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第1章 チュートリアル
4限目 粘菌生物(スライム)
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階段を下りながらスーがタグについて質問する。
「ところで先生のタグ,紫だったんですね。たしかタグの位は五段階あって,下から『白(スライム)』『緑(テンタクル)』『黄(グリフォン)』『青(クラーケン)』『赤(ドラゴン)』ですよね。
大体このくらいならその魔物が倒せるって目安になっているんでしたっけ?
別枠で魔力に特化した人に『紫(デーモン)』でしたよね」
「そうなっているね。また教科書を食べたのかな? やめようね」
「まぁいいじゃないですか。ところで先生は”デーモン”を倒せるってことですか? すごいですね!」
「いや,それは僕たち“人種”の思い上がりだよ。魔物にだって個体差はあるし,命を奪うことに線引きをするなんて傲慢なことだよ……」
クゲツは思いつめたような顔で答える。
クゲツとスーに沈黙が流れる。
(スーが黙るなんて珍しいな。僕の言ったことをしっかり考えてくれているといいけど。)
クゲツはそう考えながら歩を進めると,気づけば階段を下り終え一本道になっていた。
「意外と広いですね。こうやって二列で歩いても余裕で人とすれ違えますよ。
迷宮なんていうからもっと狭苦しいものだと思ってました」
スーはキョロキョロと周りを見回す。
「それに何故か明るいですし照明要らずですね」
壁はレンガ造りになっておりその間から、地上に近いからかコケや植物が生えている。
地上で浴びた太陽光により発光する植物がツタを張り巡らせているため遠くも見えるし,足元が不鮮明になることもない。
「向かいから人が来たら挨拶するんだよ」
クゲツが言い終わらないうちにスーが
「先生! 光る草がありますよ! 学会に激震が走りますか!」
とか
「先生! 文字が彫られていますよ! これは考古学界に新しい風を吹かせるんじゃないですか!」などと騒いでる。
その植物は特に迷宮では珍しくないし,その文字は誰かの落書きだよとクゲツは言おうと思ったが,スーが楽しそうなのでやめておいた。
道中魔物には出会わず,初心者冒険者が道に迷っていたり,手練れの老婆が薬草を採取したりしていた。
数分程度進み,周囲に迷惑にならないよう配慮しながらクゲツが口を開いた 。
「ではスライムを探しを始めます。スライムはどんな所に生息していますか? ハイ,スーさん」
「うわっ,ヌルっと始まりましたね。スライムだけに」
「……えー,スライムは主に――」
「わわわ! 冗談です冗談! “日の当たらない多湿な場所”ですよね?」
「分かってるならすぐ答えてよ? 野外講習2時間で申請してるんだから」
「はーーーい」
〇スライム
粘菌が多量の水分と魔力で自由に動けるようになった不定形生物。
知能は高くなく捕食できない物でも誤飲する。
冒険者がスライム狩りをするのは経験のためではなく,誤飲した硬貨目当てであることがほとんどである。
クゲツは手のひらの上に,水が入った容器の中に魚の形した物を浮かせた羅湿盤といわれる道具を出し,スライムを探していく。
この魚が向いた先は魔力と湿度が高いため,スライムがいる可能性が高い。
数分歩いたところで遠くに一匹のスライムを見つける。蛍光黄緑に光っている。
「あっいた! あの光ってるのそうですよね! なんかレアっぽいですけど学会案件ですか?!」
「鼻息荒いとこ申し訳ないけど,スライムは捕食したもので体表組織が変わるってのは基礎知識では?」
とクゲツは呆れながら答える 。
「はははー……,その項目食べ覚えがないなー」
なんてやり取りをしているとスライムが狭い横穴に逃げていく。
スーが追って横穴によじよじ入っていく。「おいっ!」クゲツも腹ばいで入ってく。
そうしていると開けた場所に出た。広さと暗さが手伝い空間の端まで見通せない。
「綺麗……」
とスーが天井に見惚れている。
「ちょっと急に走……,これはすごい――」
