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12年目・夏
念願の旅館風温泉がついに完成した!
大工さんに仕立て屋さん、道の整備に携わってくれた冒険者さんたちや人手を募ってくれたギルドなどなど…お世話になった方々を招待して、テストも兼ねたお披露目営業を開催。食事は流石に無理だが、温泉を存分に楽しんでもらった。
…招待した覚えのない方々もチラホラ見かけた気がしたが、相手が相手なので見なかったことに。神出鬼没とはまさにこのことね…神なだけに。
客室の空調もバッチリ問題なし。寒すぎたり暑すぎたりしたら、またややこしい調整を1からやり直しだった。でも、これで一安心だ。
旅館の名前は「山荷葉」。昔、サークル登山で奇跡的に出会ったあのお花に因んで名付けた。あの時の山とここの景色が大変似通っていて、ふと思い出したのだ。
異世界だというのに、山の風景は日本とそんなに変わらないなんて、不思議な話だ。ひょっとしたら未発見なだけで、この世界にもサンカヨウが咲いてたりして。
そう話すと、ミダンは「もし見つけたら、発見者の特権で名前がつけられるぞ。サクラフラワーとか」と言うので笑ってしまった。桜は別のフラワーです。
~~~
12年目・秋
本格的な営業は春の終わりを予定しているのに、山荷葉は中々賑やかだ。
この間もテオドラさん一行が若いご夫婦を連れてやって来た。冒険者仲間らしい。
旦那さんの方がとんでもないオーラの持ち主で、何故か温泉の名前を勝手に決められてしまった。「7つあるならちょうど良いではないか」となんだかご機嫌だった。
どういう意味なんだろうと聞いてみると、全部魔境の名前らしくて驚いた。
しかし、逆にアリでは?魔境という地獄も「山荷葉」では極楽になる…なんて、そう考えると素敵じゃないか。ちょうど名前も決まっていなかった事だし。
あと何となく、あの旦那様には逆らってはいけないような気がした。
それに対し奥さんはおっとりとした可愛らしい方で、とっても仲の良い素敵なご夫婦だった。美男美女で眼福。
夫婦で冒険者となると、あの奥さんも戦うの?想像つかないな…。
ーーー
なるほど…。俺は一旦、手帳から顔を上げる。
段々とこの旅館や装束のことが分かってきたな。
あの装束がここの主人の証、とはこういう事だったのか。源泉の元へ辿り着くには、やはりあの二部式をきちんと着れなくてはならない。
リヒャルトはこの二部式着物をギルドへの対抗手段と考えているようだが…イアニスの言う通り、これだけではギルドの方針を跳ね除けることはできなそうだ。
そもそも、二部式はダンジョンに取り込まれてる最中で、触れもしない謎の物体と成り果てている。のんびり見物しておいて何だが、元に戻す為にもさっさとここを出なくちゃな。
「本気でないだと…?不毛だと…!?舐めやがって!私が道楽でこんな人間の国くんだりまでやって来たとでも言うのか!?何も知らないくせに、貴様の妄想を私の本心だなどと勝手に決めつけるな、気持ち悪ぃんだよ!」
「あのなぁ。本当に人間を憎んでいる奴が、奴隷でもないのに自分の意志で人間の国に留まると思うか?人間の学校へ通って職について何年も暮らしたりできるか?少なくとも、冒険者の仕事は何だかんだよく引き受けているじゃないか」
「食ってく為に仕方なくだ!誰が好き好んで…」
まだやってるよ。こいつらにも手帳の内容を教えたいけど…割って入りずらいな、身内の喧嘩は。
気つけばおはぎコウモリも俺の膝裏から抜け出して、浴槽の真ん中で食いかけりんごを齧っていた。
「おい、あいつら止めてくれよ…」
「シャリシャリ」
「はぁ、いつまでかかんだ」
俺は二人の応酬を聞きながら、手帳に目を通したりだんだん減っていくおはぎコウモリのりんごを眺めたりして時間が過ぎるのを待つ。
結局、二人の言い分はいつまで経っても平行線で、リヒャルトがダンジョンを諦める気配は見せなかった。
ーーー
「装束の使い道が分かった!?なぜそれを黙っている、このウスノロ野郎が!」
「本当だ…このページだけ、ニホン語でなくてこちらの文字だ。それで、他にわかったことは?」
