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一章 ロリコン、金髪、時々ヤンデレ
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しおりを挟む「よぉ、平凡」
「あぁ、だれかと思えば、ロリコンですか」
後日談と言うか、その後のくだらない話。
結局、私はあれから2週間たった後も、私はこの大学に来ていた。ネットで私の名前を見るようなことなど勿論なく、それどころか同姓同名の別人が凄い偉人だったことを知り、自分が如何に平凡かを思い知らされていた。食堂は相変わらず賑わっており、私は変わらずチキンカツ定食を頬張っていた。
「その言い草はヒデェな、お前の計画に乗って人を集めてやった恩人に対してよ」
「その分の対価は払いましたよ」
「あれももとはおれの二百万じゃねぇか」
そう言いつつ、彼は笑いながら、綺麗な所作で私の前に座る。音もたてず着席するのを見ると、彼の存在感だけが浮き彫りになったと錯覚させられる。
「まぁ、あの日、お前がもう一度俺に話掛けにきた時は、頭が沸いたのかと思ったがな。大体、俺をどうやって見つけたんだか。しかも、人集めをお願いしたいとか」
「自慢じゃないんですが、私は人集められるくらい人望なんてありませんし、誰かに頼むしかなかったんですよ」
「それでどうして俺を?」
「御剣さん、金持ちみたいでしたので。金に人は集まりますから」
「いい推理だ」
彼は笑いながら、苺牛乳を飲んでいた。所作が綺麗すぎるため、飲んでるものすら高級品に見える。ゆっくりとした手つきで、苺牛乳をテーブルの上に置くと、私に一枚の写真を手渡す。
「あの時の写真だ。見ておく義務がお前にはある」
受け取った写真には、堂島さんがマットの上で、ドッキリ大成功のプラカードを掲げていた。その眼はひたすら困惑に包まれており、周りにいるたくさんの大学生が彼女にスマートフォンを向けていた。
「全部、嘘っていうことにしておいたぜ」
「そうですか」
「あいつは何も言わなかった。お前からの伝言を伝えたら、その写真をブログにのせてたしな。この時の画像もSNSで飛び交ってんだろ」
「興味ないです」
「しっかし、いくら何でも全部嘘は都合が良すぎるだろ。笑い話にもならねぇ」
「それでも、そう望む人がいれば、それは真実なんですよ」
彼女がそうするしかないのは分かっていた。本来、第三者に私の家に来たことを知らせる目的の仕込みはもう6月13日に警察を介して完了している。それなのに、彼女は6月14日に再度私の家に来た。そのことから察するに容易い。
チキンカツはもう一切れになっていた。次の講義の時間までには余裕があるが、前もって着席はしていたい。だが、その前に確認しておきたいことがあった。
「それよりも、私が言うのもなんですが、よく私に協力をしてくれましたね」
そんなに良い印象を互いに持ち合わせてはいなかったと思うのだが。
「いや、そもそも協力なんてしてないぜ。お前の話を聞いて、それがどんだけ素っ頓狂で荒唐無稽かは分かってた。だからお前の勘違いだったら腹抱えて笑ってやろうって思っただけさ。だが、お前の方が真実だった。だから、その、なんだ、つまんねぇって言って、悪かったな。お前は十分おもしれぇ」
「別に気にしていません」
「いや、俺が気にするね。なんか欲しいものあるか? 買ってやるよ」
そう言って彼は、嗤う。発言で私を試しているのは丸わかりだ。意地が悪い。
「では、聞きたいことが。貴方はこの大学に知り合いは多い方ですか?」
「まぁ、勝手にすり寄ってくる奴らはいっぱいいるぜ」
「その中に、私と堂島さんのことを噂していた人はいますか?」
「あ? そういやお前から話聞くまで堂島の名前なんてすっかり忘れてたな。あんなレベル、この大学にはゴロゴロ居やがるし」
「そうですか、ありがとうございます」
「・・・へぇ、噂してた奴がいんのか」
「邪推はよくないですよ、御剣さん」
私はそう言って、最後のチキンカツを口に放り込み、飲み込んだ。彼に、軽く頭を下げ、席を立つ。
「今度また、面白そうなことがあったら言えよ。協力してやる」
「そんなに何度もないですよ、こんなこと」
それは誰に向けての言葉かはよく分からなかった。
◆
「あ、ミヤ。こんにちは、です」
フランス語の講義が行われる小教室に行くと、既にラフィーさんが席に座っていた。この人が席に座っているだけで、教室がシルバニアファミリーみたいに思える、金髪碧眼美少女って不思議。
「こんにちは、ラフィーさん。早いですね」
「よみたい、しょうせつがあった、です」
「へぇ、なんてタイトルですか?」
「ドグラマグラ、です」
「猟奇的すぎる」
私の隣人はそんな奇書をういういと読みしげる。瞳はいつもよりも爛々と輝いていた。
今日の気温は暑い。教室内は冷房が効いている為、それほど暑さは感じられないが、教室の窓から見える景色は、暑さを物語るように、容赦ない日照りが降り注いでいた。
「ラッフィシェルト・ドットハークさん」
「? フルネーム呼び、キモイです、ミヤ」
「前に話してくれましたよね、私と堂島さんが噂されてるって。散々、SNSとネット探しても噂なんかされてなかったんですよ。あの噂、誰から聞いたんですか?」
瞬間、彼女は本で口元を隠した。本で口元を隠し、こちらを見つめてきた。そして、小首を傾げる。
「そんなこと、言ってない、です。ミヤは、忘れん坊さん、です」
「そうでしたか。すいません、私の勘違いだったみたいです」
今日の気温は暑い。教室内は冷房が効いている為、それほど暑さを感じずにいたのだが、教室の窓から見える景気から、日光が侵食を始めていた。
彼女が言ってないというのであれば、それは事実だ。例え、本で隠した口元が三日月のように笑っていたとしても、彼女は言ってない。
『だからあの人の言う通りにお前をこの大学から消し去るって決めた!!』
堂島さんの言葉が不意に蘇る。
最悪の推測は成り立つ。むしろ、私の心はどこかで言う。彼女が私の人生において、最大の強者であり、避けて通れない敵であると。
だが、そんなのは関係ない。彼女自身が、まだ、私を潰そうとしていないなら、
「ラフィーさん、お詫びに今度、私のおすすめの小説貸しますよ」
「ばっちぃので、いい、です」
「辛辣すぎる」
この優しい嘘の関係は、まだ続く。
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