そこはスライムの巣(粘菌なので正しくは同一の個体)になっており,天井には様々な色に光り輝くスライムが張り付いていた。さながら満天の星空のようだった。
「スライムが一か所に集まり巨大化するのは聞いたことがあるが,一体化せずに別々の個体として群れのように形成しているのは初めて見たな……」
「えっ? 先生も見たことないの? すごいすごい! 本当に大発見じゃん!」
スーが無邪気に飛び跳ねる。
クゲツが「大きな声を出しちゃ――」と言い終えるかどうかのタイミングで天井のスライムのうち何匹かがスーの顔めがけて跳んで来る。
「?!(息ができない……)」
クゲツが慌ててそばにより,手に意識を集中させ加熱した魔力の手袋を纏う。
「ごめん、少し熱いよ」
そう言ってスライムごとスーのえら骨のあたりを手で覆う。
するとスーの顔面に被さっていたスライムが熱に耐えかね急いで跳び退けた。
「大丈夫かい? ケガはない?」
クゲツがやさしく聞く 。
「げほっっ,ごほっ……,ありがとうございます……」
むせているが大丈夫そうだ。
スーの背中をさすりながらクゲツは講習を続ける。
「……スライムによる最も多い死因は?」
「溺死です……」
「その理由は?」
「……スライムは近くにいる生物の呼吸を察知し,捕食できそうなら口と鼻にまとわりつくからです……」
「そうだね。ここは比較的安全といえ迷宮なんだ。次同じことが起きても僕が助けられるかわからない。気を抜いちゃだめだよ」
とスーをたしなめると,
「とはいえ、君を止められなかった指導員の僕の責任でもある。気を付けるよ」
とクゲツも反省をする。
パニックになると人種は浅い水たまりでも溺れてしまうことがある。
であれば,その水たまりが意思をもったのならどれほど危険なのだろう。
特に闘う手段を知らず技術ももたない子どもは,どう抵抗すればよいのだろう。
“スライム”は,最も迷宮の内外問わず生息する魔物であり, 知識の無い者を容赦なく餌として捕食する。
故に,冒険者が初めて経験を積むのに相応しい魔物なのである。
「……迷宮でのクゲツ先生は,冷静で,なんでも知ってるんですね。もし,アタシが冒険者として一人でここにきていたら死んでたかもしれない……」
スーが肩を震わせポロポロ涙をこぼす。小さなスライムが涙を吸いに地面に寄って来る。
「何でもは知らないさ……,過去に知ったことしかね……」
クゲツは昔自分もスライムに襲われメイビに助けてもらった事を思い出した。
その時メイビは ,
「いいかい,スライムに襲われて力ずくではがそうとしても無駄だ。なんでもいいから魔力で対応するように。
スライムは主な成分が水分だから掴んで引きはがすのが難しい。じたばたするうちにあっという間に死んでしまう。
一人で助かるには難しいこともある。正しい対処を学ぶように。いざという時仲間や自分を守れるようにね」
暗い顔をしながら言っていた。
……。
スーの肩を抱き寄せ背中をさする。
「アタシの両親もこうやって死んだんでしょうか……アタシもいつかこうやって一人で死ぬんでしょうか」
スーが弱音を吐いた。
「いいかい。そうならない為にスーは僕の下で学んでいるんだろう? なら魔物に殺されることなんてないさ。未熟なうちは僕がいるし一人になるときは君は立派な僕の卒業生だ。大丈夫さ」
クゲツが励ましスーも落ち着いた様子で
「先生は優しいですね」
とこぼした。
瞬間,迷宮が大きく揺れる。
「なんだ?!こんなときに“組み換え”か?」
クゲツが焦る。
しばらくすると揺れが収まる。
が,クゲツから十トロル(トロールの足に換算し十歩分)は離れた床の一部にひびが入る 。
そのことに気づいたと同時に床を突き破り何かが這い上がってくる。
「こんな時に勘弁してくれよ……」
クゲツがそう言うのも無理はない。
そこには大きな雄たけびを上げ口から火花を散らすいわゆる“ドラゴン”が佇んでおり,こちらを睨んでいた。
「ところで先生のタグ,紫だったんですね。たしかタグの位は五段階あって,下から『白(スライム)』『緑(テンタクル)』『黄(グリフォン)』『青(クラーケン)』『赤(ドラゴン)』ですよね。
大体このくらいならその魔物が倒せるって目安になっているんでしたっけ?
