ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな

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見晴らしがいいから、急に襲われる心配は少ないはずだ。エンジンを切って、外に出る。
ぐーっと伸びをして、硬くなった体をほぐす。ケツが痛くて仕方なかった。

新鮮な空気だ。夜風が少し肌寒いが、すごく心地良い。ざわりざわりと草が風にそよぐ音と、何匹もの虫の声がする。魔境は虫の声なんてしなかったな。
持たせて貰った食料を取り出して飯にした。芋と乾燥させ粉にした葉っぱを練って作った、ラスタさんのパンだ。

瞬く星空をぼーっと眺めながら、車に寄りかかってパンをかじる。芋の味だ。塩や胡椒を欲しがったラスタさんの気持ちがよく分かる。
思った以上に空腹だったようだ。半分くらいにしておくつもりが、気がついたら一個丸々なくなっていた。

腹ごしらえが済み、ケツの痛みも治った。ここから先がこんなに穏やかな場所とは限らない。今の内にここでMPを回復させておこう。
うーっさむさむ、と車に入り、魔力回復の指輪をはめる。
ウトウトと微睡みながら車中で休み続け、気がつくと夜空の色がかすかに白んできた。星がさっきより減っている。
ほんの少しだが、ぐっすり眠れたみたいだ。エンジンをかけると、半分だったガソリンメーターが3分の2以上戻っている。よしよし。

「8時間か…休憩も入れたら、1日2日かかるよな」

ドルトナゴールまでの地形を地図で確かめると、山を越えたり迂回したりするようだ。

ひとまずは、街道を見つけたい。話によると、街道沿いには魔物避けの術が施された休憩ポイントがあるらしい。

「うし、行くか」


ーーー


その後、モード無しの軽車両状態で進みながら、朝を迎えた。ガソリンの減りがエコだ。平和って素晴らしい。
本物の太陽の下、流れる景色を眺めながら車を走らせる。明るい中で見渡す草原は、実にのどかだった。何の心配もいらないただのピクニックで来られたら、どんなに良かったろう。

平原のように思えた草原は、思ったより起伏が激しくガタガタした。整備のせの字も無いので、人は全く通らないのだろう。鳥や猪っぽい生き物は何度か見かけた。
街道を見つけたのは、それからさらに進んで山や川が現れ始める頃だった。

本当に先が続いてるのか不安になるルートで山を登り、無事に越えたと思ったら今度は迂回路を辿る。
途中、小さな人型の魔物に出くわしフルスロットルで逃げ出すという場面もあった。きっとあれ、ゴブリンてやつだぞ。
ステルスになる間もなく慌てて逃げ出したが、追っては来なかった。あー、おっかねぇ。

キラーバットになって川を渡り、しばらく進んでから見つけたその街道は草地が踏みならされただけのもので、無人の簡素なゲートもあった。

まだ充分明るいが、日が傾きかけている。魔除けの結界は見つかるだろうか。ブロロロと走っていると、道の先に3つの人影が現れた。
ああ、人だ!人が歩いている。

第一村人発見の感動を味わっていると、人影の中の一人がこちらを振り返って固まった。エンジンの音を聞きつけたのだろう。
やべ、ぼーっとしてた。ステルスで隠れるべきだったのに。

後悔しても遅かった。3人組がこちらを向いて立ち尽くしている。思いっきり警戒しているのが、遠目でもわかった。いやそうなるよな。

トラブルは避けたい。でも人と話してみたい気もする。不用心だろうか。
とにかく、危ないから道から逸れよう。歩行者優先だ。道から外れた草地へ移動して、危険は無いぞと示すため3人に手を振りながら、ソロソロと進んでいく。

旅人の風貌をした3人組はそれぞれ盾や剣、魔法の杖らしき物を携え待ち構えている。きっと冒険者だ。最初にこちらに気がついた若い男は、頭に丸い動物の耳がある。うお!ケモミミだ。

「おい、一体そりゃ何だお前!?魔物かと思ったぞ!」

盾と剣を構えた大きなガタイのおっさんが、呆気に取られた顔で怒鳴った。

「すいません、俺の馬車です!撃たないでください!」
「馬車…?馬は?」

焦って咄嗟に出た言葉に、ローブをかぶり杖を持った女性が疑問を呈する。ごもっともです。

「キモ…なんか顔みたい…」

ケモミミマンが若干怯えたように顔をしかめ、俺の車の悪口を吐いた。何だとこの野郎。確かに車は顔っぽいけど、キモいは言い過ぎだろキモいは。

「あのう、ここで何してらっしゃるんですか?魔きょ…ダンジョンの帰りですか?」

3人は全く警戒を解かないが、攻撃してくるような素振りはなかった。それに少し安心して、俺は質問を投げかける。

「ダンジョン?この辺りにダンジョンなんか無いだろう。それよりあんた、何者だ?」

そうか。この辺、ダンジョン無いんだ。
こうなったら仕方ないので、白状するか。ここで別れればそれきりの人たちだ。知られた所で平気だろう。

「俺は遠方の田舎からやってきました。これは俺のスキルで、馬車みたいなもんです。魔物でも顔でもありません」
「……」「……」「……」

怪しまれているな、気まずい。何だか仕事の邪魔をしてる感満々だ。
俺は3人に魔物避けの結界の場所を尋ねた。ここからドルトナの街までの間に2ヶ所あるらしい。

「そんなモンで突撃してったら、他の旅人達が驚くぞ」
「そうですね、気をつけます。どうも、お騒がせしました」

愛想笑いで手を振って、脅かさないように徐行しその場を通り過ぎた。彼らが何を目的に来ているのか気になったが、あからさまに警戒しまくってる人にあれこれ聞くのも躊躇われた。
さいなら、お仕事お疲れ様です。

ブロロロと進むが、3人はまだ突っ立ってこちらを眺めている。あの反応を見るに、やはりこの車は相当悪目立ちするな。次からは話しかけたりせず、しっかりステルスでやり過ごさなければ。

気をつけつつ走行するが、それからは人の気配は無かった。街道の伸びる森林を抜けると、またもや開けた原っぱに辿り着く。そうして、彼らの言った通り休憩ポイントを発見できた。
夕暮れの休憩所には馬が数匹繋がれており、人が行き来している。やはり冒険者風の人達だ。

俺はエンジンを止めて車を降り、布袋にラスタパンと水だけを詰めてロックした。スーッと消えていく。こうしておけば、何気に車がマジックバック代わりになるんだよな。手ぶらで楽チン。

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