ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな

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駄々こね上手のおはぎ

期待顔の手前気まずいが、知らないものは知らないので正直に答えた。

「悪いけど、これきっと女性物の着物だから…俺にもよく分からないんだ」

途端に無言になる二人に、慌てて付け加える。おのれ、なんで俺が気を使わないといかんのだ…。

「あのな、着物って晴れ着なんだよ。殆どの人は普段着になんかしてないんだ。こっちだって、貴族の女性はドレス着るだろ?お前らそんなのの詳しい着方なんて知らないだろ」
「チッ、そういう事かよ」
「本当に全然知らないのかい?」
「襟をこう…前で閉じるみたいにするんだけど、左前か右前かで意味が違うのは知ってる。どっちかだと、死装束になっちまう」
「え、どっち?!」
「何だそれは…」
「帯も結び方があるんじゃないかな?とにかく、俺はよく知らない。ましてや女物の着物なんて」
「フン、役立たずめ」
「言うと思ったよ…」
「ま、まぁ、そういう事なら仕方がない。ともかく、元の状態に戻さないとね。今は触れもしないんだから」

そう言いつつも、イアニスもどことなく落胆している様子だ。
そりゃそうか。和服の着方なんて、他に知っている人もいなければ調べても見つからないだろうからな。すいませんね、うっすらした知識しかなくて…。

ひとまずここを出ようか、と俺たちは移動をはじめた。とうとう帰るのだ。

貸切風呂を抜けて、廊下に出る。こんなに荒れ果てた廃墟だというのに、チェックアウトを迎える朝の気分になるのは不思議だ。…きっとこの手帳を読んだせいだな。
スミレ色の絨毯を踏み締め、たまに砂利や草も踏みながら、最初にやってきた大浴場へ。そのまま露天風呂へと出て、庭の植物がボーボーの道を戻っていく。

とんでもない足止めだったけど…来た甲斐はあったな。この世界では割と日本から人が転移してくるらしい、てのを知れただけでも。
同郷の女性が手記に残したのは、この世界で家族をつくり人生を送ったという証だ。日本を懐かしみはすれど決して後ろ向きにはならず、この世界の人と手を取り合って穏やかに強かに暮らしていった彼女に、俺は勝手に背を押された気分になった。
俺もさっさと切り替えて、目的地のキーストリア王国へ向かおう。

「君は結局ここには住まないのかい?」
「キィ、キーィ」
「そうか。人里は食べ物多いからね」
「気楽なやつだ」
「キキッ?」

厄介魔族二人とおはぎコウモリが、何やら話している。
二人には一応世話になったし、帰りに乗っけていく位はしてやるか。その後は、ついにこいつらともオサラバだ。

旅館の門まで来た所で、車を出す。とりあえずドルトナまでで良いかと尋ねれば、二人は了承した。

「もと来た道を通るみたいだね。もう一度目印をつけて行きたいのだけど、いいかなシマヤさん」
「ハイハイ、どうぞ」

ナビで「ドルトナ市街」を目的地にして現れたルートを眺めて、測量士イアニスがそう言った。
俺はまぁいいかと返事をしたが、リヒャルトが横からくってかかる。

「またチマチマとクルマを止めていく気か?無駄な事をするな!」
「いやぁ、無駄じゃないさ。言ったろ?この山に道を引く絶好の機会だと。君だってこれからも此処へ通うなら、安全で楽ちんな道のりの方がいいだろ」
「言っとくが、私が通うのはダンジョンにだからな。くだらん温泉などのためでは…!」
「分かってるよ。その装束は、君のものだ。さっきはつい色々と言ったけど、君に委ねるよ」

イアニスはそうきっぱりと言い切ったので、俺は意外に思った。
いいのか?てっきりリヒャルトを説得し続けるのかと思いきや、あっさり諦めたな。当のリヒャルトも「何…?」と目を見張っている。

「ここを見つけたのはリヒャルトだ。領主の倅といえど、僕がどうこう言える道理はない気がしてね。ただし、人を放り込むのはやめろ。それを約束してくれるなら、ギルドへの報告も今は見合わせよう」

イアニスはそう告げて、「…さっきは悪かったね。魔王を求める気持ちもまた君の本心だろうに、勝手をいって」とリヒャルトへ謝った。
どうやら言い過ぎだったと反省しているようだ。でもそういう態度、この男にはあまり意味ないのでは…。

「……忘れた。他人にどう言われようと、今更私は何とも思わん」
「えぇ?…少しは何とか思ってほしいものだけど」
「フン!無駄だ」

ほらこれだ。リヒャルトの方は反省もなけりゃ態度もでかい。イアニスは軽くため息を吐いている。

「はぁ。…ま、僕も前から君に物申したかった事が言えたからスッキリしたよ。それで、約束してくれるかい?」
「私に舐めた態度をとるようなアホがいたら、その限りではない!約束などせんぞ」
「約束せーや。出来ないならギルドにチクる。これは絶対だからな。気に入らない奴は死なない程度にぶちのめせ、それでいいだろ。未報告のダンジョンもどきへコソコソ持ってくなんてするんじゃない!」
「チッ………分かった分かった」

リヒャルトは舌打ちをかます。一歩引いたのはイアニスなのに、なんでお前がやれやれみたいな感じ出すんだよ。
…本当に不思議な二人組だ。仲がいいのか悪いのか、まるでわからない。イアニスはどこまでも滅茶苦茶なリヒャルトの下手に出ているが、その割にいう事を聞いているのはいつもリヒャルトの方な気がする。

俺はふと思い立って、来た時と同じ座席へおさまった二人を振り返る。

「あんたら、また酔いそうになったら事前に言ってくれよ」

途端に二人はハッとした顔で硬直する。

「忘れてたな…」
「ハァ…嫌な乗り物だ…」

盛大な乗り物酔いを思い出した二人は、どんよりと消沈してしまった。
何だよ…嫌なら乗るな。
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