ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな

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ジズもキラーバットのように、夜目が効くようだ。ステルスで走ってた時より遥かに視界良好である。

「うわっ、何だあいつ…」

上空から外壁を越えると、外側の門の両脇に4・5メートルはあろうかという石像が2体立っていた。片方は狼で、片方がトカゲの石像はこちらをじっと見上げている。
動いてるぞ…あれもストーンゴーレムだろうか?やはりSTみたいに門を守っているな。

あんなのが門一枚隔ててすぐ近くに立ってたのか。絶対に通行料とか払っても無事に通してくれないだろ。

狼のゴーレムが追ってくる。怖ッ!周囲は荒れ果てた平地で、街中のように視界を遮ってくれる物がない。
できるだけ遠くに離れて着地し、ステルスモードへ変更。窓越しのぐにゃぐにゃと運転席の変化がおさまるのを、やきもきと待つ。早くしてくれ!
ナビ画面をタップしまくる。

「ステルス運転モードへ移行します。車外へ出るときは安全を確認しましょう」

すると土煙を上げて疾走していた狼ゴーレムが、戸惑ったように足を止めた。ふー、良かった。見失ってくれたようだ。
安堵の息を吐きながら、急いでその場を後にする。辺りを探るようにうろつきまわる狼くんだったが、やがてトボトボと踵を返し暗闇の中へ去っていった。
お仕事お疲れ様でした。

ドタバタ感慨もなく降り立ったが、ここが荒野のエリアみたいだ。
人工物に囲まれていた今までとは、一気に様子が変わってしまった。乾いてひび割れた地面がずっと続いて、上空はお馴染みの曇天。
ジズ状態が解除された今は視界が真っ暗で、それすら見渡せない。背後には城壁があるはずだが遠のいたせいで暗闇に消えている。これではたちまち方向感覚を失くすだろう。

しかし、俺にはナビがある。

「この先、しばらく道なりです」

道はなくとも、道なりらしい。平坦だが頼りになる声に従い、とりあえずナビ画面のラインに沿って進む。

途中、ヘッドライトに照らされてヨタヨタと歩く人影を見つけ、慌てて寄ってみると剣持ち骸骨だった。なので即行で見捨てる。
ラスタさんに荒野エリアの魔物は下位アンデットとワイバーンだと聞いていたが、暗い上に遠目だと人間と見分けが付かない。

再び単調なドライブが続く。たまに見かけるのは、枯れた木や虚ろな動きの魔物。空を飛んでいるというワイバーンには、今の所遭遇してない。
ナビ案内のラインから逸れてるのに気づいては、慌ててハンドルを切るというのを何回かやっていると、荒野の終わりに着いた。実に何事もなく。
ステルスモードだから大丈夫なだけで、この荒野をアンデットに襲われながら進むのは、相当キツイのだろうな…。

地平線が、ぽっかりと途切れている。
アクセルから足を離し、ソロソロと徐行する。落っこちたら大変だ。何しろもう地面が終わって、奈落が黒々と広がっているからだ。
魔境の出口だ。

「本当に、浮いてるんだな…」

とにかく暗い、そして広い。どこまでも続いて見える真っ暗闇に恐怖を覚えた。吸い込まれそうだ。
そうだ、時間。今何時だろう。ナビの時計を見る。

2:26

俺は驚きで二度見する。何てこった。出発したのは確か、1時前だぞ。
たった1時間半しか経ってないの!?
そりゃサクサク進んでたけども…。てっきり何時間もかけて、夜が明ける頃に着くと踏んでいたのに。夜更けも夜更けだよ。

「おぅい、ペテン師や。姿を見せてみろ」
「ギャッ!」

その時、場違いなのんびりした声が暗闇から上がった。完全に不意をつかれた俺は驚愕で悲鳴を上げる。

そこには何と、少女ボスがぽつんと立っていた。暗闇を背に、同じ色の長い髪が風に靡いている。

姿を見せろて…大丈夫かな?アンデットが化けてるとかじゃないよな?いや、そんな魔物が出るとはラスタさんから聞いてない。

「おいコラ、さっさとせんか。感じ悪いのう。せっかく最後に挨拶くらいしてやろうと思うたのに、礼儀も知らんのか?」

腕を組んで顔をしかめた少女ボスが凄んでくる。怖い。そして偉そうだ。
そんな馴染みのある態度に後押しされ、俺は言われた通りステルスモードを解除した。恐る恐るドアを開け、満足そうに微笑む彼女へ声をかける。外は砂埃がすごい。

「つ、着いて来てたんですか」
「フフフ。おぬしが真にここを切り抜ける実力があるのか気になってな。てっきりコロッと逝くかと思ったんだがのう」

あ、そうですか…。自分でもひどくアッサリな、と今思っていた所だけどさ。
ひょっとして、服やらクレープやらに目がくらんだ少女ボスが融通してくれてたのか?と思ったが、彼女はそうでないと首を振った。

「あるじたるわしとて、所詮はこの魔境に生み出されし者だ。魔物を都合よく操ったりなどできぬわ」

へぇ、そうだったのか。魔境って不思議だな。
レベル上げで散々彼女に魔物をけしかけられた時のことを思い出す。言われてみれば、たいてい彼女もそいつから攻撃を受けてたっけ。大抵は「くすぐったいのう」と笑ってたけど。

「そうですか…あ、あの、色々お目溢しをありがとうございました」

幻覚の原っぱで見た、目玉のクリーチャーを思い出す。きっとあれが、この子の正体だったのだろう。上位悪魔なんだっけか。
その気になれば俺など、キュッと一捻りで殺せるはずだ。それなのにこうして見逃してくれようとしている。

…しているんだよな?
あれ、急に怖くなってきたぞ。まさかここで本性を現して襲って来たりしないよね?「馬鹿め!わしは悪魔だぞ!」とか言って。

「フフフ、急に神妙じゃの。どういたしまして、だ」

俺の心配をよそに、少女ボスはあっけらかんとそう返す。
本当に様子を見ていただけか。疑ってしまって、なんだか少しバツが悪い。

このひと、憎まれ口叩くわ悪ガキムーブするわ正体グロいわで怖かったけど…親切なんだよな。
ラスタさんとの喧嘩でブチ切れてた時ですら、俺に対して「死にたくなきゃすっこんでろ」て注意してくれてはいたのだ。ほんと怖かったけど。

「あの…どうして見逃してもらえるんですか?」

思わず聞いてしまった。
余計な事をと思うが、やはり気になってしまう。

「ん?うーん、特に意味はない。その方が退屈じゃなさそうってとこかの、強いて言えば」

いや、軽いな。

「他者の命を奪いこのベラトリアへ取り込むのは、確かにわしらの存在意義よ。だがなぁ、あやつやお主のような…人間どもの記憶を見ておると、それが言うほど大義ある事とは思えなくての。それよりわしは、退屈が嫌いじゃ」

なんだか、全く悪魔らしくないとも、いかにも悪魔らしいとも思えるような理由だった。
俺は呆れつつもどこか納得してしまう。それで勇者とラスボスが一緒に暮らすなんて状況が生まれたのか。

少女ボスは何やら考えていたが、今度は小首を傾げて俺をまじまじと見上げた。

「ふぅむ、確かにお主は弱い。小癪な奴よと貶んでおったが…力ある者だけが魔境を制する資格を持つ、という考えは改めねばなるまい」

彼女はそう呟くと、ニタリと機嫌良さそうに笑った。出会った時と同じ笑顔だ。

「さらばだ、卑小な到達者よ」

おみやげ楽しみにしておるぞ、と言う声を残して、少女ボスは姿を消した。

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