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「ところで、お名前をまだ聞いてませんでしたよね。伺っても?」
「あー、島屋です…」
そういや、名乗っていなかった。必要なさそうだけど、まぁ良いか。
「シマヤさんか…馴染みのない響きですね。ひょっとして、随分遠くから来られたんじゃないですか?」
「ええ、まぁ」
ふんふん、どうりで…、とイアニスは何やら思案顔だ。どうりで何だよ。意味深な。
「よし、終わった。出してくるぞ」
気まずくなっていると、どうやらリヒャルトが手紙を書き終えたようだ。もとの不機嫌面に戻っている。
「転移の便でね。何なら払うから」
「くだらん施しなど要るか。全く」
彼は何も無いところからすっと白い塊を取り出し、丁寧に折り畳まれた便箋へポンと封をした。封蝋だ。そんな物まで持ち歩いてたのか。
「…そのアイテムボックスってスキルは、マジックバックみたいなものだよな。珍しいの?」
一体どこから物を出してるのだろう。何が入ってたっけ?とかなりそうだ。普通のカバンですら、どこに鍵入れたっけとかなるのに…。
不思議に思ったままを口に出すと、リヒャルトとイアニスは無言で顔を見合わせた。ぽかんとしている。
「……本当にイェゼロフのクソガキどもみたいだな。何も知らんのか」
「魔族もマジックボックスのスキルも馴染みのない国かぁ…ふーん……どこだろうね?」
ああ、まずい。わりと常識的なスキルだったみたいだ。いらん事言ってしまった。
リヒャルトは単に呆れてるだけのようだが、イアニスの方は明らかに不審気だ。
不審そうにしながらも、イアニス先生は親切に教えてくれる。
アイテムボックスというスキルを持つのは大体100人に一人ほど。好きな時に好きなものを出し入れでき、不思議と持ち主は中にあるものを把握できるらしい。
「なんかこう…頭にリストみたいのが出るんだよね」
「へぇー…便利だなあ。何でも入るんですか?」
「容量次第ですね。あと、生き物は入れることができない」
「死体は入るぞ」
物騒なことを言い残して、リヒャルトは受付へ行ってしまった。それを笑いながら見届けて、イアニスは続ける。笑顔が怖いからやめて。
「容量はその人によってピンキリで、ポシェット1個分の者もいれば、城の倉庫数十軒分に相当するような者もいる」
何じゃそりゃ。そんな能力があって良いのかよ。
ただ、そこまでの規格外なアイテムボックスはごく稀で、国に一人いるかいないか。一般的に多いとされる容量は、せいぜい荷馬車数台分くらいだという。
「あのガキ…彼は、どれぐらいかな?あなたも持ってるんですよね」
リストが見えるというが、いまいち俺にはその感覚が分からなかった。
他の中身に混ざって、俺の荷物が迷子になったりしないよな?水とかかぶってびしょ濡れになってたらどうしてくれるんだ。
そう心配すると、イアニス先生はまた菩薩モードの微笑みを浮かべて答えた。見た目は高校生くらいなので、複雑だ。
「ハハハ、面白い事を言いますね。大丈夫。アイテムボックスの中で無くしたりはしないし、収容した時の状態が保たれているから壊れる事もない」
ただね、とイアニス先生は声を低くする。
「相手に容量うんぬんのことを尋ねるのは、控えた方がいい。便利なスキルだろう?容量が大きい者は、大抵それを誤魔化していますよ」
「そうなの?なんでまた」
「身を守るためです。悪い事を企む連中はどこにでもいるからね」
曰く、その能力を持ってると知った犯罪グループに騙されて利用され、救われない目に合う人もいるのだとか。
それは重大なプライバシーの侵害だな。なるほどねぇ、と頷いてると、イアニスは少し困ったように笑う。
「他人事みたいにしてるけど…あなたも気をつけた方がいいですよ。同じ理由で、魔力の多い人だって目をつけられますから」
「……今みたいに?」
「そうだねぇ。実際、とんだトラブルにあってるでしょう?」
あんたが言うかい。
鑑定アイテムを持ってウロウロしている怪しい二人組の台詞とは思えなかった。
「おい、出るぞ!くっちゃべってる時間があるなら、トイレを済ませておけ!」
全ての元凶であるリヒャルトが、戻って来るなりそう吼える。なんだよトイレて。お前はお前で、旅行先の担任教師か。
