ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな

文字の大きさ
20 / 130

3

日の光が眩しい。土砂降りの雨が降る真っ暗な場所から、辺りは穏やかな夕焼け空の草原となっていた。

呆気に取られて辺りを眺めるも、やはり誰もいない。ナビのマップにも変化はなし。やはりこの清々しい広大な景色はただの幻覚みたいだ。

「のどかになったな…」

あの雷以降、2人の様子が何も確認できない。どうなったんだろう、ラスタさんは無事だろうか。
地平線の向こうは山や森で、人影どころか魔物も動物も見当たらない。

俺はふと思いついて、ナビ画面を操作した。以前、ナビで「ベラトリア 出口」と設定すると少女ボスが候補に出てきた。という事は、場所だけでなく人を目的地にできたりするんじゃないか?

試しに「ラスタ」と入力してみる。
だが出たのは「候補が見つかりませんでした」の文字だった。うーん、やっぱり人は無理か。
続いて「ラスタ 現在地」と入れてみる。人はダメでも、場所として入力すればいけないだろうか。
結果は「候補が見つかりませんでした」。無茶振りだったようだ。そこまで便利ではないのだね。

仕方なくもう一度「ベラトリア 出口」で検索すると、以前と同じく3箇所の候補が示される。2つは魔境の端。そして1つは、自分の目と鼻の先だ。
それを選んで、案内開始をポチ。

「目的地を設定しました。ルート案内に従って、走行してください」

ナビにはしっかり曲がり角や十字路があるが、窓の外は開けた平原でしかない。ただただ穏やかな原っぱだ。ナビの地図との差違が不気味過ぎて、降りる気にはなれなかった。
ガソリンは、ハニワ人形を信じるしかない…。幻覚だと分かっている以上、ナビの地図が頼りだ。

地図にはルートのラインだけでなく、目的地への直線距離もさりげなく引かれている。見晴らしマックスな草原には道らしい道も遮蔽物となる建物もないのでその直線距離を追いたくなるが、ここはきちんとルートに従っとこう。無視して突っ切ったら現実の建物に正面衝突しました、なんて事になりかねない。
ナビ風に言うなら、「実際の標識には従わないで走行しましょう」てやつだ。

出発進行。
ナビ通りに進むだけだが側から見ると、綺麗な草原で無駄に曲がりまくるという奇妙な有様だ。車のCMかよ。
頭が混乱するので、外を見るのを止めた。前をろくに見ずナビ画面ばかり気にしながらの、完全な危険運転だ。違反切符待ったなし。
何もない気持ちのいい原っぱは思わずスピードを出したくなるが、我慢だ。

地図によれば、街の通りをいくつか越えただけの場所に少女ボスがいる。近いな。走り始めてすぐだが、もうナビが「この先目的地付近です」と言っている。

目視では何もない広々とした草原を、ナビ画面では大通りへと続くカーブを、粛々と曲がる。すると、それまで居なかったはずの人影が2つ、ぽつねんと現れた。

「あっ、いた!」

大と小の影は向かい合いじっとしてる。戦ってる雰囲気はなさそうだが、どうしたもんか。近づいて大丈夫なのか?

やがて2人の様子が変わらないのを見てとり、ソロソロと車を進める。夕日を浴びて佇むのは確かに少女ボスとラスタさんだ。
ラスタさんは肩から血が大きく広がっているが、剣を鞘に収めてる。険悪な空気は感じられなくホッとしたものの、先ほどの少女ボスの様子を思うと二の足を踏んでしまう。

「…ぬ。おい、ペテン師よ。そこにおるな?」

突如、しわがれた知らない声が上がり驚いた。誰だ?もう1人誰かいるなんて聞いてないぞ。
いや…この口調やペテン師という呼び方は、少女ボスだ。声がまるで老人だけど、どうしたんだ?

