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終わり
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セレナの死を知ったエリスは、そのまま精神を病み弱って行った。
「食事をしないと」
「いらないって言っているでしょう!!」
仕事にならない……。
足手まとい……。
誰もがそう思っていた。
そして……それに気づいていた。
「もう、いい!! 私の居場所なんてないんだから!!」
どれだけ必死に追いかけようとしても、手が届く事は無く、遠く、遠く、一分、一秒、時が進ごとく私から離れて行った。 どうしても追いつけない。
だから……落としてしまえと思った……。
落ちた……。
でも……
「こんな事、望んでいない」
エリスは実家に帰される事が決まった。
ユーリと共に。
婚約破棄も仕方がないとしたが、今のエリスが余りにも可哀そうだからユーリはエリスについて行くことに決めたと言う。
「同情なんて要らない」
「早く、元気になれ」
「うるさい……いつまで私に付きまとうのよ」
なぜか……泣きたくて……泣きたくて……どうしようもなくて……私は布団をかぶった。 布団の上から乱暴に撫でられる頭が……切なかった。
オルエン商会は、血縁の無い幹部が引き継ぐ事になったが、そう長く続く事は無いでしょう……フォレスター侯爵の保護が失われれば、違法行為に対する過去の見逃しの全てが押し寄せて来るでしょうから。
夜風が心地よいバルコニーに私はいた。
私の本来の色、プラチナブロンドの髪が揺れる。
「綺麗ですね」
「えぇ、月明りにうつる花も綺麗ね」
「花の事ではなく、貴方ですよセナ」
今日クレイは、フォルスター侯爵家の跡継ぎとなる。
私が死んだ日から2年の時が経過していた。
表舞台に出るまでは、それだけの時が必要だったのだ。
私は、セナ・モンテスと今は名乗っている。 フォルスター侯爵家の配下にあたるモンテス子爵家の隠し子として受け入れられた。
「貴方を妻に出来る日が来るなんて……」
そう言ってクレイは私を背後から抱きしめる。
「そんなに自分に自信がなかったのですか?」
「違いますよ。 余りにもワザとらしくナイフを見せつけたからです。 バレるんじゃないかってひやひやしましたよ」
2年の間、何度となく言われた言葉。
「しつこい男は嫌いです」
あの日、私は最初から死を偽装するつもりで、懐に血を仕込み、ナイフを見せつけたのだ。 いわくつきのナイフであれば、飛びついてくるのは分かっていた。 後は揉みあい切られた振りをすればいい。
エリスは、感情的になる子だから。
私の分身。
私達は2人で1人。
誰よりも良く分かっている。
私が居なくなったと荒れたエリスは、今はユーリと共に王都から離れた地で田畑を耕している。 貧乏だけど……平和な日々を送っているらしい。
私の葬儀を上げた両親は……私を覚えていなかった。 領地経営で年に2.3か月は一緒にいたのだけど、両親は私ではなくエリスとして私を理解していたから……。 私の顔なんて覚えていない。
体格の良く似た身元不明の女性死体に、あの日、血に濡れたウィッグをかぶせた。 死ぬまでに苦しんだから顔立ちが変わってしまったと言えば、両親はソレを信じた。
そう言う人達なのだ……。
そう言う人達は、慣れた贅沢を放棄できずに……領地を売り渡し贅沢に溺れ、今は何処にいるか分からない。 きっと……生きてはいないだろう。
「そんなぁ~、私はこんなに貴方を愛していると言うのに……酷い人だ」
じゃれ合うように耳にささやき、口づけ、クレイは笑う。
幸せ。
「これから、もっと幸せになるよ」
クレイは笑う。
感謝しよう。
私ではなくエリスを選んでくれた事を……。
私、もっと、もっと幸せになります。
終わり
「食事をしないと」
「いらないって言っているでしょう!!」
仕事にならない……。
足手まとい……。
誰もがそう思っていた。
そして……それに気づいていた。
「もう、いい!! 私の居場所なんてないんだから!!」
どれだけ必死に追いかけようとしても、手が届く事は無く、遠く、遠く、一分、一秒、時が進ごとく私から離れて行った。 どうしても追いつけない。
だから……落としてしまえと思った……。
落ちた……。
でも……
「こんな事、望んでいない」
エリスは実家に帰される事が決まった。
ユーリと共に。
婚約破棄も仕方がないとしたが、今のエリスが余りにも可哀そうだからユーリはエリスについて行くことに決めたと言う。
「同情なんて要らない」
「早く、元気になれ」
「うるさい……いつまで私に付きまとうのよ」
なぜか……泣きたくて……泣きたくて……どうしようもなくて……私は布団をかぶった。 布団の上から乱暴に撫でられる頭が……切なかった。
オルエン商会は、血縁の無い幹部が引き継ぐ事になったが、そう長く続く事は無いでしょう……フォレスター侯爵の保護が失われれば、違法行為に対する過去の見逃しの全てが押し寄せて来るでしょうから。
夜風が心地よいバルコニーに私はいた。
私の本来の色、プラチナブロンドの髪が揺れる。
「綺麗ですね」
「えぇ、月明りにうつる花も綺麗ね」
「花の事ではなく、貴方ですよセナ」
今日クレイは、フォルスター侯爵家の跡継ぎとなる。
私が死んだ日から2年の時が経過していた。
表舞台に出るまでは、それだけの時が必要だったのだ。
私は、セナ・モンテスと今は名乗っている。 フォルスター侯爵家の配下にあたるモンテス子爵家の隠し子として受け入れられた。
「貴方を妻に出来る日が来るなんて……」
そう言ってクレイは私を背後から抱きしめる。
「そんなに自分に自信がなかったのですか?」
「違いますよ。 余りにもワザとらしくナイフを見せつけたからです。 バレるんじゃないかってひやひやしましたよ」
2年の間、何度となく言われた言葉。
「しつこい男は嫌いです」
あの日、私は最初から死を偽装するつもりで、懐に血を仕込み、ナイフを見せつけたのだ。 いわくつきのナイフであれば、飛びついてくるのは分かっていた。 後は揉みあい切られた振りをすればいい。
エリスは、感情的になる子だから。
私の分身。
私達は2人で1人。
誰よりも良く分かっている。
私が居なくなったと荒れたエリスは、今はユーリと共に王都から離れた地で田畑を耕している。 貧乏だけど……平和な日々を送っているらしい。
私の葬儀を上げた両親は……私を覚えていなかった。 領地経営で年に2.3か月は一緒にいたのだけど、両親は私ではなくエリスとして私を理解していたから……。 私の顔なんて覚えていない。
体格の良く似た身元不明の女性死体に、あの日、血に濡れたウィッグをかぶせた。 死ぬまでに苦しんだから顔立ちが変わってしまったと言えば、両親はソレを信じた。
そう言う人達なのだ……。
そう言う人達は、慣れた贅沢を放棄できずに……領地を売り渡し贅沢に溺れ、今は何処にいるか分からない。 きっと……生きてはいないだろう。
「そんなぁ~、私はこんなに貴方を愛していると言うのに……酷い人だ」
じゃれ合うように耳にささやき、口づけ、クレイは笑う。
幸せ。
「これから、もっと幸せになるよ」
クレイは笑う。
感謝しよう。
私ではなくエリスを選んでくれた事を……。
私、もっと、もっと幸せになります。
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