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第5章 暴虐の戦神

23限目 青タグの戦闘

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 落下する四人。 

 地面が近づく。 

 「ど、どうするんですか先生?!」 

 スーが半ば悲鳴のように叫ぶ。

 「まぁまぁ慌てずに」 

 それでもクゲツは落ち着き 

 「“我に自由をエルゴ・ヴォラーレ!!”」 

 そういうとクゲツの周りが青緑に発光し、クゲツの砂よけのマントが羽根のようになり滑空する。 

 スーがホッと胸をなでおろす。 

 「な、なるほど! ああやって落下するのか!」 

 「安心しろってトロイ!」 

 青ざめた顔のトロイにヨウライが親指を立てる。 

 「頼んだぜ、ヨウラ――」 

 勢いよく砂上に落下する。 

 爆発でも起きたかのように砂が舞い上がる。 

 クゲツとスーは静かに着地する。 

 「……ヨウライ先生、トロイくん……」 

 スーが手を合わせる。 

 「ぶはっ! 勝手に殺すな!」 

 砂を吐き出しながら地中から這い出てくるトロイ。 

 「だっはっは! どうだ? スリル満点だったろ?」 

 豪快に笑いながら、砂煙の中から足を魔力で強化していたヨウライが現れる。 

 広々とした洞窟のような地形。 

 足場はむき出しの岩場のような場所が多いが、入り口は砂のたまり場になっており、 
 人通りが多い場所は多少歩きやすく整地されている。 

 今いる場所から、四方に下る様に洞窟が広がっている。 

 遠くからどたどた走ってくる音が聞こえる。 

 大きなサソリが走ってくる。 

 それを冒険者数人が追っている。 

 「あんたら逃げろ! スコーピオンがそっちに行ったぞ!」 

 冒険者の一人が声をあげ、みんなそれぞれに構える。 

 「ここは任せな」 

 ヨウライが前に出る。 

 スコーピオンがヨウライに向かい尾の針を刺そうとする。 

 「この位置なら大丈夫か」 

 ヨウライの胸部に針が突き刺さる。 

 小さな悲鳴がスーとトロイから上がる。 

 「見おきなさい。青タグ冒険者の戦闘を」 

 倒れないヨウライに、両腕のハサミをスコーピオンが振るう。 

 それをヨウライが両腕で受け止める。 

 「貰うぜ! お前の魔力と両腕!」 

 ヨウライの体に橙の魔力が漲る。 

 スコーピオンの両腕を引きちぎる。 

 スコーピオンが逃げようと尾を引き抜こうとするが抜けない。 

 ヨウライがバリバリとハサミを食べる。 

 「ペッ」 

 殻を吐き出す。 

 背負っていた剣を抜く。 

 そしてスコーピオンの首を両断する。 

 スコーピオンが外骨格を残し霧散する。 

 「ヨウライは前世の記憶を含め、自分の致命傷を完全に理解している。 
 そしてほぼ持っていなかった魔力を魔物から吸収することで戦闘に応用しているんだ」 

 呆気にとられる二人。 

 「ははは、参考にはならない戦闘スタイルだし、無傷なわけじゃないんだけどね。」 

 「あー! だから全身傷だらけなんですね!
 凄く強いだろうに傷だらけなの不思議に思っていたんですよね」 

 スーが合点が言ったように叫ぶ。 

 「痛ってえなぁ!!」 

 剣を納めヨウライが叫ぶ。 

 「痛いんかい、ならなんでワザワザ受けるんだよ?」 

 トロイが首を傾げる。 

 「当たり前の疑問だよなー」 

 「魔物の攻撃には魔力が込められてんだよ、俺は魔法を使えないからそれを吸収して魔力を補っているてわけ」 

 ヨウライが解説する。 

 「おおーなるほどな、全く参考にならん」 

 トロイがクゲツの方を向きながらそう言う。 

 クゲツは「だから言ったじゃん」という顔をしている。 

 「まぁ参考にはならんわな。
 ただなお前たち、これだけは覚えておけ。
 魔物を仕留めるときは首か心臓だ」 

 「「おおー!」 

 スーとトロイが歓声をあげる。 

 「熟練っぽくてかっこいいです!!」 

 「それなー!いいなー!俺も言ってみてぇ!」 

 ヨウライが自慢気に腕を組む。

 「あんた刺されてたけど大丈夫かい?」 

 「お前強いなぁ!!」 

 「でかい剣と顔面は見掛け倒しじゃないみたいだな!!」 

 「倒してくれてありがとな~!!」 

 冒険者たちがワイワイ集まってくる。 

 「傷に関しては問題ない、それと顔は余計だ」 

 ヨウライが冒険者たちに囲まれそれぞれ対応する。 

 「俺たちはこいつの外骨格を売りに上がるが、売値の半分あんたにやるよ」 

 「管理人に渡しとくから出るとき受け取ってくれ」 

 「気を付けて潜れよ~」 

 冒険者達がそう言い残し立ち去る。 

 「おう! ありがとな!」 

 ヨウライが声をあげる。 

 「さて」 

 冒険者たちを見送り、クゲツが口を開く。 

 「今回僕らは魔物との戦闘によほどのことがない限り、手を出さないから二人とも頑張ってね」 

 クゲツがさらりと言う。 

 「えぇ~先生たちの手助けは無しですか?」 

 「クゲツの魔法無しかよー」 

 二人から抗議の声が上がる。 

 「当たり前だろ、お前らがどれだけ成長したか見るために来てるんだから、俺たちが手を出したら意味がないだろ」 

 ヨウライが厳しく言う。 

 「まぁ危なくなったら僕らが助けるからあまり重く考えないで」 

 と言ったクゲツが先導し進み始めようとすると、大きな揺れが起こる。 

 次々と地面から大きな岩の壁が隆起する。 

 「こんな時に組み換えか?!」 

 「んな馬鹿な?! 数百年は起きてねぇだろ?!」 

 「先生!!」 

 「立ってられねぇぞ!!」

 それぞれの反応を見せ、一行は分断を余儀なくされた。
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