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聖女

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「温かいうちに召し上がっていただきたいので、食べ終わるまで、見守らせてください」

「まるで子供扱いだな」

 ルーカスはオリヴィエの胸中を図り切れないながら、苦笑した。

 どんな目的だったとしても、傍らに姿があるだけで心が温かくなる。

 オリヴィエはセルゲイに気を許しているようだが、自分のことも少なからず気に掛けてくれていると思えば、素直に嬉しい。

 リゾットは食堂の定番メニューだが、王城の晩餐で供されるものよりも美味な気さえする。

「ご加減が悪いと伺っていたのに、身体は大丈夫なんですか? そんなに根を詰めて、何かあったのですか?」

「身体は何ともない。少し気が滅入っていただけだ。だが、やはりこうして仕事をしているほうが建設的だと気づいた」

「それは……良かったというべきでしょうか?」

 オリヴィエは困ったように眦を下げた。

 職業依存の体質だと誤解されていないだろうか。

 ただ、ひとえにオリヴィエとの未来のためだ。

 お前を傍に置きたいから頑張っているんだ。

 そう、告げたらどんな顔をするだろう。

「王太子と団長の兼任は激務です。頼りないかもしれないけど、もっと私たちに仕事を振ってください」

「新米に心配させるとは、俺も焼きが回ったな」

「そんな、まだ、若いのに」

「そうだな、じゃあ先ずは、近いうちに1週間、スケジュールを調整して欲しい」

「1週間、丸々ですか?」

「気になる報告があってな。第3部隊の派遣されている、国境地域の調査に同行したい」

「第3部隊というと……」

「そうだ、お前の兄のクリストファーが赴任している。国境まで行くとなると少なくとも1週間はかかる」

 オリヴィエは頷いたものの、珍しく渋い顔つきをした。ルーカスは直ぐに理由を察した。

「安心しろ。今回はお前は連れて行かない。単なる視察だから部隊ではなく団長としての単体行動だ。クリストファーは随分と妹想いを拗らせているそうだな」

 オリヴィエは溜息で肯定した。

 シルバーモントの妹好きは度を越していると評判だった。

 彼は酔うと必ず、妹と結婚できない悲劇を滔々と語るらしい。

 だからオリヴィエの入団にも一役買っていたのかと思えば、違った。

 入団式の日、オリヴィエは家族から反対を受けたと話している。

「そうなんです。顔を合わせたら何を言われるか。兄には悪いですけど、赴任していてくれて、ほっとしている部分もあります」

「俺も……今でもお前には騎士団を辞して欲しいと思っている。だが、オリヴィエの覚悟も伝わった。お前はなかなか、根性があるし度胸もいい」

 ルーカスが褒めると、オリヴィエは意外そうに目を見開いた。

 それでも辞めてほしいと言い渡されて、落ち込んだのか、そのまま下を向く。

「危険に巻き込まれる前に、オリヴィエの気が済めばいいと願ってるんだ。クリストファーの気持ちも良くわかる」

 ルーカスは言い添えた。
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