話を聞いていると、二人は東にあるイェゼロフの街から2日かけてやって来たらしい。野宿の長旅じゃないか。
休む間もなく出発なんて、大丈夫なのか?俺が心配する義理など無いので黙っているが、どうも二人は平気そうだ。
トイレをばっちり済ませた俺たちは、慌ただしい2度目の出発を果たす。門兵さん達の「あれ?もう行くの?」という不思議そうな顔に見送られ、原っぱに出るのだった。
ーーー
俺の本来の目的地は南だが、彼らは東へ向かうという。目指す集落は、街道沿いにある。
景色で気を紛らわせられたのは、最初のうちだけだった。履き慣れているとはいえ、こっちは革靴だ。たまにあるぬかるみを大きく避けながら、旅慣れた二人についていく。
まるで強歩大会だ。足が速いよあんたら。
「モタモタするな!日が暮れた中歩きたいのか?」
「無茶言うな…ハァ…もうちょいお慈悲を…ハァ」
「身体強化でもかけろ、それくらいできるだろう?!そんな魔力があるなら」
「何それ、知らんわ…!」
辛さのあまり、頭の中の言葉をそのままポッと出してしまう。
本当なら今頃、車でブーンと移動してるはずなのに…。理不尽な目に悔しがっていると、急に身体が軽くなり驚いた。
「楽になりました?」
「う、うん…なにこれ…?」
「ちょこっとバフかけましたよ。さぁ行きましょう」
「バフ?え、魔法?…勝手に…」
「黙れ!さっさと歩け!」
この野郎。ちゃんと説明くらいしてくれ。
イアニスが見かねて勝手にかけた「身体強化」の魔法で、一時的に俺の能力は上昇しているらしい。確かに腕も足も、少しの力で一気に動く。
「後でバテない程度に、ほんの少しだけですからね」
「はぁ…そりゃどうも…」
はじめは複雑だったが、歩いてみると快適でありがたい。そう言うと、イアニスは再び菩薩モードで笑った。うーむ、完全に子供扱いされてる。
にしても、かなり便利な魔法だ。俺も使えるようになるかな?
聞くと、こういう支援や弱体化の魔法は属性に関わらず使える魔術で、自分にかけたり、ましてや他人にかけたりするには専門の教育・鍛錬が必要らしい。スクロールなら手軽に誰でも使用可能だが、やはり鍛錬を積んだ者と効果の差は雲泥だという。
魔法使いの鍛錬か。一体どんな事をするんだろう。
……やっぱり使えなくていいや。
「あー、島屋です…」
そういや、名乗っていなかった。必要なさそうだけど、まぁ良いか。
「シマヤさんか…馴染みのない響きですね。ひょっとして、随分遠くから来られたんじゃないですか?」
「ええ、まぁ」
ふんふん、どうりで…、とイアニスは何やら思案顔だ。どうりで何だよ。意味深な。
「よし、終わった。出してくるぞ」
気まずくなっていると、どうやらリヒャルトが手紙を書き終えたようだ。もとの不機嫌面に戻っている。
「転移の便でね。何なら払うから」
「くだらん施しなど要るか。全く」
彼は何も無いところからすっと白い塊を取り出し、丁寧に折り畳まれた便箋へポンと封をした。封蝋だ。そんな物まで持ち歩いてたのか。
「…そのアイテムボックスってスキルは、マジックバックみたいなものだよな。珍しいの?」
一体どこから物を出してるのだろう。何が入ってたっけ?とかなりそうだ。普通のカバンですら、どこに鍵入れたっけとかなるのに…。
不思議に思ったままを口に出すと、リヒャルトとイアニスは無言で顔を見合わせた。ぽかんとしている。
「……本当にイェゼロフのクソガキどもみたいだな。何も知らんのか」
「魔族もマジックボックスのスキルも馴染みのない国かぁ…ふーん……どこだろうね?」
ああ、まずい。わりと常識的なスキルだったみたいだ。いらん事言ってしまった。
リヒャルトは単に呆れてるだけのようだが、イアニスの方は明らかに不審気だ。
不審そうにしながらも、イアニス先生は親切に教えてくれる。
アイテムボックスというスキルを持つのは大体100人に一人ほど。好きな時に好きなものを出し入れでき、不思議と持ち主は中にあるものを把握できるらしい。
「なんかこう…頭にリストみたいのが出るんだよね」
「へぇー…便利だなあ。何でも入るんですか?」
「容量次第ですね。あと、生き物は入れることができない」
「死体は入るぞ」
物騒なことを言い残して、リヒャルトは受付へ行ってしまった。それを笑いながら見届けて、イアニスは続ける。笑顔が怖いからやめて。
