ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな

文字の大きさ
23 / 130

2

「…そういや俺、魔法使えないはずなのにさっき撃てました」
「あれはそういう武器なんだ。水属性を持っていなくても、魔力を込めるだけで水魔法が使える」

曰く、スクロールのように人が魔法を込めて作り出した物を魔道具と呼び、その中でも古くから伝わる貴重な品をマジックアイテムと呼ぶらしい。マジックバックや今の杖がそうだ。
どちらも昔、ダンジョンで手に入ったと。一般人がお目にかかるものではなさそうだな。

さぁ、気を取り直して、風呂風呂。
ラスタさんがバスタブにはった水へ両手を突っ込むと、ジュワーと音が上がる。炎の魔法でお湯を沸かしているようだ。異世界の追い焚き式か。

湯加減を見たあと「じゃあ、ごゆっくり」と戻っていくラスタさんに礼を言って、風呂へ入り込んだ。一番風呂くれたよ。至れり尽くせりじゃないか。

ああぁ~、と喉の奥からオッサンの鳴き声が出る。控えめに言って、最高である。

「でも…浮かれちゃいられんのよな」

湯に浸かって体を伸ばしながら、ぼんやり考えに耽る。差し当たって明日の事を考えるだけでも、不安は大きかった。

無事に着けるだろうか。今まではそばにラスタさんがいてくれたが、彼らとはこのボスのエリアでお別れだ。
本音をいうと街の端まで着いて来てほしかったが、そうなればラスタさんの帰り道はまた1から魔境の攻略となってしまう。そんな事を頼めるわけがなかった。

とにかく、一人と一台でこの魔境を突っ切り、端を目指さなくてはならない。端にたどり着いたとして、そこから更に飛び立たないとならない。遥か下の地上まで。

「……生きのびるぞ…」

声に出して、自分を鼓舞してみた。
ドルトナへたどり着く。そうしたら宿を見つけて、ベッドでゆっくり休むのだ。足を伸ばして爆睡してやる。

俺はバシャバシャと音を立て顔を洗った。


ーーー


そうして、翌日となる。

夜までの時間、最後の手伝いとして色々申し出た。昨日の残り湯で洗濯をしたり、掃除をしたり。と言っても、幻覚越しの掃除に意味があるのか分からない。

空は茜色のままだ。少女ボスはまだ夕方の気分らしい。
即席で作った物干し台に洗濯物を干していると、その少女ボスがトコトコやって来た。
夕方だと乾きにくそうだから、ちょっと昼間のいい天気に戻してくれませんかね。怖くて頼めないけど。

「聞いたぞお主、やっと出ていくのか?ようやるの。せいぜいつまらん死に方をせんようにな」

ま、わしには死んでもらった方がラッキーだがの、とケラケラ笑っている。ラスタさんに対してはアレだったのに、俺にはコレである。

「それはそうとお主よ、外の世界へ行くのだろう?あやつに駄賃も貰っておったな。わしののために、色々と調達してもらうぞ」

ええ…何言ってんだ、このガキンチョ。
ていうかコンビニは?

「嫌とは言わせんぞ。その受け取った黄金の出所は何処じゃ?この偉大なるベラトリアへ還元する義務があろう」

されてるか?それ。100%誰かさんの欲望に注がれようとしてますけど…。
しかし、口答えしたら怒られそうだ。面倒なので「そうですねー」と曖昧にしといた。

「フフフ、話がわかるの。とにかく、服じゃ!服を山盛り買ってくるのだ。ここのドロップ品は服など出んからな」
「ああ、えーっと…」

ショッピングモールて、アパレルのテナント再現する気か?何百着要ると思ってんだ。

「あとは食い物。特に菓子だ!手始めにあのくれーぷとかいう、服を着たあいすを頼むぞ。あとはお主がよく飲んでおった黒い飲み物も…なんと言ったかの」
「…コーヒーですか?」
「おお、それそれ」

