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7話 意図
しおりを挟むアルをガイドに王宮を観て回っていると、ふと背後に気配を感じて振り向いた。
「おおおっ! デカっ!」と私の第一声。
「やあ、こんにちは。君が紅くんかい?」
声を掛けて来たのは背の高い……おそらく人間。
私は思わず眼鏡をズラし下から上へパーンした。なんだこの後光が差したような金髪に金色まつ毛の超イケメンは。しかもブルーアイ。フランス人形かマネキンか、はたまたアニメの王子様か!
「おおお……うそ、マジ?」
私は今、瞬きを忘れてガン見状態。
「お、おい……?」
これは奇跡の創造か。人間を超越したこの美しさは正に異世界。そうか、これが別世界の物を初めて見た時の驚きと感動かあ……。
「……君、どうかしたのか?」
はい、興奮してます。自分の顔を見た時以来です。この感動を声を大にして言いたい。
「驚きは芸術だ!」
私の声に気付いたアルが、素っ頓狂な声を上げて迫って来た。
「ぬおおぉぉ! まてまて紅! 気を確かに! この方が団長のライノス・クレイドル様だ。申し訳ありません団長!」
「いや、構わないよ。ライノス・クレイドルだ。今回はこちらの不手際で不快な思いをさせてしまったね。大変申し訳ない」
後ろでリークが顔を赤らめ緊張した面持ち。
なるほど、この人が団長か。憧れるのも分かる気がする。見た目も才のひとつなんだろう。
「こちらこそ大変失礼致しました。私は紅と申します。この度は釈放して頂き、有難うございました」
「冒険者にしては随分と礼儀正しいんだね。そうそう、君の噂はアルから聞いているよ。良かったら我々の練習風景も見ていくといい。ではまた」
どうやら冒険者はお嫌いのようだ。まあ、身分も違えば住む世界も違う。当然と言えば当然か。
団長と別れて私はまた王宮巡りを楽しむ。そこへ真っ白な薄絹のドレスと生成色のローブを纏った女性が、執事とメイド、警護兵に囲まれて通り過ぎて行った。縦ロールの金髪が如何にも高貴さを醸し出す。しかし、華やかさとは掛け離れたドレスに、些か貧相を匂わす。
「なあ、アル。あの女性は王族の人?」
「ん? ああ、あのお方はフォティア王女だ。清楚で美しい方だろう? 兵士の憧れの的だ」
ほうほう。ならば――
「じゃあさ、あの団長さんが婚約者とか?」
お決まりのベストカップルは異世界の定番よ。
「お前よく分かったなあ。団長と王女様は幼馴染なんだよ。まあ、当然の成り行きだよな」
幼馴染ね。いつの間にかロマンス的なですか。
「でもよ~、どうも団長はその気じゃないらしくてな。周りからは疑問視されてんだよ」
「疑問視って、どんな?」
「だってさ、王女だぜ? 次期王は約束されてんだろ。しかも若くて美しい女性だ。文句の付け所なんて無いに等しい。にも関わらず、団長は素っ気ない態度を取る。疑問に思うのは当然だろ?」
そう言われると身も蓋もないけど、物語の設定なんて大体の相場は決まっている。
ありきたりなところで言えば、王座に興味がない、他に目的がある、タイプじゃない、既に彼女がいるとかね。複雑な設定なら、他に後継が居るとか、奇抜に団長は女性に興味がないとか。
私には全く関係ないんで、どうでもいい事なんだけど、一応、聞いてみた。
「例えばなんだけど、王女に兄弟がいるとか、団長は女性に興味ないとかは?」
アルが目を見開いて驚く。当たりかあ……。
「お前知ってたのか? 王宮の秘事だぞ。まさか平民にまで話が出回っていたとは……」
「違う違う、当てずっぽうだよ。だから例えばって言ったろ? で、どっち?」
「なんだそうかあ。えっと……実は両方」
「……えっ?」
ダブルかあ――これ絶対面倒くさいやつじゃん!
