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地図を見れば、レダーリア山の麓までは直線距離で向かえるようだ。道がないというのも、手っ取り早いもんだ。
「ステルス運転モードへ移行します。車外へ出るときは安全を確認しましょう」
「なんだっ!?誰だ貴様!」
「ハイハイ、ただの音声だから怒んないで。出発するよ」
「はい。お願いします」
「キキッ」
どんよりした雲の広がる原っぱを、奇妙な顔ぶれを乗せた車は進む。地図の先を辿ると、レダーリア山はここからでも充分確認できる位置にあった。この調子では、15分とかからず麓に到着しそうだ。
「音声と言っていたけど、今のはこのクルマが喋ったんじゃないのかい?」
「そうじゃなくて…えーっと、あらかじめ入れてある音声がその都度流れる仕組みなんだ。だから受け答えとか、会話してくれる訳じゃないよ」
「そうなのか…。全く、大したものだね。謎のお喋り機能もついているし、揺れが少ないのにずいぶん速い。こんな乗り物が一般市民でも手に入るんだろう?異世界は」
イアニスは流れる外の景色を眺めながら、少し興奮気味に言った。そんな彼を一瞥して、リヒャルトが「そういえば」と口を開く。
「異世界から人がやって来るという話は、昔聞いたことがあるな」
「へぇ、本当かい?」
「そ、そうなの!?」
「お祖母様が教えてくださった」
なんと。俺以外にも異世界転移か転生を果たした人がいたと?ひょっとするととは思っていたが、まさか本当にそうだなんて。…はやく知りたかったな、それ。
「なんでも、海の向こうの遠国では異世界から人間を呼び寄せる召喚の儀式とやらが伝わっているらしい。儀式によって現れた人間はみな奇妙な言動をとるも、計り知れない力やスキルを持つ超人だったとされる……人間のくせに…」
おお。どっかで聞いたことのあるような話だ。あれだよな…勇者とか聖女とかいって、現代人が異世界召喚されちゃうやつ。大抵、片道切符で帰れないんだよな。
「異世界から人が来た前例があったなんてね…知らなかったよ」
「確か……ウノとヤキューは、異世界からもたらされたものだと聞いたぞ」
「えっ、そうだったんだ。シマヤさん、知ってる?」
「ウノって…UNO?カードで遊ぶやつ?」
「そうそう」
またもや驚くべきことが判明した。UNOに野球。そんな物が伝わっているのなら、間違いない。俺の他にも、普通に異世界転移した奴がいたんだ。
ていうかUNOって…ニッチなとこいったな。そこはトランプとか花札じゃないんか、同胞よ。UNOしか流行らなかったのかもしれない。それに…
「そっか。この世界の人も、野球で遊ぶんだ」
何だか少し、嬉しい話を聞いたな。
野球の面白さってのは、やはり世界を超えて人を夢中にさせるらしい。俺もやるのはからっきしだが、夏の甲子園は必ず観てた。
しみじみしている俺に、イアニスの質問攻めが始まった。聞かれるがまま、俺は日本という国で車の事故にあいこの世界へやって来た事を伝えた。信じてもらえるか疑問だが、事ここに至ってこいつらにどう思われようと構いやしない。
「なるほどねぇ、魔法も神々もいない世界だなんて……シマヤさんの浮世離れっぷりに納得がいった」
「ニホンの魔族の話をしろ」
「いや、だからいないよ。人間と動物と植物でおしまい」
「…くだらん国だ」
「そこまで言うかよ?」
ブレないな、このクソ魔族。
最初は石のように固まって動かなかったおはぎコウモリが、いつの間にやらのそのそとダッシュボードの上へとやって来ている。ハニワやピコのぬいぐるみに向かってぶわわっと毛を逆立てている姿を横目に、俺はふと溢した。
「…あっちじゃ俺は死んだことになってるだろうから、この世界で生きてかないと。つっても、どうもこのスキルは…あまりこの世界じゃ受け入れてもらえないような力なんだよな…こそこそ隠れたり、魔物になったりさ」
