やさしい・悪役令嬢

きぬがやあきら

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悪いのはわたくしですか?

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 マリアナ嬢が憂き目に遭っている原因も、辿れば同様のところにある。

 マリアナ嬢は子爵家の私生児で、子爵に引き取られる前は平民の学校へ通っていたため、あまり貴族間での規律を理解していない。

 事後に知った経過では、彼女は転校早々にタブーを犯した。

 この学院で最も身分の高い生徒である王太子殿下ルシアン様に、自分の身分を弁えずに声を掛けた上に名前を尋ねて、更には手を取ったらしい。

 そもそもはマリアナ嬢がルシアン様の前で盛大に転倒したことが発端で、ルシアン様は目前で負傷した女生徒を放っておけなかっただけだ。

 普通なら助け起こしてもらった礼を述べて、すぐにその場を去るところだが、彼女はそれをしなかった。

 美しい銀色の髪に宝石のような紫色の瞳。

 聡明な眼差しから溢れる高貴さと、学生服の上からもわかる鍛えられた長身の肉体。

 ルシアン様は、まるでおとぎ話から抜け出たような王子様そのものだったから、つい声を掛けてしまったのだろう。

「もうすっかり、綺麗になったわ。ありがとう、シャーレン嬢。わたくし、もう戻りますわ」

「でも……お痛いところはありませんか?」

「元から怪我などしていませんのよ。ね、2人とも参りましょう。わたくしのために、ありがとう」

 ほんの少し、右足首を傾け、爪先をトンと立てて、無傷であるとアピールする。

 わたくしがいつままでも医務室にいれば、マリアナ嬢が着替えに入ることができない。

 周囲にいる学友たちはわたくしを想ってこのような態度でマリアナ嬢に接しているけれど、本当ならルシアン様にも非がある。

 ルシアン様はマリアナ嬢の無礼を咎めもせず、名を告げた。

 その後も顔を合わせる度に、親しげに言葉を交わしている。

 わたくしからすれば”マリアナ嬢の行為をお許しになっているルシアン様も悪い”のだ。

「オデット様、そのようにささやかな仕草さえ蝶の羽ばたきのようですね」

 けれど当然、誰もルシアン様を責められないので、怒りの矛先は自然にマリアナ嬢に向かう形になっている。

 だからわたくしは、これ以上辛い仕打ちを受ける前にマリアナ嬢が理解できるよう、折に触れて忠告してあげているつもりだ。

 けれどマリアナ嬢はあらぬ誤解をしている。

 先ほどの口ぶりはまるで、わたくしがマリアナ嬢への嫌がらせを指示しているとでも言いたげだった。

「まあ、お上手ですこと」

 うふふ、と談笑しながら、わたくしたちは医務室を後にした。

 少し気が重いけれど、今日の課業が終了したら、一度ルシアン様に会いに行ってみよう。

 ルシアン様をお諌めできる立場の生徒は、この学院においてはほとんどいないのだから。
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