ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな

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「おれの事情」などと言われちゃ、赤の他人の俺が止めるのは憚られる。危ないからやめなさいなんて言うのは簡単だが、相手は冒険者ーー危険を伴う仕事で生計を立ててる者だ。
 ……。

「だが断る」
「え~っ」
「どう考えても無茶だって。友達は心配だろうけど…それこそ、今Cランク冒険者たちが向かってるんだろ?その人たちに任せるべきだよ」
「ぜんぜん友達とかじゃねーし!ただの同業者。このまま身元不明じゃ、大事な取り決めがパァだから困ってんの。行くしかないじゃん…!」

 最後はため息混じりでそう溢すニコラくん。
 彼は他の冒険者とパーティを組んでなんとか強制依頼に参加しようとしたものの、上手くいかなかったらしい。そもそもギルドに招集された人手は魔物の捜索と掃討が目的で、街に住む少年の安否を追うものではないと。なんと世知辛い。
 しかしそれはそれ、これはこれである。どうしても行くというなら止める義理はないが、向こう見ずの片棒をかつぐのはごめんだ。

「血をどうこうは断るけど、昼飯なら奢るよ」
「うぅー…」

 俺はそう提案するも、ニコラ少年はあからさまに肩を落として見せた。折角の金ヅル、ここで捨て去るものかとその目が言っている。参ったな。

「ホラ。屋台でもお店でもいいから行こう。この街は初めてなんだ、何処かいいとこある?」
「………んじゃ、こっち」

 不貞腐れたような顔で通りを指差すと、ニコラ少年は先導して歩きはじめる。取り敢えずはかわせたようで、少しホッとした。
 美味いもんいっぱい食えよ、少年。


ーーー


 流石、地元の子だ。ここへやって来たルートとは全く違う路地を迷いなく進み、いつの間にか街の大通りへと戻ってきていた。
 案内されたのは通りに面したレストランで、いかにも人気店といった店構えだ。入り口から覗ける店内は、がやがやと人で一杯だ。

「ここの肉団子シチュー、めちゃくちゃうまいんだ。奮発すればパンもフワフワのやつ出してくれるぜ」

 肉団子のシチュー。名前だけで、なんて美味そうなんだ。店先の一角にはテイクアウトの受け渡し口があり、器を手にした数人が野外で舌鼓をうっている。
 ニコラくんが注文し、程なくして2人前を受け取る。大きな器に盛られたトロトロのシチューに、真っ白な丸いパンが添えられている。たまらない香りだ。

 店先で並んで頂く。立ち食いそばならぬ、立ち食いシチューか。

「中に入らなくて良かったのか?」
「いいよ、混んでるし。大体、そのチビすけがいたら入れないじゃん」

 嬉しそうに大きな肉団子を掬い上げながら、ニコラくんがおはぎを視線で指す。チビすけはカバンの上で丸まって眠ったままだ。
 どうやら気を使ってくれたようだ。

「なぁ、あんたって何してる人?どうしてプラムバットなんて引き連れてんだ?」
「あーっと…コイツとは成り行きで従魔になったんだ。知り合った魔族に唆されたというか」

 俺は言葉を選んで口ごもる。正直に「荷運び中です」と告げても、色々と訝しがられるだろう。荷物はどこだ、どうやって運んでるのだ、と尋ねられるのも不毛だ。

「ちょっと事情で家に帰れなくなったから、住みやすいっていうキーストリア王国を目指してるんだ」
「住みやすい……ふーん。なんか大変なんだな」
「君こそ、チームも組まずにその歳でソロの冒険者なんだろ?」

 たった一人で冒険者の道を選んで生きている少年にいささか気後れを感じてそう言うと、彼は今気がついたという感じで「あ。おれニコラね」と自己紹介を挟んだ。なので俺も「シマヤです」と軽く名乗る。

「ソロっていうか、独り立ちしてるわけじゃないんだ。いつもは色んなパーティの下っ端してんの」

 駆け出しとして受けられる依頼をコツコツこなし、Dランクにまで上がったニコラ。ここから更に一人前となるには、護衛や討伐の依頼をこなすパーティに付き添い、経験を積まないとならない。
 生憎現在は、強制依頼のせいでそういった付き添いができなくなっているらしいが。

「野球やってるんだよな?メンバーはみんな冒険者なの?」
「いいや、おれともう一人だけ。あとは色々だよ。あちこちの話が聞けて便利なんだ。どこそこの店が人手不足になるかもとか、どこだかの商隊が来るだとか」
「あぁ、そういう…」

 身を立てる傍らで子供らしい遊びをしているのかと思いきや、そんな現実的な理由もあったとは。なるほど。考えてみれば、ギルドとは違う筋で己の身になりそうな情報を得られる場なのかもしれない。
 投手は肩を壊すと聞くから、冒険者業に支障が出そうだと思ったが…その辺りはきちんと考えているみたいだ。

「投げてるのは洗濯屋の跡取り。コントロールはイマイチだけど、すげぇ速いぜ」
「へぇー。チームはいくつあるんだ?」
「んーと……6くらいかな。大人のも入れると、もっとあるな」

 そんなに…!野球が盛んな街だ。気にした事なかったが、これまで訪れてきた街にも野球チームってあったのだろうか。
 熱々の肉団子を頬張ろうとした手を止めて、ニコラがそっと呟く。

「本当はすぐに試合があったんだけど、一人抜けやがったから…しばらくヤキューも中止だ。ったく、迷惑な話」

 あぁ、そうか。行方不明となったのは彼のチームメイトなんだったな。

「その…友達も街の子なんだよな?どこかに出かけているだけだったりしないのか?」
「友達なんかじゃないってば」

 何故か執拗に強調して、ニコラはシチューに浸したパンにムシャムシャがっついた。微かに浮かんでいた寂しげな様子が、冷めた仏頂面へすり替わってしまう。

「もう7日も姿を見てないし、ギルドに問い合わせたら依頼を受けてる訳でもなかった」
「家族とか、一緒に住んでる人は?」
「身寄りは祖父さんだけだって言ってた……。その祖父さん、マホチェク村に住んでんだ」
「それって…」

 件の村の名前じゃないか。
 なんてこった。ならそのチームメイトは、お祖父さんの安否を確かめに村へと行ってしまったのでは。同じ考えなのか、ニコラも仏頂面のまま沈んだ声で続けた。

「片っ端から知り合いを当たったけど、誰にも言伝を残してなかった。あいつ、急に街を出たんだ」

 村の襲撃があったのは、9日前だと推定されてるらしい。そんな時期に街の外へ飛び出したとなると、やはり村にいる祖父を案じての行動である可能性は高い。
 そして未だ戻らずだ。俺は押し黙る他なかった。

「ちょうど村が封鎖されたのも7日前くらい。村には調査で冒険者がいるから、そいつらと鉢合わせて上手いこと同行してる場合だってある」
「そ、そうか…」

 ニコラは希望を捨てていない。考えてみれば、強制依頼のせいで辺りには冒険者がわんさか駆り出されているのだ。どこかで保護されているかもしれない。冒険者ではなく魔物に鉢合わせている可能性も、同じくらいあるが…。
 しかし街にいるだけではなんの情報も入ってこず、ただやきもきと待つしかない。そんな7日間ですっかり業を煮やしたニコラは、一人で確かめに行こうとしているのだった。
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