「ふぅむ。確かに少々、扱い方に気をつけないとだね。特殊スキルというのは、総じてそんなものだよ」
「だよな。しまいには変な魔族やコウモリに絡まれるし…こんな目にあうくらいなら、何もスキルに拘って生きてかなくても良いのかもな」
思った以上に悪目立ちする力だ。リヒャルトやイアニスはまだ話のわかる連中だが、もっと洒落にならない犯罪の片棒を担ぐ羽目になっていたら?強盗、密入国、殺人幇助……その気になれば容易にできてしまう。
せっかくの特殊スキルだけど…そんな危険な目に合うのなら、元も子もない。
それに…俺は魔境でのレベル上げの日々を思い出した。ラスタさんに命を張ってもらっている間に、自分は安全なステルスモードの車の中。好意で貰った高価な財宝たち。
これって、そうとうズルい使い方だよな?良いんかなぁ、そんな力に頼った生き方って。
「フン。そんな事で思い悩むとは、実に愚か。やはり人間とは下等な生き物なのだな」
「いや、そこまで言うか?さっきからよ」
「スキルは力だ。持ち主の一部だ。生かすか殺すかを悩む必要がどこにある」
リヒャルトはいつもの調子で揺るぎなく言い切る。相変わらず傲慢ちきな態度だが、何故かこればかりは不愉快に感じなかった。
「己の持つ力で生きていくなど、誰でもやっていることだ」
「そうだね。生きていくって、つまりお金を稼ぐという事だろう?幾らでもやりようのあるスキルだ。例えば、ある土地ではありふれていて価値の薄いものが、遠い別の土地では貴重で高価なものに変わる」
大雑把だけど、商売の鉄則だよね。そう語るイアニスの言いたい事は、何となく分かった。俺も考えていた事だからだ。
安く仕入れて、別の場所で高く売る。それは、このスキルの上手な使い道のような気がした。
スキルは力……俺の一部、かぁ。
少々すっきりした心持ちで、俺はリヒャルトの言葉を反芻するのだった。
「ステルス運転モードへ移行します。車外へ出るときは安全を確認しましょう」
「なんだっ!?誰だ貴様!」
「ハイハイ、ただの音声だから怒んないで。出発するよ」
「はい。お願いします」
「キキッ」
どんよりした雲の広がる原っぱを、奇妙な顔ぶれを乗せた車は進む。地図の先を辿ると、レダーリア山はここからでも充分確認できる位置にあった。この調子では、15分とかからず麓に到着しそうだ。
「音声と言っていたけど、今のはこのクルマが喋ったんじゃないのかい?」
「そうじゃなくて…えーっと、あらかじめ入れてある音声がその都度流れる仕組みなんだ。だから受け答えとか、会話してくれる訳じゃないよ」
「そうなのか…。全く、大したものだね。謎のお喋り機能もついているし、揺れが少ないのにずいぶん速い。こんな乗り物が一般市民でも手に入るんだろう?異世界は」
イアニスは流れる外の景色を眺めながら、少し興奮気味に言った。そんな彼を一瞥して、リヒャルトが「そういえば」と口を開く。
「異世界から人がやって来るという話は、昔聞いたことがあるな」
「へぇ、本当かい?」
「そ、そうなの!?」
「お祖母様が教えてくださった」
なんと。俺以外にも異世界転移か転生を果たした人がいたと?ひょっとするととは思っていたが、まさか本当にそうだなんて。…はやく知りたかったな、それ。
「なんでも、海の向こうの遠国では異世界から人間を呼び寄せる召喚の儀式とやらが伝わっているらしい。儀式によって現れた人間はみな奇妙な言動をとるも、計り知れない力やスキルを持つ超人だったとされる……人間のくせに…」
おお。どっかで聞いたことのあるような話だ。あれだよな…勇者とか聖女とかいって、現代人が異世界召喚されちゃうやつ。大抵、片道切符で帰れないんだよな。
「異世界から人が来た前例があったなんてね…知らなかったよ」
