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9話 オファー
しおりを挟む突然の来訪者に正体を知られた私。しかしながら劣勢に立たされていないことに些か戸惑う。
団長がお人好しで女性に興味がないとのことで、私の恥じらいや羞恥心はもはやナッシングだ。
それにしても、あの馬鹿息子が生真面目で気が弱いとは驚きだ。なら次回は最強ヒーローに挑戦か。
しかーし、悪役は無くてはならない脇役なので、どうかそのまま頑張って。
それはさておき、団長が部下まで巻き込んで私に近付いた理由を、是非とも話して貰わなければ。
「団長のお心遣い、大変嬉しく思います。それはそうと、わざわざここへ謝罪に来られただけではないんですよね?」
「まあ、そう堅苦しい話し方はやめにして、もっとフランクに話そうではないか」
友達感覚で良いってことかな。ではめっちゃフランクで行かせて頂きましょうか。
「じゃあ、ふたりの時は名前で呼んでもいい? そうだなあ、ライノスだから、ライってのはどう? フランク過ぎ?」
団長は少し頬を赤くして、クスクスと笑う。
「ククッ。君は面白くてチャーミングな女性だ。ああ構わないよ。なら私も紅と呼ぼう。よろしく紅」
チャーミング。聴くことも稀だし、キュートのほうがまだ活用法があると思う。
歯の浮くような言葉にちょっと引く。私みたいな擦れた女子には、洗剤のネーミングにしか聞こえない。そのイケメンに免じて聞き流してやろう。
「フッ、よろしく、ライ」
「う、うん……」
なぜ顔を赤くして口元を隠すのか。貴族の礼儀?
もうこの際、シャイボーイとして命名しよう。
「それでライ。私に話って?」
「あ、ああ、コホンッ」
ライが咳払いを合図に話しを始めた。
「では質疑応答方式で進めよう。この国にはある特有の魔獣が存在する。その魔獣を生産用ダンジョンで飼育している」
そうだ、アルが生産用ダンジョンのことを少し話していた。確か、この国特有の魔獣が住んでいるとか。そもそも、生産用ダンジョンとは一体何なのかも私は知らない。先ずはそこからだ。
「その生産用ダンジョンから詳しく教えて貰いたいんだけど、冒険者が入るダンジョンとは違うの?」
「ギルドで教わらなかったのか?」
ギルド?
そうか、冒険者登録する時に説明されるのか。マンモ騒ぎで逃げ出してしまったから聞いていない。ここは適当に誤魔化そう。
「聞いたような聞かなかったような……ハハ、なので面倒でも説明お願いします!」
蔑みの眼差しと、今にも溜め息を吐きそうな面持ちで、本当に面倒くさそうにライが話を始めた。
「ハァァァ……」
溜め息長いよ……。
「一般的な冒険者ダンジョンと、この国にしか存在しない特別な生産用ダンジョンがある」
「ほうほう、それで?」
「我々はその特別なダンジョンで、代々受け継がれた飼育法を使うことによって、この国は栄え保たれているんだよ」
「じゃあ、この国はその伝統の飼育法で生計が成り立ってるってこと?」
「そうだ。魔獣の吐き出す衣類の素材が要さ」
そう言えばアルが魔獣が衣類とか言っていた気がする。吐き出す衣類の素材といえば……糸。
なら魔獣ってもしかして、蚕?
「ねえ、その魔獣ってこう、ウネウネするムチムチとした生き物っすか?」
「ん? ああ多分そう。魔獣の名をシルクウォームと言うんだ。知ってるのかい?」
知ってるもなにも、嫌いな部類の生き物だよ。
なるほど、何となく読めてきた。
「吐き出すって糸のことだよね? なら衣類はこの国から出回ってるの? 原産国?」
「紅は随分と難しい言葉を知っているんだね。もしかして、こういった話しに詳しいのかな?」
詳しくもないし、難しい言葉もよく知らないけど、旅行マニア知識として、行った先々の村や町で、そこでしか採れない物を売って生計を立てている所は多々ある。それがこの国では大規模に行われているんだろう。そこへ何らかの障害が発生して、衣類不足に陥った。
「知ったかぶりです。で、衣類が減った理由は?」
「以前にもあったんだが、冒険者がダンジョンから魔獣を乗り物代わりに連れ出し、そのまま放置して逃げてしまってね。その魔獣が近年、国が大切に育てている草木を荒らしにやって来るんだよ」
なんだろう。それと似たような話しをどこかで聞いたような……。
「我々も警備を強化しているんだが、未だ及ばずなんだ。まったく、冒険者の身勝手な振る舞いにも困ったものだ」
そうか、だから団長は冒険者を毛嫌いするのか。異世界も前世と変わらず、モラルを弁えない人間も多く居るのだろう。
「その大切な草木って何に使うの?」
「シルクウォームが唯一食べる大切な木なんだ。それと、他に栽培している植物もあってね。今では半分以下に減少してしまっている……」
「なるほどねえ。話しをまとめると、衣類の大元である魔獣の餌を確保することが最大目的な訳ね。でもなんで私が必要なの?」
「あの伝説のマンモを倒したのは紅だろ? アルから話しを聞いてね。だから今回も、信頼できる君に魔獣駆除を頼めないかって事になったんだよ」
思い出した。カイルと出会った時、マンモが害獣になった経緯の話。それと同じ事がまた起こったということか。
ライが苦悶の表情で暫し俯き、口を開く。
「実は、国王が衣類不足は急務を要すると、至急打開策を講じるよう命を受けたんだ。なんとか協力しては貰えないだろうか。ダンジョンで魔獣討伐を経験した君に手を貸し欲しい」
私、アルにペーパー冒険者って言わなかったかなあ。ちょっと雲行きが怪しくなってきましたよ。
今更ダンジョン未経験者とか言えないし、でも信頼されちゃってるし、話し聞いちゃったし、パンツは欲しいし……やっぱ騙くらかす戦法で。
「えっと、最近は仕事が忙しくてね、ほとんどダンジョンには行ってないのよ。だからその……お役に立てるかどうか……ねえ、ハ、ハハ」
「うん。それでも紅に来て欲しい。駄目かい?」
ああ、暴力的顔面武器と激甘口説き文句に撃沈。
「ハァ、そこまで言われちゃあ仕方ない。いいわ。パンツのためならどこまでも! エイエイオー!」
「お、おう……パンツ?」
「そうパンツ……ん?」
パンツ。色や形は数あれど、素材となるとそう多くはないはず。いま私が持っている限りでは、支給品のシルクパンツと綿のパンツ。
だとすると、魔獣も2種類いるのだろうか。はて。
「あのさあ、ライの穿いてるパンツって綿?」
「い、いきなりだなあ。綿だけど、なぜ?」
「もしかして、魔獣も2種類いるとか?」
「ああ、そういうことか。綿はレグールと言って、草木専用地で栽培しているんだ」
なるほど。綿も前世と同じで栽培方式なんだ。
私的にはシルクパンツより綿パンのほうがお馴染みなんで、勝負パンツを必要としない私には、是非へそまでの綿パンを作って頂けたら幸いです。
今は旅行計画よりパンツが急務。これは放っては置けない事案なのだ。
あ、乗り物になる魔獣って、なに……?
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