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陰謀

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 王都へ帰還し、オリヴィエは一旦、騎士団の寮へと戻った。

 だがすぐに、具体的には半日後、聖殿へ呼び出された。

 リリアとイレーネは、マダムクレアやフェルナンド子爵らの査問、容疑が固まれば裁判が終了するまで、証人として国教会に保護される予定だった。

 間もなく開催される聖女選定式に向けての準備で、聖殿は大わらわだった。

(もう、また選定式の時期ね……。今年は、聖女は現れるのかしら……)

 オリヴィエは聖堂の威厳と、佇まいに懐かしい感傷を覚えた。

 破れた夢は、まだちくりと胸に痛い。

 聖殿の隣には、神殿仕えの者たちの宿舎がある。

「おはようございます。聖騎士団、第1隊隊長補佐、オリヴィエです。昨日からお世話になっている、リリアとイレーネはいますか?」

 入り口を掃き清めていた職員に声をかけると、多忙であるにもかかわらず、愛想の良い返事が返ってくる。

「オリヴィエ様ですね。殿下から聞き及んでおります。お待ちしておりましたよ」

 2人の部屋に通されるかと思っていたら、中庭へ案内された。

 庭の草木が朝露に濡れて光っている。テラスの扉に近づくと、外から話し声が漏れ聞こえた。

「聖殿には関係者しか入れない。どのみち選定式にはリリアにも参加してもらうのだから、その時で良いだろう」

「違うわ。そうじゃなくて、私はレヴァンシェル様と一緒にいたかったんだもん」

「何も泣くことはないだろう。もう直ぐでオリヴィエが来るから……」

 会話の内容に、オリヴィエははっとした。

 声から察するにリリアとルーカスのものだろう。随分と親しげだ。

 職員の耳にも、2人の会話がはいったらしい。

「殿下。オリヴィエ様が到着なさいました」

 ルーカスは騎士団の団長だが、ここでは王子の敬称である殿下と呼ばれる。

 それだけ王室との関りが色濃い場所だ。

「良かった、オリヴィエ。待ってたんだ。とんぼ返りさせて悪かったな」

 ルーカスはオリヴィエを見るなり、ほっとしたような表情を見せた。

 隣を見ると涙目のリリアが縋り付いているので、心底弱っていたのだと分かる。

「いいえ、お呼び立てありがとうございます。それで、何かあったのですか?」

 オリヴィエが尋ねると、ルーカスはああと頷いた。

「朝様子を見に部屋を訪れたら、じっとしているのが苦痛だと騒がれた。俺は選定式警備の打ち合わせがあるからな。王都を案内してもらえないか」

 おはよう。とリリアに挨拶してから、オリヴィエは職員に礼を述べる。

 職員は一礼すると去って行った。

「王都の案内、ですか」

「昨日の今日で、普通なら疲れて寝込んでもおかしくないのに。一晩寝たらこの通りだ。若いからか、すごい回復力だな」

 ルーカスはやれやれ、とリリアを指さす。

 オリヴィエも確かに驚いているが……それはリリアの回復力に対してではない。

 ルーカスは暇だと騒ぐ少女相手に、首都の観光をさせるような、そんなタイプの男だっただろうか。
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