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37話 自由の選択
しおりを挟む黙って聴いていた來斗が口を開いた――
「俺は自分のわがままで不死になった、キーナと離れたくなかったから。でももし、許してくれるなら、俺もキーナのようにひとりで仕事がしたい」
來斗がそう言って私の手を握る、私は意表を突かれて沈黙する、桜ちゃんと直斗は相槌を打つ。
「まあそういう返事が返ってくるだろうと婆ちゃんと話してたよ。兄貴は否応なく両親の期待に応えてきた、無理してんなって、オレはずっと思ってた。だから反対はしないよ」
続いて桜ちゃんが応える――
「アタシも無理させてるって分かってたんだけど、どうしても言い出せなくてね、ごめんよ來斗。お前がそう決めたならアタシも反対はしない」
「直斗、婆ちゃん……キーナは、どう?」
どうと訊かれて私は困惑する――
もしかして、來斗の選択が女神のいう辛い思いなのかと思う反面、なぜかホッとしたような、煩わしさがなくなったような、少し気が楽になった自分に戸惑っている。
正直、あれこれ考えるのに疲れてしまった。
「うん、私も反対しないよ。頑張ってね」
「ありがとうキーナ、俺なりに頑張るよ」
「さあ、難しい話しは終わりだ、やっと疫病神がいなくなったんだ、これから皆んな自由に生きようじゃないか」
それぞれが、安堵したかのように佇む。
そして背負ってきた重荷を降ろしたかのように。
そういう私も――
――でもまだやり残したことがある、西側の件だ。桜ちゃんはどうするつもりなのか。
「なあ桜ちゃん、私がいうのもなんだけど、西側はどうするの?」
「ああそのことかい、西は閉鎖するよ、東に比べたら小規模だ、それに、研修会の役割りが主だったからね。もう皆んなこっちで働いてもらってるよ」
時は止まらず動いてる――來斗が目の下にクマがあるのは、毎日ステーションが慌ただしいからなんだろう。
それより、私も言いたいことがある。
「それと、桜ちゃんに直斗、ふたりには悪いんだけど、もうポリスには行かない。私も自分の仕事に専念したいからね」
暫し沈黙の後、桜ちゃんが口火を切った。
「ねえ直斗、アタシはさっき自由に生きようって言ったよね?」
「確かに。兄貴も自由にするんだ、キーナも自由にすれば良い。言ったろ? 今のままいいって。まあ、あわよくばポリスもってだけの話さ」
「良し、そうと決まればアタシもやることがある、直斗、帰るから送っとくれ」
「了解、じゃあなキーナ。お大事に」
そう言って桜ちゃんと直斗は帰って行った。來斗はまだやり残した仕事があると、意気揚々とステーションへと向かった。
私は少々呆気にとられたが、呆けている場合ではないと、さっそくノートパソコンを開き、依頼メールを確認する。
するとそこへ――
「キーナさん、目が覚めたって聞いて……あ、黙って入って来てごめんなさい!」
今にも泣きそうなリーフとルートが部屋に入って来た。
「ああ、遠慮しなくていいよ、ごめんね、心配かけて、もう大丈夫だから。そうだルート、また野菜スープが飲みたいんだけど、作ってくれる?」
「もちろんです! すぐに作ってきますね!」
満面の笑みでルートは足早に下の階へ戻っていった。側でそわそわと落ち着かないリーフ、私がソファに座るよう促すと、リーフもまた満面の笑みで遠慮なく座った。
私はこの際と、リーフに來斗の決断を話した。そして私の決断も。
「なあリーフ、お前達に探偵の仕事を与えておいて何だけど、來斗の新たな仕事をルートと一緒に立ち上げでもらいたいんだ」
突然の申し出に、リーフは釈然としない様子で訊ねる。
「――それはどういう意味ですか……?」
「そのままの意味だよ。シークレットスルースはあくまで仮の仕事なんだ。せっかく真っ当なファミリーの一員になったんだから、今度は人を助ける側に立ってほしいと思ってね」
「キーナさんは?」
リーフが私を見据える。どうしてそんなさみしげな顔をするのか、居場所は確保してあげたつもりだ。もう何も恐れることはない、気の合う直斗や桜ちゃんだっている、私に拘る必要はないと思う。
「私は見守るだけしかできない役立たずだ、それに、私にも仕事がある、他のことにかまけてる暇はないのさ」
その仕事も今や減少傾向だ。あれだけハンターに狙われたんだ、潰されると分かって依頼する馬鹿はいないだろう。女神もそれを見越していた。
ならばと、ひとりで世界を周ってみようと考えた。それには來斗をふたりに託す必要がある。
私の自由を確保するために――
「なあリーフ、これは私からのお願いと思って、來斗を支えてくれないか?」
「僕達はキーナさんと共に行動したいんです、補佐的なことではなく、請負人の仕事を一から教えてもらえないかって、ルートとふたりでお願いしてみようって、勝手で図々しいのは分かってますが……」
「お前達、そんなことを考えてたのか……」
勝手なのは私も同じだ――
今までは自分のことだけを考えていればよかった、でも今は、"不"が私の足を引っ張る。
不自由、不便、不合理。そうそう、不満もある意味その仲間か。
家族を持つ、仲間を持つ、愛を知ると群れたがる。同調、強要、関与、求めて求められて深みに嵌る。情とは厄介だ……。
「來斗さんには申し訳ないけど、僕達はいつだってキーナさんのことしか考えてませんから!」
「あ、うん、ありがとう――なら私もはっきり言おう、請負人の仕事は特別な能力があるから成り立つんだ。それに、ひとりのほうが勝手が効くし動き易い。もう分かっただろ?」
「見守ることしかできないってことは、何か特別な理由があるからですよね?」
その理由を語ることを私は躊躇う――
ふっと、友の言葉を思い出す。「お前の悲哀が大きかろうと、同情を乞おうとするな。なぜなら、同情は軽蔑の念を含んでいるからだ」って、厳しい顔で言っていたことを。
彼らにそんな念はないと思うが、それでも私に付いてこようとするだろう。
さて、どうやって説き伏せようか――
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