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路銀やクッションを諦めきれなかった俺は、その集落とやらに行くまでの辛抱だと腹を括る。
出てきたばかりの門へ再び戻るのだった。
「これはレダート様。ようこそいらっしゃいました」
「やあ、こんにちわ。あれから井戸の調子はどうだろうか」
「はい、すっかり元通りのようです。ありがとうございました」
長い列を無視して検問所に向かうと、門兵の二人は糸目男子ことイアニスと親しげに会話を交わした。その流れで赤目男子と俺のギルドカードを確認すると、そのままあっさり中へ通される。
まさかの顔パスだ。どういう事?レダート様って呼ばれてたがひょっとして…
「うん。一応、ここの領主の息子だよ。養子だけど」
「えっ!?や、さっき冒険者だって言ってなかった?」
「ああ、Cランクでやってる。便利だからね」
街の中へと入りながら、イアニスはサラッと爆弾発言をかました。貴族かよ。なんでこんな厄介極まりない奴とつるんで冒険者なんてやってんだ!?益々理解できなかった。
しかし大丈夫なのか。貴族の連れだからといって、赤目男子のような危険人物を街に通すなんて。セキュリティーが甘いぞ、門兵。
「魔族ともあろうものが、人間の小倅に成り下がるなど…どういう神経をしているんだか」
前を行く赤目男子ことリヒャルトが、ぶつぶつ不満気に呟いている。いやいや、そのおかげで今、あんたもふんぞり返りながらここ通れたんだぞ…。そう思ったが、イアニスは無言で肩をすくめるだけだ。
魔族が人間の貴族の家に養子として迎え入れられるというのは、よくある事なんだろうか。魔族も貴族も全く馴染みが無い俺には、ちんぷんかんぷんだ。
しかし受け入れた貴族がいるという事は、そういうもんなのかもしれない。
それからリヒャルトは目についた店で用紙を購入すると、冒険者ギルドへ足を運んだ。
確か「文を出す」とか言ってたよな。不思議に思いながら、昨日ぶりのギルドへ入る。中は相変わらず、のんびりしていた。
ベンチとテーブルが並ぶ一角へ着くと、リヒャルトはいそいそと手紙を書き始めた。親しい人への手紙なのか、刺々しい不機嫌面が少し和んでいる。
「手紙って、冒険者ギルドが運ぶもんなのか?」
彼が筆を走らせてる間、暇なのでイアニスへ不思議に思った事を尋ねてみると、彼は相変わらずの穏やかな口調で教えてくれた。
手紙や荷物などが国を超える場合、大手の商会でもない限りはギルドに頼むのが一般的だという。ギルドは国を越えて世界中に支部がある。届け先に一番近いギルドへ送られた後、そこから先は地域の配達業者が請け負うのだ。
「その配達業者は、ギルドと関係ない所なんだ?」
「そうだね。この街でいえば、郵便屋のモーラドが取り仕切っているかな」
聞けばそのモーラドさんとやらが束ねる配達業者は本人も含め職員全員が腕に覚えのある体育会系だという。やはり魔物の脅威と隣り合わせの職種らしい。
「ギルドからの依頼として配達を冒険者へ頼む場合もあるけど、トラブルがね……」
冒険者に荷物を頼むと、手紙が破れてたり物が盗られていたりという被害も出るみたいで、この辺りでは主にモーラド郵便局が頼られているという。
なんでも以前、子供からの手紙を楽しみにしている老夫婦が、保存状態が悪くインクが滲んで全く読めない手紙を冒険者に渡されたが、集落から自力で出られない為抗議する術を持たず、泣き寝入りをしたらしい。
それは気の毒だ…。
そんな冒険者ばかりじゃないけどね、とイアニスは教えてくれた。
そうか。だからこそ、ギルドで配達の依頼を受けられる人は限られてくるのかもな。少なくとも、ペーペーなEランクの俺が受けるのは難しいだろう。信頼が必要な仕事だ。
「配達料って、どうなるんだ?ギルドに支払うし、その先の業者にも払うって事だよな」