「………えーっとね」
さっきまで口論してた事を棚に上げて急かしてくる魔族どもへ、俺は二部式着物の用途や源泉の事などを話して聞かせた。
「げ、源泉だと…?クソッ、何がキレイに使いましょうだ、トイレじゃあるまいし…完っ全に役立たずではないか…!」
「だから言ったろう。ギルドを抑止できるような、そんな都合のいいものとは限らないって」
「なぁ、とりあえず帰ろうや。この装束を元に戻す方法があるのか知らんけど、ここにあるよりマシだろ?」
俺はそういって、大正ロマンの面影を感じる浴室をぐるりと見渡した。
手記の最後には新しい山荷葉の歴史を紡いで欲しいという願いが書かれていたが、今それを委ねられているリヒャルトにはその気が無い。残念だが、実現はしないのだろう。
「そうだね。装束は恐らく、ダンジョンから離せばだいぶ影響が薄らぐだろうけど…王都のギルドで鑑定でも受けるか」
「そんなもんの為に、今度は王都くんだりまで向かう気か?やってられんな」
手帳によれば、源泉の在処には認識阻害とかいう魔法がかけてあるらしいが、500年以上前の事だ。もうとっくに解けているのではないか?
「まぁね。だけどもし健在だったら、遭難してしまう可能性が高い。この深い山中での認識阻害は少々危険だよ」
イアニスはそう答えた。そうか、レダーリア山はただでさえ遭難しやすいんだったな。
口ぶりからすると、彼は彼で源泉を探す気なのだろうか。魔境ほどでないが、この温泉を再興するのだって割と現実味のない話な気がするぞ。
「それで、シマヤさん。このニブシキというのは、ニホンの服なんですよね。どうやって着るんです?」
イアニスがワクワクした顔つきで聞いてくる。
~~~~~~~~
山荷葉・・・サンカヨウ。涼しい山地に自生する、白くてかわいいお花です。雨や露で花びらが透けてガラスのようになるそうです。見てみたいねぇ~🌼⛰️🫥
12年目・夏
念願の旅館風温泉がついに完成した!
大工さんに仕立て屋さん、道の整備に携わってくれた冒険者さんたちや人手を募ってくれたギルドなどなど…お世話になった方々を招待して、テストも兼ねたお披露目営業を開催。食事は流石に無理だが、温泉を存分に楽しんでもらった。
…招待した覚えのない方々もチラホラ見かけた気がしたが、相手が相手なので見なかったことに。神出鬼没とはまさにこのことね…神なだけに。
客室の空調もバッチリ問題なし。寒すぎたり暑すぎたりしたら、またややこしい調整を1からやり直しだった。でも、これで一安心だ。
旅館の名前は「山荷葉」。昔、サークル登山で奇跡的に出会ったあのお花に因んで名付けた。あの時の山とここの景色が大変似通っていて、ふと思い出したのだ。
異世界だというのに、山の風景は日本とそんなに変わらないなんて、不思議な話だ。ひょっとしたら未発見なだけで、この世界にもサンカヨウが咲いてたりして。
そう話すと、ミダンは「もし見つけたら、発見者の特権で名前がつけられるぞ。サクラフラワーとか」と言うので笑ってしまった。桜は別のフラワーです。
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12年目・秋
本格的な営業は春の終わりを予定しているのに、山荷葉は中々賑やかだ。
この間もテオドラさん一行が若いご夫婦を連れてやって来た。冒険者仲間らしい。
旦那さんの方がとんでもないオーラの持ち主で、何故か温泉の名前を勝手に決められてしまった。「7つあるならちょうど良いではないか」となんだかご機嫌だった。
どういう意味なんだろうと聞いてみると、全部魔境の名前らしくて驚いた。
しかし、逆にアリでは?魔境という地獄も「山荷葉」では極楽になる…なんて、そう考えると素敵じゃないか。ちょうど名前も決まっていなかった事だし。
あと何となく、あの旦那様には逆らってはいけないような気がした。
それに対し奥さんはおっとりとした可愛らしい方で、とっても仲の良い素敵なご夫婦だった。美男美女で眼福。
夫婦で冒険者となると、あの奥さんも戦うの?想像つかないな…。