別枠で魔力に特化した人に『紫(デーモン)』でしたよね」
「そうなっているね。また教科書を食べたのかな? やめようね」
「まぁいいじゃないですか。ところで先生は”デーモン”を倒せるってことですか? すごいですね!」
「いや,それは僕たち“人種”の思い上がりだよ。魔物にだって個体差はあるし,命を奪うことに線引きをするなんて傲慢なことだよ……」
クゲツは思いつめたような顔で答える。
クゲツとスーに沈黙が流れる。
(スーが黙るなんて珍しいな。僕の言ったことをしっかり考えてくれているといいけど。)
クゲツはそう考えながら歩を進めると,気づけば階段を下り終え一本道になっていた。
「意外と広いですね。こうやって二列で歩いても余裕で人とすれ違えますよ。
迷宮なんていうからもっと狭苦しいものだと思ってました」
スーはキョロキョロと周りを見回す。
「それに何故か明るいですし照明要らずですね」
壁はレンガ造りになっておりその間から、地上に近いからかコケや植物が生えている。
地上で浴びた太陽光により発光する植物がツタを張り巡らせているため遠くも見えるし,足元が不鮮明になることもない。
「向かいから人が来たら挨拶するんだよ」
クゲツが言い終わらないうちにスーが
「先生! 光る草がありますよ! 学会に激震が走りますか!」
とか
「先生! 文字が彫られていますよ! これは考古学界に新しい風を吹かせるんじゃないですか!」などと騒いでる。
その植物は特に迷宮では珍しくないし,その文字は誰かの落書きだよとクゲツは言おうと思ったが,スーが楽しそうなのでやめておいた。
道中魔物には出会わず,初心者冒険者が道に迷っていたり,手練れの老婆が薬草を採取したりしていた。
数分程度進み,周囲に迷惑にならないよう配慮しながらクゲツが口を開いた 。
「ではスライムを探しを始めます。スライムはどんな所に生息していますか? ハイ,スーさん」
「うわっ,ヌルっと始まりましたね。スライムだけに」
「……えー,スライムは主に――」
「わわわ! 冗談です冗談! “日の当たらない多湿な場所”ですよね?」
「分かってるならすぐ答えてよ? 野外講習2時間で申請してるんだから」
「はーーーい」
〇スライム
粘菌が多量の水分と魔力で自由に動けるようになった不定形生物。
知能は高くなく捕食できない物でも誤飲する。
冒険者がスライム狩りをするのは経験のためではなく,誤飲した硬貨目当てであることがほとんどである。
クゲツは手のひらの上に,水が入った容器の中に魚の形した物を浮かせた羅湿盤といわれる道具を出し,スライムを探していく。
この魚が向いた先は魔力と湿度が高いため,スライムがいる可能性が高い。
数分歩いたところで遠くに一匹のスライムを見つける。蛍光黄緑に光っている。
「あっいた! あの光ってるのそうですよね! なんかレアっぽいですけど学会案件ですか?!」
「鼻息荒いとこ申し訳ないけど,スライムは捕食したもので体表組織が変わるってのは基礎知識では?」
とクゲツは呆れながら答える 。
「はははー……,その項目食べ覚えがないなー」
なんてやり取りをしているとスライムが狭い横穴に逃げていく。
スーが追って横穴によじよじ入っていく。「おいっ!」クゲツも腹ばいで入ってく。
そうしていると開けた場所に出た。広さと暗さが手伝い空間の端まで見通せない。
「綺麗……」
とスーが天井に見惚れている。
「ちょっと急に走……,これはすごい――」
そこはスライムの巣(粘菌なので正しくは同一の個体)になっており,天井には様々な色に光り輝くスライムが張り付いていた。さながら満天の星空のようだった。
「スライムが一か所に集まり巨大化するのは聞いたことがあるが,一体化せずに別々の個体として群れのように形成しているのは初めて見たな……」
