9 / 29
8話 団長!
しおりを挟む団長の意図――
私はある疑問を抱いた。それは私を牢へぶち込んだ馬鹿息子がこの騎士団の中に居たからだ。
私の考え過ぎかも知れない。しかし、こうも都合よく罪人を入れたり出したり出来るとは思えない。
示し合わせたと考えるのが妥当だ。しかも毛嫌いしている冒険者の私を、誇る騎士団の練習風景を見せたいと思うだろうか。
団長の意図か、それともただの偶然か……。
何が本当で何が嘘かは今はどうでもいい。だが、彼らはこの温厚な私の地雷を踏んでしまったのだ。
隆々とした筋肉をひけらかす男が私の前に立った。しかし私は敢えて拒否をする。
「団長にひとつお願いがあります。その屈強そうな兵士さんは後回しにして、私はあの彼と手合わせしたいのですが、宜しいでしょうか?」
私が指差すほうへ団長は顔を向けると、顔から笑みが消え、団長と兵士は相槌を打つと、黙ってその兵士を差し出した。
「紅くん。お手柔らかに頼むよ」
「承知致しました。さあ、今日は小さな刃物ではなく、慣れた剣で向かって来て下さい。遠慮なくね」
そう言うと、男は諦めたように眼光鋭く睨む。そして一礼して構えを取った。
「手合わせ、お願いします」
「こちらこそ、宜しく」
凛と張り詰めた空気が漂い、一陣の風を合図に、男は剣を振り下ろす――
「おりゃー! 俺を甘く見るな!」
私はその剣を指先2本で受け止め、男を見据え告げた。
「そうでした。甘く見た結果がこれですからね。貴族とは相当暇らしい。貴方には2度と怪我をさせたくないので、さっさと終わりに致しましょう」
私は一歩も動くことなく、指先に力を込めて剣を真っ二つに折ってやった。
男は驚愕とばかりに剣を凝視し、愕然とその場に膝を突いた。
「いや~、これは申し訳ない。斧とは違い、剣とはこんなにも脆い物とは知りませんでした」
そこへ時を挟まず、筋肉男が私の前に立ち開かる。やれやれ、待ての出来ない犬コロだ。
「お前、クソ冒険者だってな。俺のグレートソードはそう簡単には折れないぜ。せいぜい踏ん張りな」
筋肉男は自前と思しき大剣を肩に担ぎ、私を煽る。おそらくこの筋肉男は噛ませ犬。
誤魔化しの余興だ。
「では始めましょうか」
筋肉男は力任せに大剣を振り下す。私はまた指先2本で受け止めた。筋肉男はニヤリと笑って凄んだ。
「ヘッ、そうくると思ったぜ。このままオレ様の腕力でその細い腕を真っ二つに裂いてやる!」
「そうですか。なら早くやって下さい」
そう言われて筋肉男は大剣に力を入れるが、大剣はピクリとも動かない。顔や腕に血管が浮き出る。
「クッ、クソッ! 動かねえ!」
「ハァ、時間の無駄ですね。終わらせます」
私は女の必殺技、キンタマ蹴りをお見舞いすると、筋肉男は白目を剥いて泡を吹き昏倒した。
おっと、待てより先に伏せを教えてしまったようだ。これは失敬。
私は剣を投げ捨て、団長に歩み寄りながら――
「牢獄体験、どうもでした。では、ご機嫌よう」
と、一言メッセージを告げてその場を去った。傍らでアルやリーク、そして兵士達もただ呆然と立ち尽くし、成り行きを見届けていた。
私とて、ただ仕事だけに明け暮れていた訳ではない。いつかはダンジョンに潜らなければならないだろうと、私なりに鍛錬は積んできた。
その結果、殆どのステータスはマックスに達し、新しいスキル《ハンター》も獲得した。
これはあのギルドイベントで得たものだ。身体能力は自分で言うのもなんだが、尋常じゃないほどのレベルに達し、これで空が飛べたら完璧超人だ。
それはそうと、この茶番劇を仕組んだのはおそらく、団長と貴族の馬鹿息子、それとリークだ。
しかし確証はない。ただ、メッセージに対して何も語らずと言うことは、私の思い違いでは無かったと言うことだ。なんにせよ、彼らと関わりを持たなければいい話。
私は高い塀を飛び越えて、急いで小屋へと戻った。散々な一日とボヤきながら、日も暮れたので五右衛門風呂に水を溜め、薪に火を起こし、沸く間に洗濯でもと、上半身裸でせっせとシャツを洗う。
そこへカサカサっと足音が聞こえた。この辺りでは毎日のように、猪や熊、鹿などが出没する。
なのでいつもの事と、棒切れを片手に仁王立ちで構えていると、現れたのは……なんと団長だ!