「容量はその人によってピンキリで、ポシェット1個分の者もいれば、城の倉庫数十軒分に相当するような者もいる」
何じゃそりゃ。そんな能力があって良いのかよ。
ただ、そこまでの規格外なアイテムボックスはごく稀で、国に一人いるかいないか。一般的に多いとされる容量は、せいぜい荷馬車数台分くらいだという。
「あのガキ…彼は、どれぐらいかな?あなたも持ってるんですよね」
リストが見えるというが、いまいち俺にはその感覚が分からなかった。
他の中身に混ざって、俺の荷物が迷子になったりしないよな?水とかかぶってびしょ濡れになってたらどうしてくれるんだ。
そう心配すると、イアニス先生はまた菩薩モードの微笑みを浮かべて答えた。見た目は高校生くらいなので、複雑だ。
「ハハハ、面白い事を言いますね。大丈夫。アイテムボックスの中で無くしたりはしないし、収容した時の状態が保たれているから壊れる事もない」
ただね、とイアニス先生は声を低くする。
「相手に容量うんぬんのことを尋ねるのは、控えた方がいい。便利なスキルだろう?容量が大きい者は、大抵それを誤魔化していますよ」
「そうなの?なんでまた」
「身を守るためです。悪い事を企む連中はどこにでもいるからね」
曰く、その能力を持ってると知った犯罪グループに騙されて利用され、救われない目に合う人もいるのだとか。
それは重大なプライバシーの侵害だな。なるほどねぇ、と頷いてると、イアニスは少し困ったように笑う。
「他人事みたいにしてるけど…あなたも気をつけた方がいいですよ。同じ理由で、魔力の多い人だって目をつけられますから」
「……今みたいに?」
「そうだねぇ。実際、とんだトラブルにあってるでしょう?」
あんたが言うかい。
鑑定アイテムを持ってウロウロしている怪しい二人組の台詞とは思えなかった。
「おい、出るぞ!くっちゃべってる時間があるなら、トイレを済ませておけ!」
全ての元凶であるリヒャルトが、戻って来るなりそう吼える。なんだよトイレて。お前はお前で、旅行先の担任教師か。
話を聞いていると、二人は東にあるイェゼロフの街から2日かけてやって来たらしい。野宿の長旅じゃないか。
休む間もなく出発なんて、大丈夫なのか?俺が心配する義理など無いので黙っているが、どうも二人は平気そうだ。
トイレをばっちり済ませた俺たちは、慌ただしい2度目の出発を果たす。門兵さん達の「あれ?もう行くの?」という不思議そうな顔に見送られ、原っぱに出るのだった。
ーーー
俺の本来の目的地は南だが、彼らは東へ向かうという。目指す集落は、街道沿いにある。
景色で気を紛らわせられたのは、最初のうちだけだった。履き慣れているとはいえ、こっちは革靴だ。たまにあるぬかるみを大きく避けながら、旅慣れた二人についていく。
まるで強歩大会だ。足が速いよあんたら。
「モタモタするな!日が暮れた中歩きたいのか?」
「無茶言うな…ハァ…もうちょいお慈悲を…ハァ」
「身体強化でもかけろ、それくらいできるだろう?!そんな魔力があるなら」
「何それ、知らんわ…!」
辛さのあまり、頭の中の言葉をそのままポッと出してしまう。
本当なら今頃、車でブーンと移動してるはずなのに…。理不尽な目に悔しがっていると、急に身体が軽くなり驚いた。
「楽になりました?」
「う、うん…なにこれ…?」
「ちょこっとバフかけましたよ。さぁ行きましょう」
「バフ?え、魔法?…勝手に…」
「黙れ!さっさと歩け!」
この野郎。ちゃんと説明くらいしてくれ。
イアニスが見かねて勝手にかけた「身体強化」の魔法で、一時的に俺の能力は上昇しているらしい。確かに腕も足も、少しの力で一気に動く。
「後でバテない程度に、ほんの少しだけですからね」
「はぁ…そりゃどうも…」
はじめは複雑だったが、歩いてみると快適でありがたい。そう言うと、イアニスは再び菩薩モードで笑った。うーむ、完全に子供扱いされてる。
にしても、かなり便利な魔法だ。俺も使えるようになるかな?
聞くと、こういう支援や弱体化の魔法は属性に関わらず使える魔術で、自分にかけたり、ましてや他人にかけたりするには専門の教育・鍛錬が必要らしい。スクロールなら手軽に誰でも使用可能だが、やはり鍛錬を積んだ者と効果の差は雲泥だという。
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