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シマヤバットも災難
「どうしてそうなる!?」
「何の冗談だ、それは…!?」
大幅に縮んだ到着時間を前に、魔族二人は雄叫びを上げた。イアニスに至っては口調がだいぶ豹変している。それが素なんか?
「いや、これは…あくまでも止まらずに全速で進んだ場合にかかる時間だから、実際はもっとかかるぞ」
「だとしてもおかしいよね?!」
「そもそも…こんな、ものが、どうやって、魔物になる…?」
「知らんよ。そういうスキルなんだ」
「そういうスキルなんだって…」
イアニスは引いてるが、こちらもそう説明する他ないのだった。
顎に手を当てて考え込んでしまった彼を他所に、リヒャルトが更に聞いてきた。
「魔物に、なって…その後はどうやって、もとに戻る?その間貴様は、魔物の腹の、中に…収まるのか?」
「いや、そういうわけでないよ…えーっと、キラーバットで試してみるか」
実際に見てもらおうと、再び代行モードを操作する。
これから魔物の姿になるけど絶対に攻撃してくれるなよと念を押すと、二人は何とも言えない顔を浮かべた。それでも頷いてはくれたので、俺は久々のキラーバットを車体に選択する。
代行リストには、見覚えのない名前がちらほらと増えていた。ちょうど時間もあるし、後でじっくり見返しとこう。
「代行操縦運転モードへ移行します。車体のHPに注意し、安全を確認して走行してください」
いつもの音声がして、窓の外がグニャグニャと歪む。
それが止んでクリアになった周囲は、例によって全てが巨大化していた。目の高さはほぼ床と一緒。呆気に取られた顔の二人が、はるか頭上からこちらを見下ろしている。
「キ、キラーバットだ…」
「…死んでるのか?」
「というより、目を開けて寝てるって感じだね」
二人は顔を見合わせ当惑している。
こちらからじゃ分からないが、死んでるように見えるのか…。確かに魔境でも「生気がないキラーバット」て言われてたな。
俺から目線では巨人と化したイアニスが、同じく巨人と化したリヒャルトと共に近づいてくる。ゆっくり恐る恐るといった動作だが、デカいので迫力が凄い。
「もしもし、シマヤさんですよねー?」と話しかけられるも、代行モード中なのでこちらからの声は届かない。というか、キラーバットになってるのは俺じゃなくて車だから!
うーん。説明するの忘れてた。
「まるで、剥製だな…本当に、やつなのか?」
「さぁ?少なくとも、本物のキラーバットではないだろうね。こんなに大人しい子がいるわけない。シマヤさん、ここに止まれますか?」
イアニスは自分の片腕を掲げて、ポンポンと示した。
「うわ。できるかな…」
飛び上がるのは簡単だが、狙った地点へ着地するのはかなり難しいのだ。日本でも俺は駐車がめちゃくちゃ苦手だった。
ギアをAに入れて小屋の中を滑空し、イアニスに向かってハンドルを切る。それからギアをDに変え、彼の腕を狙って下降した。あと少し…もうちょい…
「ここ!」 スカッ
渾身の気合いと共にPに入れるも、車はイアニスの腕の30センチほど右を素通りした。激しく上下左右に揺れながら、その場に浮遊し続けようとする。ヒーッ、酔う!
「おい…何をバタバタ、やっている…」
「あっははは!おしい~」
リヒャルトは呆れたようにこちらを睨み、イアニスは笑い出した。
こいつら……馬鹿にしおって。実際マジで難しいんだからな。そんなに笑うならやってみろや、絶対無理だから!