「勿論そうだよ。荷物によっては、護衛が必要になる場合だってある。そうなると更にかかるね」
「ふーん…」
この世界は手紙のやりとりでさえ一筋縄ではいかないようだ。さっきの話の老夫婦のように困っている人は、大勢いるのだろう。
国を跨いだ配達員……やっぱり需要ありそうじゃないか?何しろ俺には、車がある。ステルスモードで護衛要らず、目的地を設定すればそれでお終いな車が。
ふと気づけば、イアニスが考え込む俺を見てにこにこと微笑んでいた。菩薩様か。どうしたんだ、そんな顔して。
「いやぁ。なんだかイェゼロフの教え子たちを思い出しちゃって。あの子たちも今のあなたみたいに、それはもう色々聞いてくるんで、つい」
「お、教え子?」
「うん。街の子供たちに読み書きをね」
どうやら奉仕活動の一環で相手をしている子供たちと俺を重ねていたらしい。さすが貴族だ。資産家のチャリティー運動みたいなことしてるんだな。
「そんな歳で教師か。貴族も大変なんだな…君だって学校行ってるんじゃないの?」
「ははは。こう見えて51ですよ」
「51…?何が?」
「年齢が」
「は!?」
「魔族ですから。まぁ、僕もほんの10年ほど前に読み書きできるようになったばかりですけどね。平民だったんで」
やっぱり知らなかったんですね、とイアニスは楽しそうだ。その姿はどう見ても10代後半の若者である。
「おっどろいた…なんかすいません。魔族ってのを初めて見たもんで…」
「畏まらなくていいんですよ。人間には高齢でも、魔族としては子供みたいなものですから。精神年齢というのは、案外見た目に準じるもので」
「そ、そんなもん?」
「エルフもそう言いますよ」
「うるせー!さっきから気が散ってしょうがない!いい加減黙ってろ」
「因みにこいつは46歳です」
「うっっわ……マジか」
「何だその腹立たしい物言いは!」
46年も生きててこの非常識さ……。
確かにイアニスの言にも、一理あるのかもしれない。
出てきたばかりの門へ再び戻るのだった。
「これはレダート様。ようこそいらっしゃいました」
「やあ、こんにちわ。あれから井戸の調子はどうだろうか」
「はい、すっかり元通りのようです。ありがとうございました」
長い列を無視して検問所に向かうと、門兵の二人は糸目男子ことイアニスと親しげに会話を交わした。その流れで赤目男子と俺のギルドカードを確認すると、そのままあっさり中へ通される。
まさかの顔パスだ。どういう事?レダート様って呼ばれてたがひょっとして…
「うん。一応、ここの領主の息子だよ。養子だけど」
「えっ!?や、さっき冒険者だって言ってなかった?」
「ああ、Cランクでやってる。便利だからね」
街の中へと入りながら、イアニスはサラッと爆弾発言をかました。貴族かよ。なんでこんな厄介極まりない奴とつるんで冒険者なんてやってんだ!?益々理解できなかった。
しかし大丈夫なのか。貴族の連れだからといって、赤目男子のような危険人物を街に通すなんて。セキュリティーが甘いぞ、門兵。
「魔族ともあろうものが、人間の小倅に成り下がるなど…どういう神経をしているんだか」
前を行く赤目男子ことリヒャルトが、ぶつぶつ不満気に呟いている。いやいや、そのおかげで今、あんたもふんぞり返りながらここ通れたんだぞ…。そう思ったが、イアニスは無言で肩をすくめるだけだ。
魔族が人間の貴族の家に養子として迎え入れられるというのは、よくある事なんだろうか。魔族も貴族も全く馴染みが無い俺には、ちんぷんかんぷんだ。
しかし受け入れた貴族がいるという事は、そういうもんなのかもしれない。
それからリヒャルトは目についた店で用紙を購入すると、冒険者ギルドへ足を運んだ。
確か「文を出す」とか言ってたよな。不思議に思いながら、昨日ぶりのギルドへ入る。中は相変わらず、のんびりしていた。
