ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな

文字の大きさ
5 / 130

魔境のボスとリタイア勇者

「冒険者……俺が?」
「違うのか?」
「全然違います」
「ふーん。では迷子か?」

迷子。情けない響きだが、寸分違わぬ迷子だから仕方ない。

「そ、そうです。突然来てしまってここが何処かも分からなくて……出口を探していたんです」
「おお、それで迷い込んだのが最奥とは、気の毒な。出口なら、ボスであるわしを倒さねば開かぬぞ」
「ボ、ボス?」

この子が?
俺はニコニコと見下ろす少女に目を剥く。
いや、言動からしてもう一般人でないのは察してたけど、モンスターの類って事か。全く見えない。

というか、ここが最奥って言わなかった?出口って設定したのに…何してくれてんだよあのナビ。不良品じゃん。

「そんなの無理です……」
「だろうな。わしも負ける気がせんわ。冒険者どころか、迷子の只人ではな」

どんまい、と言った感じで手を叩く少女。

「よし。わしを討伐しに来たわけでないのなら、いっそこのまま歓迎しようではないか。そうしようそうしよう」
「いいのか?」

突然車の影から男の声がして、俺は再び飛び上がった。
慌ててそっちを見ると、若い男が立っている。車の死角になるところに隠れていたようで、全く気が付かなかった。

背丈は俺と同じほどだが、恐らく年下だろう。落ち着いた茶色の髪に、緑色の目。知らない間に無表情で近くまで来ていたのは恐ろしいが、どうやら害意があるわけではなさそうだ。少女の保護者か?

「いいさ。非力で無害だ。そも突然現れた此奴には、わしの十八番が効かぬ。お主の時のようにはいかんからな」
「……わかった」

何やら納得した様子。

無表情マンを伺う俺の様子に気がついた少女が、彼を紹介してくれる。

「おお。此奴はお主の前の到達者だ。外の世界ではかつて『勇者』と持て囃されておったそうだぞ。まぁ、仲良うせい」

軽く会釈される。いい人そうだけど、今はそうじゃない。

「はい。あの、でも、外の世界へ出るにはどうすればいいか、教えてもらえませんか?」
「さっき言うた通りよ。…あのなぁ、ここは魔境で、わしはそのボスじゃぞ?帰りたいなどと抜かす愚か者に、懇切丁寧に教えてやる道理はないわ」
「す、すみません…」

呆れたように言う美少女ボスに、俺は平謝りする。

魔境のボスに、冒険者か。…なるほど。RPGでいうなら、「フハハハ!ここで朽ち果てるがいい!」と向かってくるボスキャラに「にげる」を選択してるようなもんか。大抵、「にげられなかった!」て出るやつ。

でも、その魔境というのがイマイチよく分からん。

「あの、俺はあまり物をよく知らなくて……魔境って何ですか?」
「はあ?」

少女ボスは本当に驚いたようで、ニコニコ顔がポカンと様変わりする。大きく見開いた紫の瞳が、宝石のようだ。
そんな彼女の代わりに、勇者くんが答えてくれた。

「進化したダンジョンの事だよ。世界に4つだけある。ここはその内の1つだ」
「ダンジョンっていうと…?」
「………ダンジョンも知らないのか?ダンジョンは生き物を誘き寄せて取り込む魔の空間。魔物の一種だよ」

彼の話はこうだ。
ダンジョンは洞窟や朽ち果てた遺跡などに発生し、モンスターを生み出す。そのモンスターを倒すとお宝が出現する。それもダンジョンが生み出すもので、それを目的に挑む者たちは大勢いる。
しかし、そのダンジョン内部で途絶えた命は養分として吸収されるため、影も形も残らない。恐ろしい場所だ。

そうして養分を蓄え育ったダンジョンは強大な亜空間となっていき、それが魔境と呼ばれる。
世界で確認されている魔境は4つで、そのうちの一つであるここは「空中都市」と呼ばれている。
因みにマチュピチュ的なやつではなく、空にドカンと浮いてるらしい。

はえー、と聞いていると、少女ボスがため息をついた。クソデカため息だ。

「そんな事も知らずにここへ辿り着いたと言うのか……ノコノコ迷い込んだ弱者のくせに」
「そんな訳ないだろう。迷子が来れる所じゃない。この人の実力だ」
「フン…確かに。今此処におる。その結果が全てだの」

すみません。普通にただの迷子です。
おっさんに問答無用ですっ飛ばされてここにいるだけです。
…なんて心の中で呟くも、どう説明すれば良いのかわからない。黙っとけ黙っとけ。

俺の心中なぞつゆ知らずな少女ボスは軽やかに飛び降りると、開けっぱなしの車のドアから中を覗き込んだ。

「どれどれ、見せてくれ…狭いのう。色々付いてるのう」
「あ、そこ運転席で危ないんで…助手席へどうぞ」

まるで知らないおもちゃを前にした子どものようだ。
俺は慌てて回り込んで助手席のドアを開けたが、少女ボスは運転席からズリズリと行儀悪く助手席へおさまった。サイドブレーキを思いっきり蹴飛ばして。危ねぇなおい。

「ほー、狭いが、座り心地は悪く無い。この毛玉は何だ?魔力があるな。お主、これでどうやって隠れたのだ?おい、どうだ、わしが見えとるか?」

ピコのティッシュカバーを抱えて、勇者くんに笑顔で手を振る美少女。側から見れば、長閑な光景だ。

「丸見えだ。これはその人のスキルなんだから、その人じゃなきゃ使えないよ」

勇者くんは冷静にそう答えている。

「金属製の箱にしか見えないけど…間違いなくこの人の魔力で作られてる。馬の襲歩以上の速さで走れるみたいだ」

ハニワを引っ張る少女を止めようとしていた俺は、その勇者くんの言葉に衝撃を受けた。

「なっ、何でそんなことが分かるの?!君、コレの事知ってんの?」

突然前のめりで大声を上げた俺にも、勇者くんは冷静だ。

「いえ、鑑定してみただけ。あなたのスキルも称号も、初めて見たから俺は知らない」
「か、鑑定ってどういうこと?車体価格出したの?」
「お主、さっきからラチがあかんの~」

何なら知っとるんじゃ、と呆れ果てた顔で少女は言う。表情の乏しい勇者くんも、若干引いてるような気がする。
俺は手に持っていた初心者マークを二人に掲げ、腹の底から声を出した。

「なんっにも知りません!教えてください!」

感想 3

あなたにおすすめの小説

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
 2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。  死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。  命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。  自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!! 2巻2月9日電子版解禁です!! 紙は9日に配送開始、12日発売! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2巻出版!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 12日には、楽天koboにおいてファンタジー5位となりました!皆様のおかげです! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 オリコンランキングライトノベル 週間BOOKランキング 18位(2025年9月29日付)

異世界のんびり放浪記

立花アルト
ファンタジー
異世界に転移した少女リノは森でサバイバルしながら素材を集め、商人オルソンと出会って街アイゼルトヘ到着。 冒険者ギルドで登録と新人訓練を受け、採取や戦闘、魔法の基礎を学びながら生活準備を整え、街で道具を買い揃えつつ、次の冒険へ向けて動き始めた--。 よくある異世界転移?です。のんびり進む予定です。 小説家になろうにも投稿しています。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。