聞かなかったことにしよう。そうしよう。
私はさっそく話題を変えた。
「あのさ、ちょっと気になったことがあるんだけど、王女のドレスってもっとこう、煌びやかなもんだと思ってたんだけど、あれは普段着とか?」
アルが物哀しい表情に変わって話す――
「……うん、そうだよ。本当ならもっと王女らしいドレスもあるんだけど、民が衣類不足で困ってるのにって、着飾るのを辞めたんだよ……」
確か、衣類は貴重品だと言っていたのを思い出す。しかしも、衣類不足に陥った原因とは何なのだろう。お金の問題か、資源か取引か、信頼性か。
「そもそも、どうして衣類が貴重な物になったんだ? お金の問題か? それとも資源?」
「ああそれは、生産用ダンジョンの資源不足だ」
「生産用ダンジョン? 何それ……?」
アルの口から飛び出した初のダンジョン名に困惑する。生産と言えば物を産み出すことだと思うが、私の思い付く限り衣類の元になる物とは、綿花か麻、蚕の繭に羊毛くらいか。
それらがダンジョンにあるってこと?
「この国特有の魔獣が住むダンジョンなんだ」
「魔獣? えっ、魔獣が衣類? 意味わかんない。話し長くなりそう?」
「なんだよ、お前が振った話題だろうが。確かに長くはなる。じゃあ、先に練習場に行くか」
アルがそう言って歩き出した。お喋りに夢中で王女もリークも既に立ち去っていた。まあいいか。
アルに案内されて兵士達の練習場にやって来た。
かなり広い敷地に、大勢の兵士達が隊列を組んで、剣を携えて素振りの練習をしている。
そこには団長の姿もあった。どうやらリークは団長目当てで先に戻っていたようだ。
アルは少し離れて見学してくれと言って、仲間達の列に加わり練習を始めた。
王宮の見学は楽しいものだったが、私が兵士の練習を観なければならない理由は何なのだろう。
悪いけど、興味もないし楽しいとも思わない。これなら牢で旅の計画をしていたほうがずっとマシだ。せっかくの休日が台無しだ。
私がつまらなそうに呆けていると、団長が私に気付き近寄って来た。最悪。
特にダブルで面倒くさい団長とは関わりたくないので、どうぞお気になさらず!
「あまり剣術に興味はないのかな?」
「ハハ、ですね。そろそろ帰りますので、今日は王宮を見学させて頂き、有難うございました」
「まあそう言わずに、もう少し付き合ってくれよ。そうだ、私が剣の使い方を教えてあげよう」
なんでそうなる。今さ、丁寧にお断りしましたよね。とは言え、牢から出して貰った恩もある。
ここは団長の顔を立てるしかないか。
「はあ、団長がそうおっしゃるなら少し……」
「うん、良かった。ではこの剣を使ってくれ。ちょっと君には重いかも知れないが、まあ頑張って」
なぜ頑張らなければならないのだ。憂鬱……。
仕方なく、団長から差し出された剣を手に持つと、あまりの軽さにに驚いた。
種類にもよるんだろうが、練習用とは言え、これで鍛えられるのかと疑問に思う。怪力の私と比べてはいけないのかも知れないが。
「あのう、これは練習用だから軽いんですか?」
と聞くと、兵士達は手を止め私を睨んだ。余計なことを言ったようだ。失態――
「あ、あの、馬鹿にして言った訳では……」
「君の職業は?」
アル、何故そこの説明を省いた。面倒くさい。
「はい、樵です。いつもは斧を使っていますので、つい比べてしまって、すみませんでした」
斧と言う言葉に兵士達から失笑が漏れる。
私は笑われても構わないが、樵の仕事を馬鹿にして貰っては困る。
カイル達が馬鹿にされている様で腹が立った。
「ハァ。随分と舐められちゃいましたね。私の相手は誰ですか? それとも素振りで我慢しろと?」
「紅くん、彼らの無礼を許してやってくれ。まだ子供みたいなものなんだよ。その代わり、この中で一番強い奴と手合わせ願いたい」
「願いたい? しろとはっきり言えばいいじゃないですか。お望みとあらば私は構いませんよ」
私は団長のそれとない意図が見えた気がして、余計にイラついた。
仕方ない、たまには本気だすかあ……。
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