俺は文句を言ってやるべく床に着地し、ナビを操作しようとした。その時、すぐ側で「キィーーッ!」と甲高い鳴き声が上がった。
途端に血の気が引く。しまった。言葉の通じない本当の魔物がいるんだった…!突然知らないコウモリが現れたら、襲ってくるに決まっている。
案の定、おはぎコウモリが飛びついてきた。ホワホワの毛に尖った耳、真っ黒な羽と目は先ほどと変わらないが、とにかくクソデカい。車と大して変わらないサイズと化したそいつに、生理的な嫌悪感がゾゾッと湧き上がる。
「や、やめろ!このキモコウモリ!」
「キィ~、キィ~~」
聞こえている訳もなく、おはぎコウモリはそのでかい図体でグリグリと体を押し付けてくる。たまらず車体は大きく揺れ動き、このままでは横転しそうな勢いだ。
こんにゃろうと悪態をつきながらナビを操作するが、あまりの揺れで手こずる。このままじゃ車がスクラップにされちまう、と焦る俺とは裏腹に、リヒャルトとイアニスはあろう事か腹を抱えて笑い出した。
「なははは!し、シマヤさん…!求愛されとる!」
「あっはははははは!ウソだろう…ははは!……ははっ、ひーっ…くるし……!」
「笑ってんじゃねーよ!止めろばかタレ!」
「キュイッ!キィ~~」
グラグラする中、やっとのことでモード解除のボタンに指が届く。再び窓の外がぐにゃぐにゃし、運転席が元に戻っていく。車にぴったり張り付いていたおはぎコウモリが「ンギィ!?」とふっ飛ばされたのが分かった。
「ああっ、大丈夫か?」
「あっはっはっはっは…!ゲホッゲホッ…!」
視界が戻ると、床に転がったおはぎコウモリへイアニスが駆け寄っているのが見えた。リヒャルトは笑いながら咽てる。
ホッと安堵すると同時に、怒りが込み上げる。俺はケラケラ笑ってるだけの二人に向かって吼えた。
「ちょっと!呑気に笑ってないで助けてくれよ!車が壊れたらどうしてくれんだ?修理なんてできないんだからな!」
「す、すまない。けれどこの子に害意は無かったし、むしろ君にひ、一目惚れしたようだよ、ぶふふふ」
「キィッ!?ギィーーッ!」
元の手のひらサイズなおはぎコウモリは、キョロキョロと辺りを見回していた。「キィ?キィキィ…?」とちょこまか飛び回り、何やら探している。
なんでも、キラーバットとなった車体がおはぎコウモリの好みのタイプだったらしく、さっきのは襲いかかってきたのではなくて、単なる熱烈アタックだったらしい。
「何の冗談だ、それは…!?」
大幅に縮んだ到着時間を前に、魔族二人は雄叫びを上げた。イアニスに至っては口調がだいぶ豹変している。それが素なんか?
「いや、これは…あくまでも止まらずに全速で進んだ場合にかかる時間だから、実際はもっとかかるぞ」
「だとしてもおかしいよね?!」
「そもそも…こんな、ものが、どうやって、魔物になる…?」
「知らんよ。そういうスキルなんだ」
「そういうスキルなんだって…」
イアニスは引いてるが、こちらもそう説明する他ないのだった。
顎に手を当てて考え込んでしまった彼を他所に、リヒャルトが更に聞いてきた。
「魔物に、なって…その後はどうやって、もとに戻る?その間貴様は、魔物の腹の、中に…収まるのか?」
「いや、そういうわけでないよ…えーっと、キラーバットで試してみるか」
実際に見てもらおうと、再び代行モードを操作する。
これから魔物の姿になるけど絶対に攻撃してくれるなよと念を押すと、二人は何とも言えない顔を浮かべた。それでも頷いてはくれたので、俺は久々のキラーバットを車体に選択する。
代行リストには、見覚えのない名前がちらほらと増えていた。ちょうど時間もあるし、後でじっくり見返しとこう。
「代行操縦運転モードへ移行します。車体のHPに注意し、安全を確認して走行してください」
いつもの音声がして、窓の外がグニャグニャと歪む。
それが止んでクリアになった周囲は、例によって全てが巨大化していた。目の高さはほぼ床と一緒。呆気に取られた顔の二人が、はるか頭上からこちらを見下ろしている。
「キ、キラーバットだ…」
「…死んでるのか?」
「というより、目を開けて寝てるって感じだね」
二人は顔を見合わせ当惑している。
こちらからじゃ分からないが、死んでるように見えるのか…。確かに魔境でも「生気がないキラーバット」て言われてたな。
俺から目線では巨人と化したイアニスが、同じく巨人と化したリヒャルトと共に近づいてくる。ゆっくり恐る恐るといった動作だが、デカいので迫力が凄い。
「もしもし、シマヤさんですよねー?」と話しかけられるも、代行モード中なのでこちらからの声は届かない。というか、キラーバットになってるのは俺じゃなくて車だから!
