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娼館の制圧
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「ティメオは何歳だ? どこから来た?」
「私は、14です。生まれは……サランの街です。北のほうです。二日ほどかけて、ここへ来ました」
ティメオはゆっくりと話し始めた。
4歳の頃に母親が病死したらしい。
父親と二人暮らしになったが、その父親が借金を作ると同時に酒浸りになり、食うにも困るようなった。
そこへ割の良い仕事と紹介されてギャレットへ売られた。
「借金も、ギャレットが肩代わりしてくれて……でも、こんな……」
ティメオは一度言葉を切った。
「仕事の内容まで、聞いてなかったので、最初は、驚きました」
娼館の業務内容を批判しそうになって、言い替えたようだ。
「私も14歳です。隣のリュート出身です。うちもティメオと似たような環境でしたけど……私は、知っていて来ました」
ルーカスはカップを傾けて、紅茶を口に含んだ。
彼女らの目の前で、ルーカスはポールに金貨を渡した。
ルーカスは高い金を払って新米を2人も買った珍客だ。
娼婦に同情する態度は不自然だ。
「ここで働けば、借金も返せるし、上流階級のマナーを教えてもらえると聞きました。それで、もし気に入って頂ければ、貴族の養子にしてもらえるって」
「貴族の養子に?」
ルーカスはカップを置く。
予想は正しかった。しかし、この2人は誘拐されてはいない。
「リリアは随分、前向きなんだな。しかし、養子になってしまったら、家族の元には帰れないだろう。貴族は体面を重んじるからな。実の家族とは縁を切らされる」
「あんな所には、帰りたくありません。だから、ここで頑張ろうって、決めたんです」
ルーカスは、複雑な心境になった。
娼婦になる道へ、希望を見出す者もいる。
それは一部では真実だ。
過酷な労働ではあるが、道を究めた者は稀に、名声や寵愛、莫大な富を得る。
だが……今回リリアが聞かされたであろう、貴族への養子縁組への道には裏がある。
聖女の選定に出されて、落選すれば、未来永劫、養子への路は絶たれる。
そうなれば未来への希望は、それ以上の絶望へと姿を変える。
ティメオは初耳らしく、「そうなんだ」とリリアに感心していた。
ルーカスは、今度は本題をどう切り出そうかと頭を悩ませた。
今話を聞いた限りでは、ティメオは、逃がしてやると提案すれば喜んで従うだろう。
しかし、リリアはどうか。
保護した娘たちには、それなりの処遇を考えるつもりだった。
だが、いくらなんでも、養子の縁組までは用意できない。
他に代案はあるか。
「ですので……レヴァンシエル様。私は、何でも致します。どうか、ご要望を仰ってください」
「え……」
いつの間にか、ルーカスの隣でリリアは跪いていた。
膝に載せていた手の甲に、そっと、掌を重ねてくる。
「どういったことを好まれるのか、教えて、くださいませんか……?」
リリアの大きな瞳が伏せられる。多くはないが、睫毛も長い。
もう数年経てば、美人になるだろう。
「私は、14です。生まれは……サランの街です。北のほうです。二日ほどかけて、ここへ来ました」
ティメオはゆっくりと話し始めた。
4歳の頃に母親が病死したらしい。
父親と二人暮らしになったが、その父親が借金を作ると同時に酒浸りになり、食うにも困るようなった。
そこへ割の良い仕事と紹介されてギャレットへ売られた。
「借金も、ギャレットが肩代わりしてくれて……でも、こんな……」
ティメオは一度言葉を切った。
「仕事の内容まで、聞いてなかったので、最初は、驚きました」
娼館の業務内容を批判しそうになって、言い替えたようだ。
「私も14歳です。隣のリュート出身です。うちもティメオと似たような環境でしたけど……私は、知っていて来ました」
ルーカスはカップを傾けて、紅茶を口に含んだ。
彼女らの目の前で、ルーカスはポールに金貨を渡した。
ルーカスは高い金を払って新米を2人も買った珍客だ。
娼婦に同情する態度は不自然だ。
「ここで働けば、借金も返せるし、上流階級のマナーを教えてもらえると聞きました。それで、もし気に入って頂ければ、貴族の養子にしてもらえるって」
「貴族の養子に?」
ルーカスはカップを置く。
予想は正しかった。しかし、この2人は誘拐されてはいない。
「リリアは随分、前向きなんだな。しかし、養子になってしまったら、家族の元には帰れないだろう。貴族は体面を重んじるからな。実の家族とは縁を切らされる」
「あんな所には、帰りたくありません。だから、ここで頑張ろうって、決めたんです」
ルーカスは、複雑な心境になった。
娼婦になる道へ、希望を見出す者もいる。
それは一部では真実だ。
過酷な労働ではあるが、道を究めた者は稀に、名声や寵愛、莫大な富を得る。
だが……今回リリアが聞かされたであろう、貴族への養子縁組への道には裏がある。
聖女の選定に出されて、落選すれば、未来永劫、養子への路は絶たれる。
そうなれば未来への希望は、それ以上の絶望へと姿を変える。
ティメオは初耳らしく、「そうなんだ」とリリアに感心していた。
ルーカスは、今度は本題をどう切り出そうかと頭を悩ませた。
今話を聞いた限りでは、ティメオは、逃がしてやると提案すれば喜んで従うだろう。
しかし、リリアはどうか。
保護した娘たちには、それなりの処遇を考えるつもりだった。
だが、いくらなんでも、養子の縁組までは用意できない。
他に代案はあるか。
「ですので……レヴァンシエル様。私は、何でも致します。どうか、ご要望を仰ってください」
「え……」
いつの間にか、ルーカスの隣でリリアは跪いていた。
膝に載せていた手の甲に、そっと、掌を重ねてくる。
「どういったことを好まれるのか、教えて、くださいませんか……?」
リリアの大きな瞳が伏せられる。多くはないが、睫毛も長い。
もう数年経てば、美人になるだろう。
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