この世界、コーヒー豆なんてあんのかな。…割とありそう。コーヒー飲みたいな俺も。

「あとな、油をたっぷり持ってくるのだ!こんびにのふらいやーには油が必要だろう?」

コンビニもまだハマってるんかい。

俺はチラッと駅近にあったショッピングモールの中を思い出す。何でもあんだよな。食器とかの生活用品に文房具、アウトドアショップに百均まで……コンビニとはわけが違う。このままじゃ、収拾つかなくなるって。

「気が向かなくて悪かった」

天の声だ、助かった。振り向くと、畑の土をつけたラスタさんがパンパンに膨れた袋を抱えて立っている。
あ、その服も洗濯しましょうか。なんて思ってると、袋を渡される。

「うおっ、重!」

あまりの重さに取り落としてしまい、中身がこぼれ落ちた。転がったでっかい宝石のついた腕輪やピカピカのインゴットにぎょっとする。何コレ!?

「小麦粉も頼む。あ、できれば小麦の苗も欲しい。育つか試したいんだ。塩・胡椒と砂糖もぜひ」
「ええっ!?」
「おい、ケチくさいぞ。そんなんで足りるのか?」
「わかった、ちょっと待ってろ」

少女ボスだけでなくラスタさんまでそんなこと言い出した。適当にあしらう気でいた俺は、途端に慌てた。
ちょっと待ってよ。今からここを命がけで脱出するというのに、何でまたノコノコやって来ないといけないんだ。今生の別れでいる気だったぞ。俺は冒険者じゃないってば。

「そのクルマならできる」
「お主はしょぼいが、クルマがあろう」
「………」

財宝(買い物代金)が詰まった袋を3つも4つも持たされそうになったが、おかわりは何とか1つに留めてもらった。

この魔境に再び足を踏み入れるのは、はっきり言って嫌だ。二人には悪いけど、極力来たくないよ。
しかし、無かったことにするにはあまりにも大きな額を受け取っちまったな。

幸い「いつまでに」という指定はされなかったから…ひとまずは忘れよう。
勇者の剣の件もある。そっちが優先だろうし、お土産はいつかね、いつか。今は頭の隅へポイだ。そもそも無事でいられるかもわからないんだから…。

そうして思考放棄した俺は洗濯を終え、ラスタさんの畑の手伝いや飯の作り置きをして、束の間の穏やかな時を過ごした。
ラスタさんは元凄腕冒険者だ。今まで訪れて良かった土地や、近寄らない方がいい国などを簡単に教わる。よく覚えとかないと。

勇者だった頃の話は雷竜退治の事をチラッと聞いたきりで、とうとう何も語られなかった。しかし冒険者をしてた頃のエピソードは結構話してくれて、その時の彼は少し楽しそうに見えた。無表情だったが。

「街に入るには通行料がいる。クルマであちこちの国や街を訪れるなら、身分証を作っておくべきだ。大体の街は通行料を払わずに済む」
「どこで作るんですか?」
「手っ取り早いのは、冒険者ギルドに登録するのが良いと思う」

あとは町の役場なんかで発行してもらえるらしいが、戸籍的なものを照会するのに時間がかかるという。
俺に戸籍は無いし、税金も払ってない。そういう人は、やはり冒険者ギルドで登録をして、ギルドカードという物を貰うらしい。そんな身分証としての用途で、冒険者以外でもカードを持つ人は珍しくないそうだ。

やがて、ナビの時計が夜の1時に差し掛かる。
出発の時間だ。
感想 3

あなたにおすすめの小説

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
 2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。  死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。  命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。  自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!! 2巻2月9日電子版解禁です!! 紙は9日に配送開始、12日発売! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2巻出版!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 12日には、楽天koboにおいてファンタジー5位となりました!皆様のおかげです! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 オリコンランキングライトノベル 週間BOOKランキング 18位(2025年9月29日付)

異世界のんびり放浪記

立花アルト
ファンタジー
異世界に転移した少女リノは森でサバイバルしながら素材を集め、商人オルソンと出会って街アイゼルトヘ到着。 冒険者ギルドで登録と新人訓練を受け、採取や戦闘、魔法の基礎を学びながら生活準備を整え、街で道具を買い揃えつつ、次の冒険へ向けて動き始めた--。 よくある異世界転移?です。のんびり進む予定です。 小説家になろうにも投稿しています。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。