ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな

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ドルトナの街壁が見えてくる頃には、日が傾きかけていた。
リヒャルトはアイテムボックスから装束の入った箱を取り出しあれこれしてみたが、やはりスカスカで触れる事はできなかった。数日様子を見つつ、対処法が無いかを調べるという。

「リヒャルト的にはそいつをダンジョンに吸収させたいんだろ。持ってきて良かったのか?」
「こんなものより魔物を放り込んでる方がマシだ。これはこれで他に使い道がある」
「そうなのか?どんな」
「金に目が眩んだ愚か者どもを釣るのに最適だ。ここにいるアホとか」
「あははは。貴重な源泉の手がかりだとか言って、また僕をこき使うのに振りかざすんだろうさ」
「他人事みたいに……ていうか、駆け引きばっかりだなあんたら、友だちじゃないのかよ…?」
「まぁね、そうだよ」
「誰がこんなアホと!」

180度違う返答をする二人の声に被せるように、ナビが「およそ800メートル先、目的地付近です」と喋り出す。久しぶりに発せられた音声に、ぶら下がって眠っていたおはぎコウモリが「ウヴッ」と呻いて目を覚ました。

「ああ、この分じゃ街に入れそうだ。…乗り物酔いには参ったけど、本当に便利なスキルだね」

色づいた夕日で影を落とすドルトナの街壁を見て、イアニスが嬉しそうに言った。

「ここでステルス解いたら目立つから、あの辺の林で降ろすぞ」
「このまま街に入っちまえば良いだろうが」
「嫌だよ…」
「それはダメ」

相変わらずお構いなしな発言をするリヒャルトへ、俺とイアニスが拒否の姿勢をとる。そりゃ、キラーバットになって入り込めるだろうけどさ、領主一族の真ん前でそんなズルできんだろ…。

「俺はもう街に用はないから、お前ら降ろしたら行くよ」
「貴方には本当にご迷惑をおかけしました、シマヤさん。行きずりで巻き込んでしまって申し訳ない」
「全くだよ、ホント……、でもまぁ色々教えてもらったし、荷物もちゃんと返してもらったしな」
「リヒャルト、君も何とか言いなよ」
「フン。貴様も途中からは自分で着いてきたようなものだろう。それに、つけ込まれる方が悪い」
「降りろ、クソ魔族」
「あ?やるか?クソ雑魚野郎」
「促した僕が馬鹿だったよ…」

林に向けてハンドルを切る俺に、イアニスは「それはそうと」と声をかけてくる。

「これからどちらへ?この時間だと、街に入れるのは明日の朝になってしまうよ」
「ああー、やっぱりそうか…国境に向かうんだけど、魔物避けの場所とか知らない?」
「国境……今からリモダか。もちろんお教えできるけど、よければドルトナで一泊していきません?お詫びも兼ねて宿をこちらで用意するよ」
「ええっ?うーん…」

しばし迷う。野宿は免れないと思っていたのでその申し出はありがたい筈なのだが…いや、でもなぁ。リヒャルトは勿論、イアニスも大概厄介な奴だ。もう関わらない方が良い気がする。

「あれっ、どうして迷うんです?…ひょっとして、お詫びが足りないかな?」
「い、いやいや、そうじゃなくて。先を急ごうかと思ってさ」
「なら、宿ではなく路銀をお渡ししよう。異世界からやって来たばかりで、懐が心許ないでしょう」
「路銀…」

ぐぬぬ、警戒心が金欲に押されていく。正直懐はぬくぬくだが、路銀なんてなんぼあっても良いですからね。
迷惑も被った事だし、これくらい受け取ってもいいよな。

「フン……どいつもこいつも金、金、金だな」

リヒャルトの小言が飛んでくる。うっせ、無視だ無視。

林で車を降りた後、一悶着が起きた。おはぎコウモリが降車拒否したのだ。
なんでも、赴いたダンジョンもどきは食べ物が乏しく、住むのは諦めたらしい。その代わり車の中が温かく快適ですっかり気に入ってしまったって…。
この毛まみれおはぎめ。

「ギィーッ!ギィーッ!」
「ギィーはこっちのセリフだ、降りろ!お前の家じゃないから!」
「ギィ!」
「もうジブンの家だ、と言ってるぞ」
「冗談じゃねーよ…!」

助手席にちょこんとおさまって不服そうに見上げてくるそいつを捕まえようとしたが、狭い車内をビュンビュンと逃げ回る。座席の下へ潜り込んだり、ピコのぬいぐるみにしがみついたりとにっちもさっちもいかなかった。

「クッソ!どうすりゃいいんだコイツ…」
「住ませてあげれば?」
「何でだよ、嫌だよ!」
「なら殺して追い出せばいいだろう」
「極端かよ!」

俺は魔境でキラーバットを刺しまくった時の事を一瞬思い出し、顔を顰めた。無害な毛むくじゃらにそんな真似できるか!

「ギィ~ッ!」
「こんな所に住み着いたって、エサなんてどこにも無いぞ。大人しく元の小屋に帰れ」
「シャーッ!」
「本当に珍しい子だ。自分から人間と一緒にいようとするなんて…」
「というより、このクルマが気に入ったのだろう」
「シマヤさん、この子と従魔契約を結んでみたら?今より意思疎通ができるようになるし、言う事を聞いてもらえるよ」
「へ、何それ?」

なんでも、魔物は従魔契約を結べば使役する事ができ、それを「テイム」と呼ぶんだとか。具体的には魔物に名前を与え、それを魔物が受け入れれば契約が成立する。
テイムは基本的に魔族と魔物の間でなされるが、おはぎコウモリほどの人懐っこさなら俺でもいけるかもしれないと…本当か?

「車の中でウンコしないでって、聞き分けてくれるのか?野生のコウモリが?そんなバカな」
「契約成立すれば、できるんじゃないかな。この子は魔物にしてはとてもお利口さんだよ。あと、ウンコしないでは流石に無理だから、トイレを作ってあげなよ…」

俺は躊躇いながらも、ピコのぬいぐるみにしがみつくそいつをじっと見た。尖った小さな牙を見せてシャーシャーしていたおはぎコウモリは、やがて威嚇をやめて同じように見つめ返してくる。

「………キィ!」

トコトコとピコのぬいぐるみを踏んづけて、そいつはこちらへ寄って来た。首振りハニワの隣に並ぶと、羽をパタパタと羽ばたかせ俺を見上げる。

名前……名前か。確かプラムバットという魔物だ。でも、すももプラムって感じじゃないんだよな。
どちらかといえば、やはり

「おはぎ…」

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