「ぎゃああああー!! な、なななんでー!」
慌てふためきながら、タオルをわし摑み体を隠すも、既に時遅しで、団長は顔を真っ赤にして背を向ける。なんとも、一番関わりたくない男に女である事がバレてしまった。失態!
あ、そう言えば、団長は女性に興味がなかったような……。
「す、すまん! み、見てないぞ!」
ふむ。見てなかったらそこまで狼狽えたりしないよね。まあ、全裸でなかったので良しとしよう。
ちょっとポロリ的なあれですよ。あれ。
「ハァ。どうされたんですか、こんな所まで」
「い、いや、あの、ちょっと話しをと……」
まあ、私を男だと思っていたのだから、突然訪問も有りっちゃあ有りか。
だが、絶対的証拠を見られてしまったのだ、もう誤魔化しは効かない。必ず交換条件を出してくるだろう。さて、どうしたものか……。
しかしも、私のほうが冷静ってなんか変な感じだけど、せっかく訪ねて来てくれたのだから、あまり邪険にするのも可哀想か。ここは少し様子見だ。
「今お茶でもいれますから中へどうぞ。あ、薪の火を消して下さると助かりまーす」
「えっ、あ、ああ、分かった……薪ね、薪……」
私はすぐ着替えてお茶の支度をしていると、申し訳なさそうに団長が入って来た。おもろい。
「狭い所ですがどうぞお座り下さい。珈琲しか無くて、飲めますか?」
「あ、ああ、ありがとう。そ、そのう……」
なぜそこまで狼狽えるのか。ギャップによる拒否反応なのか。逆にこっちが戸惑うわ。
「ハァ。何か? 女性の裸くらい見たことありますよねー。まあ、ちょっとゴツいですが!」
「いや、そうではなくて、顔が、あの眼鏡を……」
「眼鏡? ああ、忘れてました。掛けたほうが落ち着くなら掛けますが……?」
「そ、そうしてくれると助かる……うん」
意外とシャイなんだ。私のイケメン顔も捨てたもんではないらしい。愉快愉快。
そんなことより、団長は何しに来たのだろう。それに、なぜ私の家を知っているのか。
「あの、よく私の家が分かりましたね?」
「ああ、バーグに聞いて来たんだ。彼はこの街のことなら大体のことは把握しているからね」
バーグか。ギルドマスターなら有りえる話だ。私のことは街の人達も知っているし、情報網を辿れば容易いことだろう。
「そうでしたか。それで、私に何か?」
「先に、牢屋の件を詫びたいと思う。大変申し訳ない。ドイルとリークに任せてしまったのがそもそもの間違いだった。素直に直接話せば良かったんだ」
「ドイル? ああ、あの馬鹿息子ですか」
「彼は団員の中でも真面目だけが取り柄みたいな男なんだよ。ああ見えて自分逃避が趣味らしくて、役を演じるというか、嫌な自分から逃れられるからと言ってね。気の弱い優しい奴なんだよ」
芝居にしてはやけにリアルに感じたけど、それだけ没頭してたってことか。相当現実逃避しないとあそこまで入れ込むのは逆に難しいと思う。
私はその名演技にまんまと騙された訳だ。ちょっと悪いことしちゃたかな。
「彼が騎士団に入ったのは、やはり家柄的な事情なんですかね? 親に言われて仕方なくとか?」
「そうなんだ。彼らを許してやってはくれないだろうか。私に出来る事があればなんでも言ってくれ」
私にとっては好都合。これで条件は五分五分になった訳だ。痛み分けって処か。
「なら、交換条件と言うことで宜しいですか?」
「交換条件とは?」
「あの、彼らを許す代わりに、私が女であることを秘密にしてい頂くことが交換条件です」
「ああ、そのことか。そんな交換条件などしなくとも口外などしないよ。君が男装するのには、それなりの訳があるのだろう? それを口外する権利も資格も私にはないよ。秘密は守る。安心してくれ」
「えっ、いいんですか? 本当に?」
「ああ、もちろんだ。それとこれとは別だ。他に何か出来ることはあるかい?」
こうも人の良さを全面に出されると、私もそうそう強気には出れない。アルやリークが慕うのも解る気はする。この上司的な包容力に魅了されたに違いない。ただ、まだ信用した訳じゃない。
私を貶めた理由を聞いてからでも遅くはないだろう。
団長に出来ることか……あ、ならパンツ下さい。
61
あなたにおすすめの小説
きっと幸せな異世界生活
スノウ
ファンタジー
神の手違いで日本人として15年間生きてきた倉本カノン。彼女は暴走トラックに轢かれて生死の境を彷徨い、魂の状態で女神のもとに喚ばれてしまう。女神の説明によれば、カノンは本来異世界レメイアで生まれるはずの魂であり、転生神の手違いで魂が入れ替わってしまっていたのだという。
