ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな

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「くくくくっ、おい、貴様……今のは、こいつの化けた姿だ…もうどこにも、いやしない」
「キ、キィ?」
「残念、だが……諦めるんだな…」
「俺じゃなくて、車だ!車」

俺とリヒャルトとイアニスが何とか事情を説明する事数分、おはぎコウモリはようやくキラーバットがここにいないのを理解した。
しかしどう理解したのか、今度は俺の頭上を怒り狂って飛び回り、執拗に追いかけるようになってしまった。

「地獄……」
「そんなに忌み嫌う事ないじゃないか」
「俺はコウモリが大っ嫌いなんだ…」
「ギィギィ!ギィギィ!!」
「返せ返せと…言ってるぞ」
「知らねー!ただの車なんだって!頼むから諦めてくれ。あんたらからもちゃんと言ってよ、俺じゃ言葉が通じてないんだから」

どうやら魔族と魔物は意思疎通が可能のようで、通訳をして貰ったものの、「散々教えているんだけどね…」「当の奴が、聞く耳を持たん」とどうにもならなかった。

「と、とにかくまぁ…こんな感じで、魔物と言っても本物じゃない。あくまでそういう性能を持った車体になるって事だから」
「見た所、快適な旅とはいかなそうだね…」

気を取り直し、そしておはぎコウモリの恨めしげな視線を無視して、俺は話を戻す。

安全性でも時間的にも、ジズになるのが一番良さそうだと俺は思ったが、二人から代行モードでの移動は断られてしまった。
あまりに到着時間が早過ぎて、不安が拭えないらしい。まぁ、5日の道のりを25分でと言われても、現実味がないだろうな。

「それに…陸続きでもこんな短時間で辿り着くルートがあるなら知っておきたい。調査は必要だろうけど…もしこの山に道を敷くのが可能なら、願ってもないことだ」

イアニスは真面目な顔で、陸路のルートを映したナビ画面を眺め言った。先ほどとは打って変わって、執政者の顔だ。

「さっきも話したけど…レダーリア山は険しくて貧しい場所でね。きのみや薬草もなければ、獣もいない。まぁ、無い事はないが…もっと安全にたくさん取れる場所が他にある。沢や渓谷が多く、似通った景色ばかりで遭難しやすい。それこそリヒー並の意味不明な理由でも無い限り、立ち入る者はいない山だ」
「おい…!」
「なら、山道を敷いても仕方ないんじゃ…?」
「いいや。人の手が入らない場所は、どうしても魔物が大規模な群れを作りやすい」

魔物たちが勢力をつければ、やがて人里を襲うようになる。特に、何でも食べてよく増えるゴブリンなんかの魔物だと、非常に厄介な事になるという。

そんな彼らの要望を踏まえ、陸路で向かうことが決まった。


ーーー


それから暫く経ち、リヒャルトの体調がだいぶ回復したのを見計らって出発した。
埃っぽい小屋から出ると、とりあえず人目を避けるため集落を後にする。空は相変わらず雲行きが怪しかった。

街道に出た所で改めて車を出し、全員乗車する。レダーリア山の麓までは、ステルスモードでの移動だ。
後部座席へ乗り込んだ魔族男子ズはソワソワと車内を見渡している。

「狭ぇ…」
「うん、足を伸ばすスペースがもっと欲しいね。けど思ったより座り心地がいいや」
「キキキーィ」

それが第一声の感想だった。ナビを再確認していた俺は、反射的に振り返って叫ぶ。

「おいそこ!コウモリは降りろ!」

そこにはなんと、おはぎコウモリが何食わぬ顔で2人の間にちょこんとおさまっていた。当たり前みたいに着いてくるんじゃない!

「何を今更騒いでる。さっきまでなんとも言わなかったろうが」
「知らない知らない、気づいてたんなら言ってくれよ!」
「裾の中に張り付けてるから、てっきり貴方が連れ歩いてるんだと…」

貼り付けてない、勝手に張り付いてんだ!何で黙ってんだよこいつら。

「キィー」
「シャムドフ様のお話では、今から行く場所は魔物も通うほどの所だったそうじゃないか。気になるから、行ってみたい。そもそも、オマエらが暴れ回ったせいであの家は当分使えないんだから、オマエらがジブンの面倒を見るのは当たり前だ……って言ってるよ」
「…今の全部、『キィー』の一言で言いきったんか?尺足りないだろ…」

大体、今から向かうのはダンジョンもどきだぞ。聞けばプラムバットは弱い魔物の部類に入るらしく、そんな奴がダンジョンで暮らしていけるはずもなかった。魔物であれ人であれ、外部からの存在を吸収しようとするのがダンジョンだ。

「それ以前に、普通にばっちいわ!野生のコウモリなんて、どんな病気持ってるか分からんだろ。帰れ帰れ!」
「キキキ~?」
「汚いコウモリなど連れて行きたくないから失せろ、と言ってるぞ」
「!?」

おはぎコウモリに俺の言葉を翻訳するリヒャルト。確かに内容は一緒だけど、30倍くらい悪意が増している。その台詞を受けて、おはぎコウモリはピタッと固まった。

「…………キ」

またギーギー騒がれるのかとうんざりする俺の予想に反し、弱々しい鳴き声がぽつりと上がった。
ん?と見やれば、二人の間で丸くなった毛玉がしょんぼりと座席の下を見つめているのだった。そのあからさまに傷ついた様子に、思わず「え…」と狼狽えてしまう。

「俺のせいじゃない、よな?」
「貴様のせいだろう」
「リヒーに勝るとも劣らない酷さだ…」
「ええ!?今のはあんたがわざと意地悪な言い方したからだろ」
「フン、よく言う。貴様も同じだ」
「シマヤさんも大して変わらないよ」

同時にキッパリと告げられて、俺は鼻白らむ。納得いかないが、おはぎコウモリのあまりの落ち込みように何も言えなかった。縮こまった姿はすっかりまん丸で、本物のおはぎのようなフォルムになっている。

参ったな。流石に気まずさが勝った俺は、慌てて謝った。

「す、すまん。言い過ぎたよ。運転中は危ないから、飛び回るなよ」
「…キ……キィ?」
「はは。言い過ぎてごめんね、無闇に飛び回っちゃだめだよ。だって」
「あと絶対ウンコしないで。どうしても無理な時は、こいつらの服の上でして」
「キィー…?」
「……」
「こいつ……」

俺は口を酸っぱくして繰り返したのに、リヒャルトもイアニスも翻訳してくれなかった。


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