ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな

文字の大きさ
126 / 130

3

「二重遭難」の文字がデカデカと頭に浮かぶ。早まるんじゃないと言いたい所だが…彼自身そんなリスクは分かっているのだろう。
 ニコラにとっては顔も名前も知ってる同業者で、一緒に野球をする程の仲間なのだ。

「ギルドに頼めないなら、検兵は?何かしてくれないの?」
「ない。まだギルドの方が動いている。一冒険者のおれじゃあいつらに顔なんて効かないし、騎士団も来そうにないって聞いたよ」
「騎士団?」
「要するに、領主さまんとこの人手ってこと」

 本来なら、領主の膝元から騎士団が派遣され、冒険者ギルドはそのお手伝いをする……という手順の筈だが、その騎士団が来る様子はなく、討伐依頼だけが出されたという。ちなみに検兵ももとを辿れば行政、つまり領主の管轄だ。
 ええ……。自分のとこの村がひとつ潰れたというのに、領主は知らんふりかよ。それって大丈夫なのか。この土地の事情があって、やもなくの対応なのかもしれないが、それにしてもなぁ。

「…あのさ、よそ者の俺が言うのもなんだが、あまり無茶するなよ」
「嫌だね!こっちはいつもの依頼も駄目、ヤキューも駄目でやる事ないんだ。あの野郎に文句言ってやらんと気が済まねーよ!」

 ニコラは空っぽになった器の底をスプーンでコツコツ叩きながらそう言い放つ。聞く耳持たんな君も。
 ニコラが怒りを向けている相手はナダという子で、同じ時期に冒険者となった少年らしい。恐らく何らかのトラブルに遭っているであろう不運な少年相手に、そんな怒らなくてもいいじゃないか。

「絶対に、絶対に見つけねぇと」

 …もしかしたら、心配のあまり腹を立てているのかもしれない。

「ひと束6000Gは固い」「恩売って取り分を8:2に」と何やらブツブツ言ってるが、本音はそういう事なのだろう。きっと。
 この様子では、部外者の俺が何を言おうが諦めてくれなさそうだ。

「それで、どう?ここまで事情話したけど、協力してくれる気になった?シマヤさん」
「いや…それは」
「ちっ、なんないのかよ。普通ちょっとひと肌ぬごうとか思わない?コウモリマン」
「コ、コウモリマン!?」

 正直、そんな事情があるのならどうにか力になってやりたいという気持ちはあった。どの道おはぎ用の血液は必要だ。問題なのはその結果、目の前の彼が向こう見ずな行動に走るのが確定している事だ。
 立ち入り禁止の村には、ぜひとも立ち入らないでほしい。

「それなら……血を買い取らせて貰うのは頼もうかな。何日もかからないなら」
「本当!?やった!全然今日にでも渡せるよ」
「ただし、そのマホチェク村に一人で向かうのは諦めること。これが条件だ」
「はあ?」

 ニコラは喜色満面の様子から一転、怒った声を上げた。分かりやすい。

「それがダメなら、血を買い取るのも無しで」
「何だよもー、それじゃ意味ないんだって。ぬか喜びさせやがって!」
「別に行くなとは言わないよ、一人で行くなって事。顔見知りの先輩冒険者くらいいるだろ?血を売ったお金で交渉してみろよ」
「ったく、簡単に言ってくれちゃってさ。いるぜ?おれを囮にして魔物を狩ろうとした悪徳連中なら!」

 うおお…ひどい。パーティを組むのに失敗したと言ってたのは、そういう事か。冒険者として生きていく厳しさの一端を見た気がする。そうビビっている俺をよそに、ニコラは「くそう、ダメかー」と悔しそうに呟いた。

「期待するだけ無駄だったな。まぁ、腹が膨れたしいっか……お代わりしていい?」

 少年の期待に応えられなかった俺は、いちもにも無く了承した。食え食え。せめてたらふく食え。
 白いパンと皿いっぱいのシチューをバクバク平らげると、食べ終わった食器を返却して銀貨を受け取る(持ち逃げ防止のため、代金に前もって含まれている銀貨だ)。