ベンチとテーブルが並ぶ一角へ着くと、リヒャルトはいそいそと手紙を書き始めた。親しい人への手紙なのか、刺々しい不機嫌面が少し和んでいる。
「手紙って、冒険者ギルドが運ぶもんなのか?」
彼が筆を走らせてる間、暇なのでイアニスへ不思議に思った事を尋ねてみると、彼は相変わらずの穏やかな口調で教えてくれた。
手紙や荷物などが国を超える場合、大手の商会でもない限りはギルドに頼むのが一般的だという。ギルドは国を越えて世界中に支部がある。届け先に一番近いギルドへ送られた後、そこから先は地域の配達業者が請け負うのだ。
「その配達業者は、ギルドと関係ない所なんだ?」
「そうだね。この街でいえば、郵便屋のモーラドが取り仕切っているかな」
聞けばそのモーラドさんとやらが束ねる配達業者は本人も含め職員全員が腕に覚えのある体育会系だという。やはり魔物の脅威と隣り合わせの職種らしい。
「ギルドからの依頼として配達を冒険者へ頼む場合もあるけど、トラブルがね……」
冒険者に荷物を頼むと、手紙が破れてたり物が盗られていたりという被害も出るみたいで、この辺りでは主にモーラド郵便局が頼られているという。
なんでも以前、子供からの手紙を楽しみにしている老夫婦が、保存状態が悪くインクが滲んで全く読めない手紙を冒険者に渡されたが、集落から自力で出られない為抗議する術を持たず、泣き寝入りをしたらしい。
それは気の毒だ…。
そんな冒険者ばかりじゃないけどね、とイアニスは教えてくれた。
そうか。だからこそ、ギルドで配達の依頼を受けられる人は限られてくるのかもな。少なくとも、ペーペーなEランクの俺が受けるのは難しいだろう。信頼が必要な仕事だ。
「配達料って、どうなるんだ?ギルドに支払うし、その先の業者にも払うって事だよな」
「勿論そうだよ。荷物によっては、護衛が必要になる場合だってある。そうなると更にかかるね」
「ふーん…」
この世界は手紙のやりとりでさえ一筋縄ではいかないようだ。さっきの話の老夫婦のように困っている人は、大勢いるのだろう。
国を跨いだ配達員……やっぱり需要ありそうじゃないか?何しろ俺には、車がある。ステルスモードで護衛要らず、目的地を設定すればそれでお終いな車が。
ふと気づけば、イアニスが考え込む俺を見てにこにこと微笑んでいた。菩薩様か。どうしたんだ、そんな顔して。
「いやぁ。なんだかイェゼロフの教え子たちを思い出しちゃって。あの子たちも今のあなたみたいに、それはもう色々聞いてくるんで、つい」
「お、教え子?」
「うん。街の子供たちに読み書きをね」
どうやら奉仕活動の一環で相手をしている子供たちと俺を重ねていたらしい。さすが貴族だ。資産家のチャリティー運動みたいなことしてるんだな。
「そんな歳で教師か。貴族も大変なんだな…君だって学校行ってるんじゃないの?」
「ははは。こう見えて51ですよ」
「51…?何が?」
「年齢が」
「は!?」
「魔族ですから。まぁ、僕もほんの10年ほど前に読み書きできるようになったばかりですけどね。平民だったんで」
やっぱり知らなかったんですね、とイアニスは楽しそうだ。その姿はどう見ても10代後半の若者である。
「おっどろいた…なんかすいません。魔族ってのを初めて見たもんで…」
「畏まらなくていいんですよ。人間には高齢でも、魔族としては子供みたいなものですから。精神年齢というのは、案外見た目に準じるもので」
「そ、そんなもん?」
「エルフもそう言いますよ」
「うるせー!さっきから気が散ってしょうがない!いい加減黙ってろ」
「因みにこいつは46歳です」
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46年も生きててこの非常識さ……。
確かにイアニスの言にも、一理あるのかもしれない。
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