そして、本来カノンとして日本で生まれるはずだった魂は異世界レメイアで生きており、カノンの事故とほぼ同時刻に真冬の川に転落して流され、仮死状態になっているという。
時を同じくして肉体から魂が離れようとしている2人の少女。2つの魂をあるべき器に戻せるたった一度のチャンスを神は見逃さず、実行に移すべく動き出すのだった。
女神の導きで新生活を送ることになったカノンの未来は…?
毎日12時頃に投稿します。
─────────────────
いいね、お気に入りをくださった方、どうもありがとうございます。
とても励みになります。
聖女の孫だけど冒険者になるよ!
春野こもも
ファンタジー
森の奥で元聖女の祖母と暮らすセシルは幼い頃から剣と魔法を教え込まれる。それに加えて彼女は精霊の力を使いこなすことができた。
12才にった彼女は生き別れた祖父を探すために旅立つ。そして冒険者となりその能力を生かしてギルドの依頼を難なくこなしていく。
ある依頼でセシルの前に現れた黒髪の青年は非常に高い戦闘力を持っていた。なんと彼は勇者とともに召喚された異世界人だった。そして2人はチームを組むことになる。
基本冒険ファンタジーですが終盤恋愛要素が入ってきます。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
底無しポーターは端倪すべからざる
さいわ りゅう
ファンタジー
運び屋(ポーター)のルカ・ブライオンは、冒険者パーティーを追放された。ーーが、正直痛くも痒くもなかった。何故なら仕方なく同行していただけだから。
ルカの魔法適正は、運び屋(ポーター)に適した収納系魔法のみ。
攻撃系魔法の適正は皆無だけれど、なんなら独りで魔窟(ダンジョン)にだって潜れる、ちょっと底無しで少し底知れない運び屋(ポーター)。
そんなルカの日常と、ときどき魔窟(ダンジョン)と周囲の人達のお話。
※タグの「恋愛要素あり」は年の差恋愛です。
※ごくまれに残酷描写を含みます。
※【小説家になろう】様にも掲載しています。
[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します
mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。
中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。
私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。
そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。
自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。
目の前に女神が現れて言う。
「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」
そう言われて私は首を傾げる。
「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」
そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。
神は書類を提示させてきて言う。
「これに書いてくれ」と言われて私は書く。
「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。
「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」
私は頷くと神は笑顔で言う。
「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。
ーーーーーーーーー
毎話1500文字程度目安に書きます。
たまに2000文字が出るかもです。
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
最強の赤ん坊! 異世界に来てしまったので帰ります!
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
病弱な僕は病院で息を引き取った
お母さんに親孝行もできずに死んでしまった僕はそれが無念でたまらなかった
そんな僕は運がよかったのか、異世界に転生した
魔法の世界なら元の世界に戻ることが出来るはず、僕は絶対に地球に帰る
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる