ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな

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見張りを2回経て眠った翌朝。
暗い早朝に目が覚める。魔物が現れる事はなく、心配していた雨も降らなかった。忙しなく起きたり横になったりを繰り返したので、寝覚めは良くない。

モゾモゾと身を起こすと、腹の上でも何かがモゾモゾ動く。見覚えのある毛玉が、真っ黒な目でこちらを見上げていた。

「うわっ!また出たなお前!?」
「キキキー」
「魔除けの効力がきれたからね。あれからずっと僕らの周りを健気にウロついてたみたいだよ」
「わざわざ『魔繋ぎの紐』を解いてやったのに…呆れた色ボケコウモリだ」

イアニスとリヒャルトはもうすっかり起き上がって、テキパキと片付けを始めている。おはぎコウモリは俺が起きたのを確認すると、ぴょんと地面に飛び降りた。リヒャルトが括り付けたというミサンガが、その片足からなくなっている。例の便利アイテムは魔繋ぎの紐というらしい。

「なぁ…こいつ連れて行って大丈夫なのか?ダンジョンなんか入ったらやられちまうんじゃ」
「どうなんだい?リヒャルト」
「魔物は大した事ない奴らばかりだ。スライムだの骨食いムカデだの…それこそプラムバットでも出てくるかもな」

今から向かうダンジョンもどきについて、リヒャルトはそう話した。
どちらかと言えばいない方がマシだが、いても問題ないだろう。結局、結論はそれだった。何よりおはぎコウモリ自身が付いてくと出張ってきかないから、追い払っても無駄だろうと。

「危なくなったらとりあえず、シマヤさんの背中にひっついてるんだよ。昨日みたいに」
「キキッ」
「おーい、勝手に決めるなや」

俺は一応文句を垂れたが、内心諦めていた。今までのとぼけた様子を見るにこいつは、魔物とは思えないほど無害だ。同じコウモリでも魔境のキラーバットとは雲泥で、むしろダンジョンでぽっくり死なないか心配ですらある。

さて片付けだ。せっせと己の敷き布や寝袋、毛布がわりのマント、湯沸かし道具なんかを収容。
荷物をまとめた後、キーを開けて軽を出す。車を前に渋い顔の二人へ「なるべく下を向かないように、遠くを眺めてろ」と注意して、後部座席へ押し込んだ。

「イアニスなんて昨日、地図を見てたろ。そりゃ酔うよ。リヒャルトは…あんだけ威張ってたくせに、普通に酔ったな」
「黙れ!貴様の腕が悪いせいだ。前のめりでヒーヒー言っていたろうが」
「あー…否定できんけども…俺もなるべく気をつけるから、お前らも頑張って。あと少しのはずだから」
「そうだね…」

嫌々座り込む二人と、サンバイザーにぶら下がる1匹を乗せて再びエンジンをかける。よし、MPは随分回復してる。ナビを確認すると、あと30分くらいで到着だ。

「じゃ、行くぞ」
「ああ」
「頼むよ」

苔むし看板を通り過ぎて、昨日に引き続きくねくね道を登っていく。景色は相変わらず鬱蒼とした山中で、ふとした時に目も眩むような高さの崖下が現れた。随分登ってきたな。


ーーー


「あれだ…もう見えてきた」

硬い表情で外を眺めていたリヒャルトが、やがてそう呟いた。その視線の先を見上げると、梢の向こうに建物の一部が覗いている。瓦屋根だ!

「あっ、本当だ!信じられない…こんな山奥に」
「本当に着いたな」

車内が一気に色めき立つ。これから泊まるホテルが見えてきたみたいな感じだが、あれ廃ホテルよろしくなダンジョンなんだよな…。チラリと見えただけでも、見覚えのある雰囲気の建物なのが分かった。

「目的地周辺です。ルート案内を終了します」

それから少し経ち、とうとうナビが到着を告げる。今回は突然の案内終了によるほっぽり出しは受けなかった。進行方向には背の低い石塀が左右に伸びていて、山の中にあって異様なそれが目を引いた。あれが目的地だ。
そのまま近寄っていくと、やがて入口らしき門構えが見えてくる。

見た目は本当に、日本のちょっといい旅館だ。
石の塀と、所々にかろうじて残っている紺の瓦。その殆どは、下に落ちて砕け散っている。木造の柱と梁は上へいくにつれて変色し、危うげながら形を保っている。伸び放題の草や苔に覆われて、全体が緑に沈んでいるようだ。

「廃ホテルのホラーツアーだ…」
「あ?何と言った?」
「ここが入り口かい?」
「そうだろうな。私がいつも入り込んでいる場所とは違うが」

早速ドアを開けて外に出ていく二人に、慌てて着いていく。リヒャルトの肩越しに入り口の向こうを伺った。
とにかく草木がボーボーだ。それまでこの山にあった植物ではない、色や形の違う葉があちこちに群生している。恐らくは、お庭の成れの果てだろう。

「いやはや、無事に着いたね。たった1日半で…。リヒー、体調は?」
「問題ない。ひとまず外周を当たり、私の把握している入り口を探す。そこからなら、多少の土地勘を掴める」
「了解した。奥に入ったことはないの?」
「一階の一部しか周ってない」

二人はテキパキと打ち合わせのようなものをし始めた。はえー、慣れてんなぁ。
と、そんな他人事の構えをしてる場合ではなかった。俺も行くんだ。

「あのー、俺は戦闘からっきしだから、ステルスモードで二人の後をついてってもいいかな?」
「うーん…よほど安全なら、その方がいいかもしれないけど。僕らからも姿が見えなくなるのだろう?」
「うん、そう」
「それなら少し心配かな」

ステルスモードの間は、イアニスたちは車を認識できなくなるし、俺も彼らに声をかけられなくなる。不測の事態にあった時にそれでは困るから、車は基本使わないで欲しいようだ。その代わり、護衛をしてくれると言う。
ダンジョンでもステルスモードが通用するのか検証したい所だったが、それなら仕方ない。守ってもらえるのなら、それでいいか。

「けど、検証は是非してもらいたい。もし普段通りの車が使えるなら、緊急避難路を常に確保しておけるようなものだ」
「分かった。やってみるよ」
「使えたらな。さっきも言ったが、そんな上手い話があるものか。あと私はこんなヤツ守らんぞ。やるなら貴様が全てやれ」
「ハイハイ、分かったよ」
「…そういう事いうのかよ。帰りはお前だけ置き去りにしてやるからな」
「黙れ!行くぞ!」
「キキィー」

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