「えっ? 先生も見たことないの? すごいすごい! 本当に大発見じゃん!」
スーが無邪気に飛び跳ねる。
クゲツが「大きな声を出しちゃ――」と言い終えるかどうかのタイミングで天井のスライムのうち何匹かがスーの顔めがけて跳んで来る。
「?!(息ができない……)」
クゲツが慌ててそばにより,手に意識を集中させ加熱した魔力の手袋を纏う。
「ごめん、少し熱いよ」
そう言ってスライムごとスーのえら骨のあたりを手で覆う。
するとスーの顔面に被さっていたスライムが熱に耐えかね急いで跳び退けた。
「大丈夫かい? ケガはない?」
クゲツがやさしく聞く 。
「げほっっ,ごほっ……,ありがとうございます……」
むせているが大丈夫そうだ。
スーの背中をさすりながらクゲツは講習を続ける。
「……スライムによる最も多い死因は?」
「溺死です……」
「その理由は?」
「……スライムは近くにいる生物の呼吸を察知し,捕食できそうなら口と鼻にまとわりつくからです……」
「そうだね。ここは比較的安全といえ迷宮なんだ。次同じことが起きても僕が助けられるかわからない。気を抜いちゃだめだよ」
とスーをたしなめると,
「とはいえ、君を止められなかった指導員の僕の責任でもある。気を付けるよ」
とクゲツも反省をする。
パニックになると人種は浅い水たまりでも溺れてしまうことがある。
であれば,その水たまりが意思をもったのならどれほど危険なのだろう。
特に闘う手段を知らず技術ももたない子どもは,どう抵抗すればよいのだろう。
“スライム”は,最も迷宮の内外問わず生息する魔物であり, 知識の無い者を容赦なく餌として捕食する。
故に,冒険者が初めて経験を積むのに相応しい魔物なのである。
「……迷宮でのクゲツ先生は,冷静で,なんでも知ってるんですね。もし,アタシが冒険者として一人でここにきていたら死んでたかもしれない……」
スーが肩を震わせポロポロ涙をこぼす。小さなスライムが涙を吸いに地面に寄って来る。
「何でもは知らないさ……,過去に知ったことしかね……」
クゲツは昔自分もスライムに襲われメイビに助けてもらった事を思い出した。
その時メイビは ,
「いいかい,スライムに襲われて力ずくではがそうとしても無駄だ。なんでもいいから魔力で対応するように。
スライムは主な成分が水分だから掴んで引きはがすのが難しい。じたばたするうちにあっという間に死んでしまう。
一人で助かるには難しいこともある。正しい対処を学ぶように。いざという時仲間や自分を守れるようにね」
暗い顔をしながら言っていた。
……。
スーの肩を抱き寄せ背中をさする。
「アタシの両親もこうやって死んだんでしょうか……アタシもいつかこうやって一人で死ぬんでしょうか」
スーが弱音を吐いた。
「いいかい。そうならない為にスーは僕の下で学んでいるんだろう? なら魔物に殺されることなんてないさ。未熟なうちは僕がいるし一人になるときは君は立派な僕の卒業生だ。大丈夫さ」
クゲツが励ましスーも落ち着いた様子で
「先生は優しいですね」
とこぼした。
瞬間,迷宮が大きく揺れる。
「なんだ?!こんなときに“組み換え”か?」
クゲツが焦る。
しばらくすると揺れが収まる。
が,クゲツから十トロル(トロールの足に換算し十歩分)は離れた床の一部にひびが入る 。
そのことに気づいたと同時に床を突き破り何かが這い上がってくる。
「こんな時に勘弁してくれよ……」
クゲツがそう言うのも無理はない。
そこには大きな雄たけびを上げ口から火花を散らすいわゆる“ドラゴン”が佇んでおり,こちらを睨んでいた。
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