あっちにその気がなきゃ、すり抜けちゃうからさ。何てことないんだけど、気になるから」
「俺も知らねえうちに踏んづけていそうで、怖いな。見えていたら注意してくれよ」
「惣一郎は……。モテモテだね。大勢が振り返って見ているよ。踏んじゃいないけど、あっちからぶつかって来ているし、踏まれたら喜ぶかもね」
素直に告げると、惣一郎の顔色が、ぎょっと青ざめた。
なので、悠耶はそれ以上しつこく言うのをやめた。
惣一郎はきっと、どこかまだ妖怪が怖いのだ。蕨乃と餓鬼しか見えてないならやむを得ない。
実際に轆轤首は橋の袂から首を伸ばして、惣一郎の姿を追って来ている。
悠耶に対してそんな行為を見せる妖は、いない。
だから、されたらどんな気持ちになるのかわからない。
妖怪にだって良い性質の人間はわかる。
惣一郎は、人にも妖にもこんな風に愛されている。
とは言え、これ以上は正直に話して惣一郎が怯えても困る。
悠耶は口を噤んだ。
「なあ……さっき話してた、お前の好きな坊さんって、どんな奴なんだよ」
黙っていると、惣一郎が唐突に問いかけた。
今度は悠耶が驚く番だ。
「何だい、藪から棒に。どうして、そんなことを聞くのさ」
「あの生臭坊主は、気に入らねえが、割りかしいい男だったろ。その、それよりいい男ってどんな男か気になって」
「うーん、……見た目? 頭は丸くて、普通だなあ」
悠耶は最後に会った時の円来の姿を思い出しながら、特徴を述べた。
話しているうちに、腹の底がムズムズしてくる。
「背は、おいらより高いかな? でも体も丸くて、笑うと、ほっぺに靨ができる」
「……悪いが全然わからねえ。名前は、なんてんだ」
惣一郎は目を瞑って、蟀谷の辺りを手で押さえていた。
悠耶は今までに体験したことのない感覚に包まれた。
円来について惣一郎に告げようと思うと、どこか腹の座りが悪い。
奇妙だが、他に説明のしようがなく、まともに名を告げる。
山田屋を出て、浅草へ引き返していく深如を両国橋まで見送った。
その後で、悠耶は惣一郎に長屋まで送ってもらう流れになった。
送ってもらう里程でも刻限でもないのに、念のためと食い下がるのでやむを得ない。
広小路から長屋へ向かう堅川通りは今日も賑わっている。
この時季は川開きからしばらく、人通りが絶えない。人通りと、妖怪通りも。
先程の昼下がりに山田屋へ向かった刻限よりも交通量は増えている。
悠耶から見ると、人と同じくらいの数の妖が目に入る。
通りの左右に店と屋台、小屋掛けと、所狭しと並んでいる。
間の通りを忙しそうに棒手振が行き来し、そぞろ歩く人々の周りを一ツ目や垢舐めやらが店から店を渡り歩く。
妖だって賑やかな街は好きなのだ。
見えぬ人々はお構いなしに歩き回っている。
だが見える悠耶が、自然に双方を避けて歩くのは一苦労だ。
「また妙な歩き方をして。足でも痛えのか」
「違うよ。下手に歩くとぶつかっちまうんだ。今は、やたらに多いよ」
惣一郎はふらふらっと、右に左に、踊るように歩く悠耶の肩を押さえた。
こちらへ向かって駆けて来た小鬼が勢いよく膝にぶつかる。
「大丈夫かい?」
声を潜めて尋ねると、小鬼は柊のような手で鼻を押さえた。
小さな頭を縦に振り、また勢いよく引き返して行った。
悠耶の様子を見て、惣一郎は察した。
「なるほどね。ここいらにも大勢いるって訳か」
「ぶつかっても、あっちにその気がなきゃ、すり抜けちゃうからさ。何てことないんだけど、気になるから」
「俺も知らねえうちに踏んづけていそうで、怖いな。見えていたら注意してくれよ」
「惣一郎は……。モテモテだね。大勢が振り返って見ているよ。踏んじゃいないけど、あっちからぶつかって来ているし、踏まれたら喜ぶかもね」
素直に告げると、惣一郎の顔色が、ぎょっと青ざめた。
なので、悠耶はそれ以上しつこく言うのをやめた。
惣一郎はきっと、どこかまだ妖怪が怖いのだ。蕨乃と餓鬼しか見えてないならやむを得ない。
実際に轆轤首は橋の袂から首を伸ばして、惣一郎の姿を追って来ている。
悠耶に対してそんな行為を見せる妖は、いない。
だから、されたらどんな気持ちになるのかわからない。
妖怪にだって良い性質の人間はわかる。
惣一郎は、人にも妖にもこんな風に愛されている。
とは言え、これ以上は正直に話して惣一郎が怯えても困る。
悠耶は口を噤んだ。
「なあ……さっき話してた、お前の好きな坊さんって、どんな奴なんだよ」
黙っていると、惣一郎が唐突に問いかけた。
今度は悠耶が驚く番だ。
「何だい、藪から棒に。どうして、そんなことを聞くのさ」
「あの生臭坊主は、気に入らねえが、割りかしいい男だったろ。その、それよりいい男ってどんな男か気になって」
「うーん、……見た目? 頭は丸くて、普通だなあ」
悠耶は最後に会った時の円来の姿を思い出しながら、特徴を述べた。
話しているうちに、腹の底がムズムズしてくる。
「背は、おいらより高いかな? でも体も丸くて、笑うと、ほっぺに靨ができる」
「……悪いが全然わからねえ。名前は、なんてんだ」
惣一郎は目を瞑って、蟀谷の辺りを手で押さえていた。
悠耶は今までに体験したことのない感覚に包まれた。
円来について惣一郎に告げようと思うと、どこか腹の座りが悪い。
奇妙だが、他に説明のしようがなく、まともに名を告げる。
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