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休憩所はロビーも兼ねているようで、大きな窓から庭が眺められる。足場が一段上がっていて、靴を脱いでくつろげるのだろう。温泉によくある、お風呂上がりにダラダラする至福のスペースだ。
しかし例によって植物が侵食してきており、休憩所というより草むらと化していた。
続いてやってきた大部屋は広さも高さも体育館くらいあって、酷くカビ臭い。中へ入ると、人の足ほどもある太さのムカデがワラワラと襲いかかってきた。
俺は腹の底から絶叫した挙句、ちょっと引き気味のイアニスに宥められ、リヒャルトに嘲笑される。
「帰ろう!やっぱもう帰ろう!」
「落ち着いて、ほら。リヒーが倒したから」
「軟弱者のクソ雑魚野郎め。虫以下だな」
「ビビるなって方が無理だわあんなの!」
リヒャルトが一瞬で作り出した氷柱に頭を串刺しにされ、5匹のムカデはピクピクと痙攣している。完全に油断してた。こんなゲテモノまで出てくるなんて!
「た、頼む…車乗らせてくれ」
「あのね、シマヤさん。こういう場所で一番大切なのは、取り乱さずに冷静でいる事です。いくら安全なスキルを持っていようと、動転して判断を誤ればなんの意味もないよ」
ぐうの音も出ない説教をされてしまった。リヒャルトの罵詈雑言よりこたえる。
「だけどまぁ、検証してもらうにはちょうど良いか。広さも見晴らしもあるから、この中でクルマを試してご覧よ」
イアニスがそう言ってくれたので、俺はステルスモードで二人の後を徐行していく事にした。もっとも、廊下は狭いので車は通れない。大部屋内限定だ。
二人と1匹が見守る中、車を出してエンジンをかける。
「ステルス運転モードへ移行します。車外へ出るときは安全を確認しましょう」
「キィ?キィッ?」
特に問題なくステルスモードになれた。やはり魔境と同じく、ダンジョンでも使えるんだ。良かった良かった。
おはぎコウモリは俺が車に乗るのを見てキラーバットが出てくると期待したようで、忙しなく辺りを探し回った。しかし期待が外れたことに気づくと、がっくりしてイアニスの肩にとまる。すまんな。
「キィ~…」
「そうだね、消えちゃったよ。リヒー、魔力で追えるかい?」
「いや、全く。完全に消えている」
イアニスはおはぎコウモリを慰めつつ、リヒャルトへ訊ねる。リヒャルトは気に入らなそうに顔を顰めながら、首を振った。
「もどきとはいえダンジョンだ。流石に効力が落ちると思っていたんだけどね…」
「フン、身の丈に合わんスキルを持ちやがって」
「よし……」
二人は何やらぶつくさ言っている。一瞬、イアニスが見たこともないような顔で笑ったような気がしたが、見間違いか。よく見るといつもの穏やかな表情だ。
二人にくっついて徐行する。一方の壁は押入れになっていて、寝具が残されていた。カビ臭の源はここからなのが一目瞭然の、ひどい光景だった。ステルス越しなので被害はないが、見ているだけで肺が病みそう。
「うげー、ここはちょっと改修が要るんじゃないか?」
「いらん。燃やせばいい」
「ダメだってば」
二人は袖で鼻を覆い、すごすごと壁際から離れる。他にも屏風が置いてあり、これで客同士のプライバシーを守ったのかと推測できた。
結局ムカデはそれきり出てくる事はなく、ホッとした。車から降りると、大部屋から出て食事会場へ向かう。
「問題なく使えたようだね」
「ああ、うん。いつも通りだったよ」
検証できて良かったが、よくよく考えればダンジョンなんて自分から立ち寄ったりしない。知って損はないが、あまり意味はなかったかもな。
辿り着いた食事会場は大部屋より少し狭いくらいだった。窓があって明るく、開放感がある。ロビーや大部屋は和風寄りだったが、こちらはテーブルと椅子の西洋スタイルだ。
奥の方は、先ほどスライムと出くわした厨房に繋がっている。
「ニホンの宿では、どういう食事が出たんだい?」
「えーと、すき焼きとか、刺身とか…朝は朝食バイキングかな」
「スキヤキ…」
「サシミ…」
「肉と魚ね」
「朝食ナントカとは何だ」
「パンやご飯やおかずが山盛り置いてあって、自分で好きな物を好きな量取り分けて食べるんだよ。食べ放題形式ってやつ」
「そ、そりゃすごい…採算は取れるのかい?」
「取れるんじゃないかな…ホテルの朝食といったらバイキングだし」
まぁでも、この世界ではできっこないだろうな。そんな形式をとったら、アイテムボックスで持ち帰り放題になってしまう。
食事の話題は続き、刺身が生魚だという事に仰天してあれこれ聞いてくるイアニスに答えながら、食堂を出て廊下を進む。
一つ目の貸切風呂に到着した。小さな脱衣所の向こうに、浴室が見える。
確かマップだと「霜裂き山の湯」の方だったはず。こちらは残念なことに浴槽が木造りで、酷く腐敗が進んでしまっていた。ランプに照らされた八畳ほどの浴室には、タイルで壁一面に雪原と雪山の景色が描かれている。そのタイルもやはりボロボロだ。
「わぁ、これはひどいね」
「檜風呂みたいな感じだったんだろうな…」
腐った「霜裂き山の湯」を後にし、お隣の「花霞みの湯」へ向かう。最後のめぐり湯だ。
中はやはり八畳ほどの浴室で、石でできた円形の浴槽が床に埋まっている。魔法陣の注ぎ口はその中央にあって、まるで噴水のようだ。
貸し切り風呂二つは、どちらも大正ロマンを彷彿とさせる雰囲気だった。ここを作ったのがあの手帳の日本人なのかは不明だが…誰にせよ、相当の温泉好きだと予想できる。
しかし例によって植物が侵食してきており、休憩所というより草むらと化していた。
続いてやってきた大部屋は広さも高さも体育館くらいあって、酷くカビ臭い。中へ入ると、人の足ほどもある太さのムカデがワラワラと襲いかかってきた。
俺は腹の底から絶叫した挙句、ちょっと引き気味のイアニスに宥められ、リヒャルトに嘲笑される。
「帰ろう!やっぱもう帰ろう!」
「落ち着いて、ほら。リヒーが倒したから」
「軟弱者のクソ雑魚野郎め。虫以下だな」
「ビビるなって方が無理だわあんなの!」
リヒャルトが一瞬で作り出した氷柱に頭を串刺しにされ、5匹のムカデはピクピクと痙攣している。完全に油断してた。こんなゲテモノまで出てくるなんて!