「そいじゃ、ご馳走さん。達者でなコウモリマン・シマヤ!」

 俺からいい返事を貰えないと分かったニコラは、もはやかけらも未練のない様子でサバサバと手を振った。ウ○トラマンみたいに呼ぶんじゃない。

「ニコラも元気でな。無理するなよ」

 少年はそれに返さず笑顔で背を向けて、迷いなく大通りの向こうへ行ってしまった。
 意地でも村へ向かうという姿勢は全く崩れなかった。あのままでは、本当に一人で行ってしまいそうだ。

 なんともスッキリとしない別れだけれど、致し方ない。行きずりの身としては、悲劇のあったこの地を何事もなく通り過ぎるのが最善で、他人の事情に関わる謂れはない…。これで良い筈だ。

 魔物のせいで壊滅した村だなんて。そんなのに首を突っ込んで無事でいられるのは、漫画の第一話もしくはホラゲーの主人公くらいだ。
 …現実的な話、今その村に行っても魔物はいないだろう。冒険者たちが捜査に入ってるという話だ。むしろ、その周辺が危険のように思えた。どこで鉢合わせてもおかしくない。

 いやほんと、危険すぎるよ。どうか思い留まってくれ。

 通りを行く人混みの中へ彼の背中が消えると、俺は切り替えて来た道を戻る。人気の無さそうな路地で車を出して、素早く乗り込んだ。ステルスにして、ふうと一息。
 心配してやらなきゃいけない奴は、他にもいるのだ。

「…お前用の血をどっかで調達しなきゃな」

 眠っているおはぎを乗せたままのカバンを助手席へそっと下ろし、ナビで色々と探る。

 まずはここ、ドローシーの街の薬材屋……冒険者ギルドのめちゃくちゃご近所さんであった。ちょっと近寄りたくない。

 それから、周辺で最も栄えた街を検索。このフリツェラード領を治める領主館を構えた街(長い名前だ)が、東にあった。車で約1時間。

 そして本来の目的地であるキーストリアとの国境は、およそ5時間。予定外であるドローシーの街へ寄った事で遅れは出たが、道のりとしては進んでいる。

 国境寄りの街・ベインザイルには従魔可の宿がある。が、今からではそこへ辿り着くまでにどこかで一泊する必要があった。

「領主の街で一泊して朝一出発か、ここで泊まって朝一出発か…だな」

 因みに、どちらにも従魔可の宿はない。とほほ。こうなっては、車中泊しかあるまい。魔石の出番である。

 おはぎに噛まれた箇所を確認すると、ちょっと大きな虫刺されのようになっているだけだ。その内カサブタになって消えるだろう。
 この調子なら、最悪ベインザイルまでは俺の血で賄ってもいいかもしれない。

 それからは外に出て、ドローシーの街をなんとなくぶらついた。

 目を覚ましたおはぎは相変わらずぐったりとカバンの上に転がっているが、俺が健気にも差し出した腕を「さっき飲んだからイラネ」と断った。話を聞くにどうやら、血を摂取するのは3~5日に一度の頻度らしい。

 とはいえ、これまで一月以上も血を絶ってきたのだ。できる限り多く摂った方がいいのではないかと心配になる。
 本当に飲まんのか、いいから飲めとしつこく確認していると、おはぎは「コ、コワイ…!」と不気味がって俺から数センチ距離を取りだした。どうやら自分の血を勧めてくるメンヘラ野郎と思われてしまったらしい。誠に遺憾である。

感想 3

あなたにおすすめの小説

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
 2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。  死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。  命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。  自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!! 2巻2月9日電子版解禁です!! 紙は9日に配送開始、12日発売! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2巻出版!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 12日には、楽天koboにおいてファンタジー5位となりました!皆様のおかげです! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 オリコンランキングライトノベル 週間BOOKランキング 18位(2025年9月29日付)

異世界のんびり放浪記

立花アルト
ファンタジー
異世界に転移した少女リノは森でサバイバルしながら素材を集め、商人オルソンと出会って街アイゼルトヘ到着。 冒険者ギルドで登録と新人訓練を受け、採取や戦闘、魔法の基礎を学びながら生活準備を整え、街で道具を買い揃えつつ、次の冒険へ向けて動き始めた--。 よくある異世界転移?です。のんびり進む予定です。 小説家になろうにも投稿しています。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。