うーん。説明するの忘れてた。
「まるで、剥製だな…本当に、やつなのか?」
「さぁ?少なくとも、本物のキラーバットではないだろうね。こんなに大人しい子がいるわけない。シマヤさん、ここに止まれますか?」
イアニスは自分の片腕を掲げて、ポンポンと示した。
「うわ。できるかな…」
飛び上がるのは簡単だが、狙った地点へ着地するのはかなり難しいのだ。日本でも俺は駐車がめちゃくちゃ苦手だった。
ギアをAに入れて小屋の中を滑空し、イアニスに向かってハンドルを切る。それからギアをDに変え、彼の腕を狙って下降した。あと少し…もうちょい…
「ここ!」 スカッ
渾身の気合いと共にPに入れるも、車はイアニスの腕の30センチほど右を素通りした。激しく上下左右に揺れながら、その場に浮遊し続けようとする。ヒーッ、酔う!
「おい…何をバタバタ、やっている…」
「あっははは!おしい~」
リヒャルトは呆れたようにこちらを睨み、イアニスは笑い出した。
こいつら……馬鹿にしおって。実際マジで難しいんだからな。そんなに笑うならやってみろや、絶対無理だから!
俺は文句を言ってやるべく床に着地し、ナビを操作しようとした。その時、すぐ側で「キィーーッ!」と甲高い鳴き声が上がった。
途端に血の気が引く。しまった。言葉の通じない本当の魔物がいるんだった…!突然知らないコウモリが現れたら、襲ってくるに決まっている。
案の定、おはぎコウモリが飛びついてきた。ホワホワの毛に尖った耳、真っ黒な羽と目は先ほどと変わらないが、とにかくクソデカい。車と大して変わらないサイズと化したそいつに、生理的な嫌悪感がゾゾッと湧き上がる。
「や、やめろ!このキモコウモリ!」
「キィ~、キィ~~」
聞こえている訳もなく、おはぎコウモリはそのでかい図体でグリグリと体を押し付けてくる。たまらず車体は大きく揺れ動き、このままでは横転しそうな勢いだ。
こんにゃろうと悪態をつきながらナビを操作するが、あまりの揺れで手こずる。このままじゃ車がスクラップにされちまう、と焦る俺とは裏腹に、リヒャルトとイアニスはあろう事か腹を抱えて笑い出した。
「なははは!し、シマヤさん…!求愛されとる!」
「あっはははははは!ウソだろう…ははは!……ははっ、ひーっ…くるし……!」
「笑ってんじゃねーよ!止めろばかタレ!」
「キュイッ!キィ~~」
グラグラする中、やっとのことでモード解除のボタンに指が届く。再び窓の外がぐにゃぐにゃし、運転席が元に戻っていく。車にぴったり張り付いていたおはぎコウモリが「ンギィ!?」とふっ飛ばされたのが分かった。
「ああっ、大丈夫か?」
「あっはっはっはっは…!ゲホッゲホッ…!」
視界が戻ると、床に転がったおはぎコウモリへイアニスが駆け寄っているのが見えた。リヒャルトは笑いながら咽てる。
ホッと安堵すると同時に、怒りが込み上げる。俺はケラケラ笑ってるだけの二人に向かって吼えた。
「ちょっと!呑気に笑ってないで助けてくれよ!車が壊れたらどうしてくれんだ?修理なんてできないんだからな!」
「す、すまない。けれどこの子に害意は無かったし、むしろ君にひ、一目惚れしたようだよ、ぶふふふ」
「キィッ!?ギィーーッ!」
元の手のひらサイズなおはぎコウモリは、キョロキョロと辺りを見回していた。「キィ?キィキィ…?」とちょこまか飛び回り、何やら探している。
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