ーーー
なるほど…。俺は一旦、手帳から顔を上げる。
段々とこの旅館や装束のことが分かってきたな。
あの装束がここの主人の証、とはこういう事だったのか。源泉の元へ辿り着くには、やはりあの二部式をきちんと着れなくてはならない。
リヒャルトはこの二部式着物をギルドへの対抗手段と考えているようだが…イアニスの言う通り、これだけではギルドの方針を跳ね除けることはできなそうだ。
そもそも、二部式はダンジョンに取り込まれてる最中で、触れもしない謎の物体と成り果てている。のんびり見物しておいて何だが、元に戻す為にもさっさとここを出なくちゃな。
「本気でないだと…?不毛だと…!?舐めやがって!私が道楽でこんな人間の国くんだりまでやって来たとでも言うのか!?何も知らないくせに、貴様の妄想を私の本心だなどと勝手に決めつけるな、気持ち悪ぃんだよ!」
「あのなぁ。本当に人間を憎んでいる奴が、奴隷でもないのに自分の意志で人間の国に留まると思うか?人間の学校へ通って職について何年も暮らしたりできるか?少なくとも、冒険者の仕事は何だかんだよく引き受けているじゃないか」
「食ってく為に仕方なくだ!誰が好き好んで…」
まだやってるよ。こいつらにも手帳の内容を教えたいけど…割って入りずらいな、身内の喧嘩は。
気つけばおはぎコウモリも俺の膝裏から抜け出して、浴槽の真ん中で食いかけりんごを齧っていた。
「おい、あいつら止めてくれよ…」
「シャリシャリ」
「はぁ、いつまでかかんだ」
俺は二人の応酬を聞きながら、手帳に目を通したりだんだん減っていくおはぎコウモリのりんごを眺めたりして時間が過ぎるのを待つ。
結局、二人の言い分はいつまで経っても平行線で、リヒャルトがダンジョンを諦める気配は見せなかった。
ーーー
「装束の使い道が分かった!?なぜそれを黙っている、このウスノロ野郎が!」
「本当だ…このページだけ、ニホン語でなくてこちらの文字だ。それで、他にわかったことは?」
「………えーっとね」
さっきまで口論してた事を棚に上げて急かしてくる魔族どもへ、俺は二部式着物の用途や源泉の事などを話して聞かせた。
「げ、源泉だと…?クソッ、何がキレイに使いましょうだ、トイレじゃあるまいし…完っ全に役立たずではないか…!」
「だから言ったろう。ギルドを抑止できるような、そんな都合のいいものとは限らないって」
「なぁ、とりあえず帰ろうや。この装束を元に戻す方法があるのか知らんけど、ここにあるよりマシだろ?」
俺はそういって、大正ロマンの面影を感じる浴室をぐるりと見渡した。
手記の最後には新しい山荷葉の歴史を紡いで欲しいという願いが書かれていたが、今それを委ねられているリヒャルトにはその気が無い。残念だが、実現はしないのだろう。
「そうだね。装束は恐らく、ダンジョンから離せばだいぶ影響が薄らぐだろうけど…王都のギルドで鑑定でも受けるか」
「そんなもんの為に、今度は王都くんだりまで向かう気か?やってられんな」
手帳によれば、源泉の在処には認識阻害とかいう魔法がかけてあるらしいが、500年以上前の事だ。もうとっくに解けているのではないか?
「まぁね。だけどもし健在だったら、遭難してしまう可能性が高い。この深い山中での認識阻害は少々危険だよ」
イアニスはそう答えた。そうか、レダーリア山はただでさえ遭難しやすいんだったな。
口ぶりからすると、彼は彼で源泉を探す気なのだろうか。魔境ほどでないが、この温泉を再興するのだって割と現実味のない話な気がするぞ。
「それで、シマヤさん。このニブシキというのは、ニホンの服なんですよね。どうやって着るんです?」
イアニスがワクワクした顔つきで聞いてくる。
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山荷葉・・・サンカヨウ。涼しい山地に自生する、白くてかわいいお花です。雨や露で花びらが透けてガラスのようになるそうです。見てみたいねぇ~🌼⛰️🫥
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