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異世界生活

19 月光草

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 森の中を奥へ奥へと入っていく俺とヴォルフ。ヴォルフが道を分かっているって言ってるから大丈夫だとは思うけど、これだけ奥に入るとなんだか不安になってくるな。

「大丈夫だ。この辺りは何度も入ったことがあるから心配すんな」

 そう言って迷いなく道を切り開いていくヴォルフ。ジョズさんからのお使いで、よくこの辺りには来ていたそうな。

「ぼちぼち魔力が濃くなる場所に入るから、油断すんなよ」

 そう言って注意を促すヴォルフ。でも魔力の濃さってどうやって判断するんだろう。

「魔法に長けた奴は感覚でわかるらしいが、俺はその辺はあんま詳しくねぇ。けどな、この草みてぇに魔力の濃い所では植生が少し変わってくるんだよ」

 ヴォルフが草を1つちぎって見せてくれる。が、さっぱり分からない。

「あったりめぇだ。そんな簡単に識別されたんじゃこっちの立場がねぇよ」

 少し得意げな顔をしながらそう言うヴォルフ。ちょっと子供っぽくて可愛い。
 しばらくそのまま歩みを進めると、少し開けたところへと出てきた。

「おっ、ここだここだ。この辺りは月光草の群生地になってんだよ。月光草の放つ匂いは、狂暴な魔物ほど苦手とする奴が多くてな。休憩所にもなったりしてるんだ」

 目の前に広がる少し青い光を放つ不思議な草。それが一面に広がっていてとても綺麗だ。その周りを見渡せば、確かに誰かが使ったのであろう机やいす代わりの丸太や岩などが置かれている。

「へー、月光草ってこんな綺麗な草だったんだ」

 俺はその中の1つを毟って手に取ってみる。すると青白い光はすぐに消えてしまった。

「あー、そんな取り方じゃダメだ。ちゃんと土ごと根をとってやんねぇと、すぐに薬効が切れちまうらしい」

 なるほど。ヴォルフに言われた通り、今度は用意していたスコップで土ごと掘り返す。すると光は若干弱ったものの、確かに未だ保ったままであった。

「掘り返した月光草は、徐々にその薬効を失っていく。だから採集したら、これを出来るだけ早く持ち帰らねぇといけねぇんだ」

「え、じゃぁメタリックスライムを探している場合じゃないんじゃ……」

「まぁ本来ならな。でもお前にはあれがあるだろ?」

 そう言ってニヤリと笑うヴォルフ。

「あ、アイテムボックスか」

「そうだ。あんまり新鮮過ぎても怪しまれちまうが、まぁその辺りはうまい事ジョズ爺さんに調整してもらえば大丈夫だろう。爺さんからも出来るだけ薬効の高いものをたくさん持って帰るように言われているしな」

 なるほど、これはジョズさんからのおつかいも兼ねていたのか。そうと分かればさっさとこの草を集めてしまおう。
 それから俺たちは小1時間ほど使って、月光草を掘り返していった。これだけ掘り返しても、月光草はまだまだたくさん生えている。どんな生命力なんだろう。

「魔力の濃いとこなら、割とまとまって生えてることが多いからな。全てを根こそぎ持って行ったりしねぇ限りはまたしばらくしたら元に戻ってるよ。まぁこいつらのおかげで冒険者たちも森の中の狩りが出来ているといっても過言じゃねぇからな、月光草様様だってよく言われてるよ」

 ふーん。なんだかゲームっぽい感じもするけど、まぁきっと魔力とかが絡んで、地球とは違う生態をしてるんだろうなぁ。

「まぁこんぐらい集めときゃ十分だろう。ちょっと休憩したら、待ちに待ったスライム探しにでも行くとしようぜ」

 おぉ! 遂に楽しみの時間がやってきたわけか! でも、メタリックスライムって、そんな簡単に見つかるもんなんだろうか。

「ん? あぁ、見つけるだけならそれほど難しくはねぇんだよ。ちょっと面倒な準備はいるがな。ただ倒すとなったら……まぁそこはやってみりゃ分かんだろう」

 意味深な発言をしつつ、休憩の準備に取り掛かるヴォルフ。しかしヴォルフがカバンから取り出したのは――

「寝袋?」

 なんでこんな昼間っからこんな場所で寝袋なんて……。まさかヴォルフ。普通のセックスに飽きてしまって、野外をご所望だったのだろうか……。
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