ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな

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 話を聞くと、確かにアラスターは数年前マホチェク村へ行っていた。冒険者の護衛付きでだ。その時の人数や何処で休息をとったかなどを細かく尋ねて、己の持つ情報と照らし合わせる。

「ダチの弔いなぞ殊勝なこって。お前がそんなタイプだったとはなぁ」

 アラスターは皮肉げに唸った。彼もナダの行方不明については知っているので、村へ向かうというニコラの意図を察したようだ。

「違うよ。てかダチじゃねぇし。おれの食いぶちに関わる、ビジネス的な事情なのだ」
「何がビジネスだ……。にしても、お前みたいな駆け出しがよく調査依頼に参加できたじゃねぇか」
「いんや、バッサリ拒否られた。だから一人で行くことにしたよ」
「なにぃ?阿呆ぬかすな!」

 この辺りに広がる森や丘は恵み豊かで、その分魔物も多い。半日やそこらで行って帰ってくるならともかく、新米の冒険者が単身で一晩過ごすのがどんなに危険な行為か…。そんな事は冒険者でなくとも、この土地に生活している者なら誰もが得ている常識であった。

「そもそも、今は人手をかき集められてんだろうが。それにくっついてきゃいい話じゃねぇか。何のためのギルドだ?」
「だよな!今のを受付のおばはんに言ってやってよ、旦那」
「どういうこった?」

 ニコラはけんもほろろに断られた時の受付嬢の対応を話して聞かせた。そこからうっすらと感じとれるのは、この件に対するギルドの消極的な姿勢。
 Dランク一人では無茶でも、CやBランクの者が同伴すれば外での活動は制限されない。むしろそうやって一人前になっていくのが望ましいとされている。

「本当に人手がいるんなら、おれみたいにクソ真面目で意欲満点の人材はむしろ引き入れるべきだろ。低ランクを数合わせに使うなんて、いつもやってんだからさ。なのに今回は…」
「単にお前じゃ役不足って話でねぇかそりゃ。…要は、ギルドの連中も本腰入れる気はないって言いてえのか」

 カウンターの椅子によっこいしょと座りながら、アラスターは眉間に皺を寄せた。

「困ったもんだ。いずれにせよ、ギルドがそう言うんならお前の出る幕はないってこった。無茶はやめときな。行って戻るほどの仕度ができるってのか?」
「分かってるけど……」

 冒険者となって2年目。己で稼ぎ、自由にできる金を得ることができたが、懐は常に寂しい。冒険者として最低限の装備はあっても、マホチェク村へ向かうとなるとそれなりの準備が要る。何とかなるが、数日は食い詰めざるをえない大打撃だ。
 おのれじいさん。んなこた言われずとも身にしみてますがな…。反論の術がなく黙るしかないニコラへじいさんは追い討ちをかけた。

「どうにも抜けてやがるからなぁ、お前は。同じDランクでもそれこそナダみたいなしっかり者なら、付き添い許可もでたかもしれんが」
「何だと!そのしっかりもんの誰かさんは、行方知れずなんですが!?」

 愛想笑いをかなぐり捨ていきりたつニコラに、アラスターはやれやれと白髪頭をかいた。
 殆ど同じ時期に冒険者登録をしたニコラにとって、ナダと比べられるのは煩わしい事この上なかった。実直で気持ちのいい人となりをしたナダの評価は、たいていニコラよりも高い。

 …おまけにギルドで受けた適性検査では、ニコラの第一志望であった「剣士」認定を受けたり(自分は斥候だった。おれだってロングソードで訓練したかった、くそう)、アイテムボックスという優秀なスキルを持っていたり(容量は少ないから大したものじゃない、とかぬかしやがる。おれは少ないどころか皆無じゃい)、まさに目の上のたんこぶみたいな野郎である。
 まったく忌々しい。レイクブルーベルだって本当は、アイテムボックスがあるなら他人の手を借りずとも独り占めできるものを。それをあいつは…。

 いらいらと顔を顰めていると、店の外から「ごめんください!」と男の声が上がる。客人…いや、患者か?

「あん?何だってんだ今日は」
「何って、旦那の仕事でしょうや。開けてきてやるよ」
「めんどくせぇな」

 アラスターはぼやきつつも止めないので、ニコラはドアに歩み寄って開けた。軽装の旅人らしき若い男が、困りきった表情で立っている。

「やってるよ。どうぞ」

 ニコラが声をかけるも、男はますます困ったように踏みとどまって治療院内を見回した。

「ええと…診察をお願いしたくて。すみません、他の患者さんの事もあるので、ここで失礼します」
「は?」

 勢い良く門を叩いてたくせに、どうした事か。子供相手へやたらと腰の低い男を妙に思っていると、そいつの手もとで灰色の物体がモゾモゾしているのが目に入った。
 うわ、なんだそいつ。ニコラが何かを口にする前に、背後からアラスターの声が飛んできた。

「診察されたいのか、されたくないのか?そんなとこで何を診ろってんだ。用があるなら、さっさと入ってこい」
「はいっ!」

 男はアラスターの乱暴な声かけにすっかり恐縮して、慌てたように中へ入る。

「あの、診てほしいのは自分じゃなくてコイツなんです」
「それなに?ネズミ?」
「ネズミだあ!?」

 ニコラが思わず覗き込み尋ねると、それを聞いたアラスターは一転して怒声を上げた。ポヤポヤ毛玉の影から見える黒い小さな羽。どうやらコウモリのようだ。

「プラムバットです…ネズミじゃなくて」
「んなっ!!この阿呆、なんてもん持ち込みやがる!ここは治療院だぞ!」
「す、すみません!非常識とは分かってるんですが、俺ではどうにもできなくて!」

 男は入ってきたばかりの戸口へすっ飛んでいき、元の位置に戻って必死に謝りだした。確かに治療院にコウモリってのはまずいけど…そんなにペコペコしなくて大丈夫だぜコウモリマン。見ての通り、患者なんてゼロだから。

「俺の従魔で、昨日から調子が悪いんです!診察が無理なら、せめて症状を聞いてもらえないでしょうか」
「はぁ…悪いがね、管轄外だ。俺がどうにかできんのはちょっとした貧血だのムチウチだので、しかも人相手だ」

 プラムバットって、スライムにも引けを取らない弱小魔物の一つだよな…。そんなものを従魔にするとは、ずいぶん物好きな魔族である。それともニコラが知らないだけで、魔族ならではの使い道があるのだろうか。いや、どんなだよ。
 段々興味の薄れてきたニコラだが、その場を後にしようにもコウモリ男は出入り口でアラスターと粘っている。そこ通りたいんだけどな、と思ったその時、男が空いてる手で懐から包みを取り出した。ジャラッと硬質な音がする。

「こいつは外で待たせられますから、問診だけでも。先にこれ、お支払いします。お願いします!」
「分からんやっちゃな…。症状を聞いたところで、コウモリ相手に何をどう判断しろってんだ」

 ニコラの目線は包みに釘付けになった。包みの隙間からきらめく黄金色…おそらく貴金属だ。必死だ、この男。コウモリ1匹に、金に糸目はつけないというのか。
 にしても、このじいさんときたら。話を聞くだけ聞いて頂いちまえば良かろうに!くれるってんだから。

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