ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな

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「オハギ?」
「何だそれは」
「俺の世界のお菓子。なんか似てるから」

首を傾げる魔族二人へそう説明してると、おはぎコウモリは「キィキィッ」と不服そうな鳴き声を上げた。

ジブンは食べ物じゃないっ

その鳴き声と同時に、言葉とも意思ともつかないものが頭の中へ流れ込んでくる。俺は仰天して、マジマジとおはぎコウモリを凝視した。

「い、今の…今のなに?」
「キィー」

再びおはぎコウモリが鳴くと、よろしくね、と俺に向かって言っているのが伝わってくる。
不思議な感覚だった。言葉ではないのに、目の前のちんちくりんなコウモリが何を言っているのか分かる。

「お。無事に成立したようだね。契約によってシマヤさんとこの子の魔力が同調したんだよ。よかったね、お話できるようになって」
「キィ!」

イアニスが話しかけるとおはぎコウモリは、うん!、と返事をした。
なんと、本当に上手くいったようだ。未知の感覚に戸惑うしかない俺に、リヒャルトが半笑いで言った。

「フン。りんごだトマトだで簡単にいう事を聞くのに、わざわざ物好きな事だ。曲がりなりにも主人となるのだから、せいぜい責任もって世話をするのだな」
「え。飼い主ってこと?……車から退いてもらった後に従魔を辞めて野生に帰ってもらう、とかできないの?」
「ギッ、ギギィ!」

俺の言葉が伝わっているらしく、おはぎコウモリは怒った声でダメ!と言った。

「なんて無責任な…そんなのは褒められたものじゃないよ。それに成立も解除も、お互いの同意が無ければできない。契約なんて物々しくいっても要は利害関係・信頼関係だ。大事にしてあげるんだよ、シマヤさん」
「いや、利害も信頼も無いんだけど。……迂闊にやっちゃダメなやつだったのか?」
「当たり前だろうが」

厳しい顔で俺の意見を嗜めるイアニスに、小馬鹿にしたように笑うリヒャルトが同調する。

「キィキィー」

ジブンがオマエの面倒をみる。だから、オマエもジブンの面倒をみる。
嬉しそうにそう言っているのが伝わってきて、俺は重たいため息を吐いた。

「ていうか、名前『おはぎ』でいいのかよ」
「キィー」

いいよー、と鳴いておはぎコウモリ……おはぎはやっと車からパタパタと出てきた。手近の木の枝にぶら下がって俺と目の高さを合わせると、嬉しそうにブラブラ揺れる。

「どうしよう、コウモリの飼い方なんて知らないぞ。日光は平気そうだけど、生き血ってどこで手に入れればいいの?ずっとりんごじゃだめかな…」
「はは。そこはしっかりコミュニケーションをとった方が良いね。そうだ。ギルドへ従魔の登録もしないと」
「て事はこいつ、街に入れても大丈夫なのか。ていうか綺麗好きなんだっけ?ブラシとか買った方がいいよな。クリーンのスクロールって寄生虫とかノミとか落とせる?」
「案外乗り気ではないか、貴様…」
「キィ、キィー」

俺はおはぎの飼育についてあれこれと考えながら、二人の後をついてドルトナの門へと歩き始めた。


ーーー


門の周りは相変わらず賑やかだが、どこかピリピリとしていた。不安そうな表情で話し合う者や、緊張したように門を見つめる者。来た時とは違う不穏な様子に、俺たちは顔を見合わせる。

「ちょっと様子が変だね」
「面倒ごとじゃないだろうな…」

そんな空気の中だというのに、やはりイアニスは行列を素通りして門へ進んでいく。横入り気まずい。
門兵の元へ寄っていくと、イアニスに気づいた彼らは「あっ!」と声を上げた。二人だった人数は10人程に増えていて、全員顔色が良くない。

「レ、レダート様!いらしてくれましたか!」
「どうしたんだい?何かあった?」
「それが…」

門兵の一人が事情を話そうとしたその時、彼らの背後から渋い男の声が静かに上がった。

「リルファ様、お久しゅうございます」

街の中へ目を向けると、赤黒い毛並みの獣が1匹こちらを見据えていた。眼前の門兵たちが、途端にガシャガシャッと武器を手に身構える。

「なっ…魔物が街に!?」

イアニスがギョッとしたように叫んだ。これまで聞いたことがないほどの焦りを含んだ声色に、俺は無意識に一歩下がった。
そうこうしてると、同じ獣から今度は別の声が上がる。

「おら、邪魔だぞ人間共!何もしねーっつってんだろうが、鬱陶しいぜ全く」

その魔物は首が2つある狼の姿をしていた。デカ過ぎる。馬ほどもある体躯に、フサフサの赤黒い毛並みは首元だけ雪のように白い。
右側の首が、ガサガサしたダミ声で口を開く。それは鳴き声ではなく、明確な人の言葉だった。

「よぉ、リルちゃ~ん!イメチェンしたんか?ヴァレリア様が首を長ーくして待ってるぜ、早く来いよ!」
「ご案内いたします」
「ガムドラド…?何故ここに」

そばにいるリヒャルトが、呆然とした声で呟く。

「が、ガム?知ってんの?」
「リヒー、どういう事だ!?」
「…お祖母様の従魔だ」
「え!」

まさかの身内だった。俺もイアニスも驚いて彼を見やるが、表情からするにそれはリヒャルトも同じらしい。
ともあれ、突然街が魔物に襲われたという状況ではなさそうだ。相手は話が通じるーーというか、思いっきり人の言葉を話せる魔物らしい。

「相当上位のオルトロスだね…人語を操るなんて、一体どれほど長生きしてるか」

イアニスも少々落ち着きを取り戻して、冷静にそう呟いている。
二つ頭の巨大狼は、どうやらオルトロスという魔物らしい。左の首からは落ち着いた口調の渋い声が、右の首からは荒々しいダミ声が上がっている。どちらも金色のギラギラした両目をスッと細め、門の前で立ち尽くす自分たちを見据えていた。

「何処のどなたか存じませんが、お褒めに預かり光栄です」
「でもよあんちゃん、年の話題なんてヤボだぜ。さ、リルちゃんの従僕だか友達だか知らねぇが、まとめて付いて来な!」
「主を待たせております。今すぐ参りましょう」

そう言うと、オルトロスさんは立ち上がってくるりと背を向ける。そこで初めて、街の中に人の姿が一人も見当たらなくなっているのに気がついた。

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