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「いい加減こいつを動かしてみせろ」とゴネる少女ボスと、「俺も見てみたい」と無表情でワクテカする勇者くんにせっつかれ、二人を乗せて車を走らせることになった。

「おおっ、動いとる!どうやっとるんだ?何を踏んどるじゃ、それは」
「はやい」
「下見てたら酔いますよ……あ!窓割れる!叩かないで開けるから!」

少女ボスは助手席でワイワイ、勇者くんは後部座席で大人しくキョロキョロ。はしゃぐ若者の姿に、場違いにも和んでしまった。でも壊さないでね。

二人の案内でハンドルを回す傍ら、いろんな話を聞く。
勇者くんの持つ便利スキル「鑑定」のおかげで、俺はやっとこの車の詳細を知ることができた。

俺に与えられた特殊スキルは「異世界自動車」。称号は「ペーパードライバー」。
捻りゼロである。

この世界の乗り物は馬車や船が殆どだと言う。自動車もドライバーも全く馴染みのない言葉で、勇者くんも「鑑定したけれど正直、意味不明」との事だった。

そして驚くことに、この車はガソリンではなく俺の魔力、MPを使って動いているらしい。
つまり俺には、魔力がある!
それも、少女ボスと勇者くん曰く、多い方らしい。

「俺、魔法使いになれるんですかね?」

流石にちょっと嬉しくてそう尋ねると、少女は「さぁの。鍛えれば成れるんでないか?」と適当なお答え。
勇者くんは少し黙った後、真面目な回答をくれた。

魔法には炎やら氷やらの属性があるが、全ての属性を使える人間は、ほぼいないらしい。
生まれつき決まっているんだとか。血液型みたいに。
そして、気になる俺の属性は

「無い」
「えーっ!?」
「ふはは、宝の持ち腐れだの」
「でも、それだけ魔力保有量がでかいなら、魔道具や特別なマジックアイテムをジャブジャブ使いまくれるよ」

ケラケラ嗤う少女と、慰めてくれる勇者くん。
悔しい事に、俺の沢山あるというMPはこの車を動かすくらいしか使い道が無さそうだ。ファイア!とかやってみたかった…

尋ねてみると、勇者くんは火属性、雷属性、光属性と3つも持ってる。少女ボスに至っては「ふん、人間はショボいの。わしは全盛じゃぞ」とドヤっていた。すごいな、流石ラスボスだ。

閑話休題。その魔力で動く車には、「カーナビ」の他にも機能がついている。
一つはさっきの「ステルス運転」というやつ。もう一つは「代行操縦運転」というやつだ。
勇者くんの鑑定によると、こんな感じ。


「ステルス運転モード」
発動中、車体及び車内に居るものは車外から感知されない。レベルの高い者に対しては遮断効果が薄れる。
消費MPは通常の1.3倍。

「代行操縦運転モード」
任意の生き物に車体を置き換え、操縦できる。使用者のレベルに準ずる生き物が対象。ただし例外あり。
消費MPは通常の2倍。


俺は目が点になる。
代行?生き物に車体を置き換え?
酒飲んだ時に、代わりに運転してくれるのかな?その生き物が。…なんか嫌だな!

「試してないのか?」
「いや、試しても何も…今そんなのあるの知ったから」

勇者くんの静かな問いに、俺は首を振る。

「お主のスキルであろう。何故自分でわからぬのだ?」
「…スキルを持っていても自力で詳細を理解できる人はごく稀だ。特殊スキルは尚更」
「ふぅん。そんなもんかの?」
「そんなもんだ。国に高い金を払ってまで調べる人は少ない」

ちょっとよく分からない会話が二人でなされる。
それにしてもこの勇者くん、さっきから俺の事フォローしてくれてない?少女ボスからの当たりが容赦ない分、優しさが沁みる。
もしかしたらこの人、すごく良い人かもしれない。

「よく分からないなら、試してみればいい。その、それ……ピカピカしてる板で発動できるみたいだから」

勇者くんはカーナビ画面を指して言う。
慌ててカーナビをタッチするが「走行中は操作できません」と画面の文字に嗜められる。チッ。

「あっ、何を止めとんのじゃ?動け動け!」

駐車した途端少女にブーイングをかまされるが、生返事であしらいつつカーナビをいじる。
えーと、ホーム画面に戻ればいいんかな?……お、「モード選択」だって、コレか。
代行操縦、を選ぶと「代行車体を選択してください」の文字のあと、パッと選択画面が現れた。リスト状になっていて、ほぼまっさらだ。

「ダスターウルフ……リビングメイル……ジズ…この3つだけか」
「おお。こやつらは、すぐその辺におる連中ではないか」

少女ボスが来た道を顎で示して言う。
あれか。デカい犬と動く鎧、デカい猛禽鳥。俺が出会ったモンスターが、ここで選択できる様になってるって事かな?

流石にモンスターが車を運転するわけじゃないよな、と大体察してきた。「操縦」ってあるから、操れる様になるんだろうか。
俺はダスターウルフをタッチするが、


条件「相手からの視認」:未
条件「運転手レベル15以上」:未
固有タスク「一群れを全滅させる」:未
条件未達成です。


という表示が出る。ダメってことか。

「なになに…『運転手レベル15以上』『相手からの視認』…この条件が足りておらんらしいぞ」

ナビ画面を読み上げて、少女ボスが「お主はほんとショボいのう」と小馬鹿にしてくる。
そうか。MPがあるなら、レベルもあるよな。この世界に来たてホヤホヤの俺は、まず間違いなくレベル1だろう。

つまり、この機能は使えない。レベル上げなんてできません。死んじまう。

「でも別に…このステルスモードてのが使えれば、こっちは要らなそうだな…」

ステルスモードは便利だ。何せ誰からも見つからないしぶつからない。こんな安全安心仕様あるか?なのに消費するMPは、代行の方が大分食う。
もう全てステルスでいいじゃん。ステルスしか勝たん。

「なっ、諦めるのか?たったレベル15あげれば良いであろうに!」
「いやぁ、危ないんで……15レベルって、そんな簡単に上がるものなんですか?」
「…ダスターウルフ5・6匹も倒せば、充分上がると思う」
「無理です」
「なっさけな~」

少女ボスは呆れを通り越してドン引き、といった表情だ。勇者くんも相変わらず鉄面皮ながら、何か言いたげなのは気のせいだろうか。

いや、そんな顔してるけどあんた方、勇者とラスボスだろ?
こっちは何の訓練も受けてない村人Aだわ。無理なもんは無理!
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