「姿はなくとも分かるぞ。逃げ出さなかったとは意外ではないか」

少女ボスは何も話していない。訝しんでよく見ると、足元の影に何か黒いものが蠢いているのに気づいた。ゲッ、何だあのクリーチャーは!?あいつが喋ってるんだ。

「シマヤ、いるのか。もう大丈夫だ」

ラスタさんは怪我を負ってはいるものの、いつも通りの落ち着いた様子だ。俺がビビリなのを散々目にした彼は察してくれたのか、そう声をかけた。

エンジンを切ろう。そこで初めて、ジリ貧だったガソリンメーターが大幅に回復してるのに気がついた。おお、やってくれたのか、ハニワよ。
ハニワを見ると、カタカタ動きが元の速さに戻っている。いい笑顔だ。

やっとこさ外に出る。草原の心地よい風が肌を撫でた。
寄っていって、ラスタさんに声をかける。

「その怪我、大丈夫ですか」
「うん。この程度で済んだ」

もっとひどい目にあうと思ってたらしい。じくじくと服に血のシミが広がって、見た目は立派な緊急事態だ。本人はのほほんとしている。
逆に少女ボスは、さっきから上の空というか様子が違う。いつもの偉そうにヘラヘラした態度とも、先ほどの冷たく恐ろしい様子でもない。どこか困ったように佇んでいる。
俺はここへ来て初めて、ラスタさんではなく少女ボスのほうが心配になった。
しかし、今はそれよりも凄く気になるものがあった。

「ほんに逃げ隠れだけは一級品だのう、そのスキルは。このわしでも気配しか追えぬとは」

西日が作り出す影から、目玉と口のお化けが生まれてこちらを見上げている。そいつは濁った目玉でこちらを見据えると大きな口を歪め、にいいと嗤った。楽しげな、人を食ったような笑いの形。

随分とおぞましい姿になってるが…まさかこいつは…

その瞬間、全ての景色が音もなくかき消えた。
穏やかで広大な草原も、吹き付ける風も、色づく西日もなくなり、整然と並んだいつもの街並みが戻っている。正確には、これも幻覚なのだろうけど。

燃えるような夕焼け空だけ、何故かそのまま上空に広がっていた。

「たまには風情を変えようかの。今日はこれでいくか」

そう上がった声は、しわがれた老人のようなものではない。目を向けると、少女ボスが空を見上げてウンウンと頷いている所だった。
足元の影にいたクリーチャーは、もういない。

しかし、何故だろう。あのクリーチャーが目の前の彼女なのだと俺には分かった。
それならさっきの、全く同じ見た目をしたあの子は誰だ?

「あ、あ、あの、今のは…」
「なんだ。これは仮の姿と以前言わなかったか?フフフ、そいつに尋ねてみよ。詳しいぞぅ」

恐る恐る聞いてみると、彼女はキラリと紫の瞳を輝かせてラスタさんの方へ顎をしゃくった。
意地悪をしてる時の笑顔だ。ラスタさんは無言である。

彼が詳しいってことは、知り合いなのかな?ずっと纏っていた仮の姿が、ラスタさんの知り合いだったという事か…。これ、聞くに聞けないやつだ。

感想 3

あなたにおすすめの小説

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
 2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。  死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。  命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。  自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!! 2巻2月9日電子版解禁です!! 紙は9日に配送開始、12日発売! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2巻出版!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 12日には、楽天koboにおいてファンタジー5位となりました!皆様のおかげです! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 オリコンランキングライトノベル 週間BOOKランキング 18位(2025年9月29日付)

異世界のんびり放浪記

立花アルト
ファンタジー
異世界に転移した少女リノは森でサバイバルしながら素材を集め、商人オルソンと出会って街アイゼルトヘ到着。 冒険者ギルドで登録と新人訓練を受け、採取や戦闘、魔法の基礎を学びながら生活準備を整え、街で道具を買い揃えつつ、次の冒険へ向けて動き始めた--。 よくある異世界転移?です。のんびり進む予定です。 小説家になろうにも投稿しています。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。