「た、頼む…車乗らせてくれ」
「あのね、シマヤさん。こういう場所で一番大切なのは、取り乱さずに冷静でいる事です。いくら安全なスキルを持っていようと、動転して判断を誤ればなんの意味もないよ」
ぐうの音も出ない説教をされてしまった。リヒャルトの罵詈雑言よりこたえる。
「だけどまぁ、検証してもらうにはちょうど良いか。広さも見晴らしもあるから、この中でクルマを試してご覧よ」
イアニスがそう言ってくれたので、俺はステルスモードで二人の後を徐行していく事にした。もっとも、廊下は狭いので車は通れない。大部屋内限定だ。
二人と1匹が見守る中、車を出してエンジンをかける。
「ステルス運転モードへ移行します。車外へ出るときは安全を確認しましょう」
「キィ?キィッ?」
特に問題なくステルスモードになれた。やはり魔境と同じく、ダンジョンでも使えるんだ。良かった良かった。
おはぎコウモリは俺が車に乗るのを見てキラーバットが出てくると期待したようで、忙しなく辺りを探し回った。しかし期待が外れたことに気づくと、がっくりしてイアニスの肩にとまる。すまんな。
「キィ~…」
「そうだね、消えちゃったよ。リヒー、魔力で追えるかい?」
「いや、全く。完全に消えている」
イアニスはおはぎコウモリを慰めつつ、リヒャルトへ訊ねる。リヒャルトは気に入らなそうに顔を顰めながら、首を振った。
「もどきとはいえダンジョンだ。流石に効力が落ちると思っていたんだけどね…」
「フン、身の丈に合わんスキルを持ちやがって」
「よし……」
二人は何やらぶつくさ言っている。一瞬、イアニスが見たこともないような顔で笑ったような気がしたが、見間違いか。よく見るといつもの穏やかな表情だ。
二人にくっついて徐行する。一方の壁は押入れになっていて、寝具が残されていた。カビ臭の源はここからなのが一目瞭然の、ひどい光景だった。ステルス越しなので被害はないが、見ているだけで肺が病みそう。
「うげー、ここはちょっと改修が要るんじゃないか?」
「いらん。燃やせばいい」
「ダメだってば」
二人は袖で鼻を覆い、すごすごと壁際から離れる。他にも屏風が置いてあり、これで客同士のプライバシーを守ったのかと推測できた。
結局ムカデはそれきり出てくる事はなく、ホッとした。車から降りると、大部屋から出て食事会場へ向かう。
「問題なく使えたようだね」
「ああ、うん。いつも通りだったよ」
検証できて良かったが、よくよく考えればダンジョンなんて自分から立ち寄ったりしない。知って損はないが、あまり意味はなかったかもな。
辿り着いた食事会場は大部屋より少し狭いくらいだった。窓があって明るく、開放感がある。ロビーや大部屋は和風寄りだったが、こちらはテーブルと椅子の西洋スタイルだ。
奥の方は、先ほどスライムと出くわした厨房に繋がっている。
「ニホンの宿では、どういう食事が出たんだい?」
「えーと、すき焼きとか、刺身とか…朝は朝食バイキングかな」
「スキヤキ…」
「サシミ…」
「肉と魚ね」
「朝食ナントカとは何だ」
「パンやご飯やおかずが山盛り置いてあって、自分で好きな物を好きな量取り分けて食べるんだよ。食べ放題形式ってやつ」
「そ、そりゃすごい…採算は取れるのかい?」
「取れるんじゃないかな…ホテルの朝食といったらバイキングだし」
まぁでも、この世界ではできっこないだろうな。そんな形式をとったら、アイテムボックスで持ち帰り放題になってしまう。
食事の話題は続き、刺身が生魚だという事に仰天してあれこれ聞いてくるイアニスに答えながら、食堂を出て廊下を進む。
一つ目の貸切風呂に到着した。小さな脱衣所の向こうに、浴室が見える。
確かマップだと「霜裂き山の湯」の方だったはず。こちらは残念なことに浴槽が木造りで、酷く腐敗が進んでしまっていた。ランプに照らされた八畳ほどの浴室には、タイルで壁一面に雪原と雪山の景色が描かれている。そのタイルもやはりボロボロだ。
「わぁ、これはひどいね」
「檜風呂みたいな感じだったんだろうな…」
腐った「霜裂き山の湯」を後にし、お隣の「花霞みの湯」へ向かう。最後のめぐり湯だ。
中はやはり八畳ほどの浴室で、石でできた円形の浴槽が床に埋まっている。魔法陣の注ぎ口はその中央にあって、まるで噴水のようだ。
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