「確か……ウノとヤキューは、異世界からもたらされたものだと聞いたぞ」
「えっ、そうだったんだ。シマヤさん、知ってる?」
「ウノって…UNO?カードで遊ぶやつ?」
「そうそう」
またもや驚くべきことが判明した。UNOに野球。そんな物が伝わっているのなら、間違いない。俺の他にも、普通に異世界転移した奴がいたんだ。
ていうかUNOって…ニッチなとこいったな。そこはトランプとか花札じゃないんか、同胞よ。UNOしか流行らなかったのかもしれない。それに…
「そっか。この世界の人も、野球で遊ぶんだ」
何だか少し、嬉しい話を聞いたな。
野球の面白さってのは、やはり世界を超えて人を夢中にさせるらしい。俺もやるのはからっきしだが、夏の甲子園は必ず観てた。
しみじみしている俺に、イアニスの質問攻めが始まった。聞かれるがまま、俺は日本という国で車の事故にあいこの世界へやって来た事を伝えた。信じてもらえるか疑問だが、事ここに至ってこいつらにどう思われようと構いやしない。
「なるほどねぇ、魔法も神々もいない世界だなんて……シマヤさんの浮世離れっぷりに納得がいった」
「ニホンの魔族の話をしろ」
「いや、だからいないよ。人間と動物と植物でおしまい」
「…くだらん国だ」
「そこまで言うかよ?」
ブレないな、このクソ魔族。
最初は石のように固まって動かなかったおはぎコウモリが、いつの間にやらのそのそとダッシュボードの上へとやって来ている。ハニワやピコのぬいぐるみに向かってぶわわっと毛を逆立てている姿を横目に、俺はふと溢した。
「…あっちじゃ俺は死んだことになってるだろうから、この世界で生きてかないと。つっても、どうもこのスキルは…あまりこの世界じゃ受け入れてもらえないような力なんだよな…こそこそ隠れたり、魔物になったりさ」
「ふぅむ。確かに少々、扱い方に気をつけないとだね。特殊スキルというのは、総じてそんなものだよ」
「だよな。しまいには変な魔族やコウモリに絡まれるし…こんな目にあうくらいなら、何もスキルに拘って生きてかなくても良いのかもな」
思った以上に悪目立ちする力だ。リヒャルトやイアニスはまだ話のわかる連中だが、もっと洒落にならない犯罪の片棒を担ぐ羽目になっていたら?強盗、密入国、殺人幇助……その気になれば容易にできてしまう。
せっかくの特殊スキルだけど…そんな危険な目に合うのなら、元も子もない。
それに…俺は魔境でのレベル上げの日々を思い出した。ラスタさんに命を張ってもらっている間に、自分は安全なステルスモードの車の中。好意で貰った高価な財宝たち。
これって、そうとうズルい使い方だよな?良いんかなぁ、そんな力に頼った生き方って。
「フン。そんな事で思い悩むとは、実に愚か。やはり人間とは下等な生き物なのだな」
「いや、そこまで言うか?さっきからよ」
「スキルは力だ。持ち主の一部だ。生かすか殺すかを悩む必要がどこにある」
リヒャルトはいつもの調子で揺るぎなく言い切る。相変わらず傲慢ちきな態度だが、何故かこればかりは不愉快に感じなかった。
「己の持つ力で生きていくなど、誰でもやっていることだ」
「そうだね。生きていくって、つまりお金を稼ぐという事だろう?幾らでもやりようのあるスキルだ。例えば、ある土地ではありふれていて価値の薄いものが、遠い別の土地では貴重で高価なものに変わる」
大雑把だけど、商売の鉄則だよね。そう語るイアニスの言いたい事は、何となく分かった。俺も考えていた事だからだ。
安く仕入れて、別の場所で高く売る。それは、このスキルの上手な使い道のような気がした。
スキルは力……俺の一部、かぁ。
少々すっきりした心持ちで、俺はリヒャルトの言葉を反芻するのだった。
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