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「問題は源泉です。今そこが枯れているのか現存しているのか、確認できていません」
「それは大変。なんとしても残っていて欲しいところだが!その装束は持ち出しているのだね?」
「ええ。シャムドフ様のご意向もありますから、リヒャルトに持たせています」
「これ、リヒャルトや。わたくしにもお前が手に入れたニブシキとやらを見せておくれ」
「………」
元気を失くしてしまったリヒャルトは、それでも祖母の言葉に従ってアイテムボックスから年季の入った箱を取り出した。
彼女はそれを受け取ると、立ち上がってリヒャルトの隣に腰を下ろす。まるで弟の気を取りなす姉のようだ。
「おや、きれいな生地だこと。…なるほど、中途半端にダンジョンの核とつながっておるわ。フンッ!」
優雅な手つきで蓋を開けてそう言うと、ヴァレリアさんは中身に手を添えて似合わない声を上げた。
途端に箱から「ブチッ」と何かが千切れるような大きな音が鳴る。驚いて見つめる三人の前で、彼女はあっさり着物を持ち上げて眺めるのだった。触れている!
「品のある色だが、お前の髪や目には合わないねぇ…。仕方ない、よい上着を揃えよう」
「お、お祖母様!今のはどうやって…」
「ん?こういうのは、躊躇ってはいかん。ガっと一気にやればキレイに取れるでな」
「いや、コツを聞いてるのではなく…」
よく分からないが、ヴァレリアさんはダンジョンに取り込まれたアイテムの直し方を知っていたらしい。すげぇ。そんなテレビをぶっ叩いて直すみたいな感じなんだな…。
彼女はローテーブルに箱の中身を取り出しては並べていった。
最初に手に取ったのは着物の上半分のようだ。更に出てきたのは、同じ生地の下半分。中に羽織るっぽい薄い生地の着物。帯らしき長い布が二種類。同じ長さの紐が一つ。
この着物って、上下に分かれてるんだ。知らなかった。
「随分ゆったりとした装束だ。上着に巻きスカートに、これはベルトかの?」
「ファスナーもボタンも無いのか…」
「そこの異世界人や。試しにちょっと着てみとくれ」
「ん?え?」
さらっと告げられた無茶ぶりに付いてきそびれた俺は、慌ててヴァレリアさんを見返した。
いやちょっと待って、知らないってば…。
「む、無理ですよ、着たことないです」
「そうは言っても、僕らよりは知っているだろう?何となくこんな感じ、というのを見せてほしい」
「ええぇ?」
イアニスとヴァレリアさんが何を求めているのかはよく分かる。山荷葉の源泉へ辿り着くには、これを正しく着る必要があるのだ。
でも…何が悲しくて、知らん人の面前で女性ものの着物を身に付けねばならんのだ!?
「別に服を脱げと言ってるのではない。お前の故郷の装束であろう?流石のわたくしも、手本がなければ見当もつかぬわ」
「頼みますよ、シマヤさん」
「……お祖母様を待たせんじゃねーよ」
悲しいかな、避けられそうにない流れだった。
こうして、魔族三人を前にした悪戦苦闘が始まった。
ーーー
数十分後。
「結び紐のおかげで大体の手順は分かるんだね。成程」
「丈の内側がダレてきおるわ。みっともないのう。巻き方が緩いか…?フンッ」
「ぐえぇっ」
俺は結局上着を脱がされて、くるくるとされるがままのマネキンとなっていた。
ちょっと路銀を頂いてお暇するはずが、どうしてこんな事になってんだ?女性物の着物を脱いだり着たりしてる現状(しかもキラキラ美女とその他の前で)を深く考えないために、俺は着物へ意識を集中させるのだった。
着物が上と下に別れているのを見た時はお手上げかと思ったのだが、意外にも簡単にそれっぽく着ることができた。内側や脇腹にある結び紐のおかげで、すんなり襟を合わせられる。襟は左前みたいだ。
そうなるとヴァレリアさんはまるで研究員の如く二部式の考察をし始め、「合わせ目に寄せて、中心はここ」だの「最初にこれを着たら、次はこれ、最後がこっち」だのと手順を色々と解明していった。それが合っているのかは分からないが、いつの間にか着付けのスタッフさんのようになっている。
でもさ、孫でやってくれよ。言えないけど…。
当のリヒャルトは沈んだ顔のまま、しおしおとソファに寝そべってガムドラドさんの背中を撫でている。そこにはおはぎもちゃっかり乗っていて、退屈そうにこちらを眺めていた。
いつそんな仲良くなったの!?すごい怯えてなかった?
「このベルトは難儀だねぇ。決まった組み合わせがあるのだろうが…」
薄くてヒラヒラした藍色の帯と、見事な刺繍が入った山吹色の帯。2つの帯をどう結ぶのかで、リヒャルト以外の全員が頭を悩ませた。
「これは本当に、スカーフではないのかえ?」
「スカーフじゃないです。た、たぶんこれを内側に巻いて、その上にこっちの太い帯を巻くんだと思います」
うーん……俺は日本での記憶を呼び起こすも、うろ覚えすぎて全く役に立たなかった。
着物を目にする機会なんて、初詣の見知らぬ通行人くらいだ。それなのに、帯の結び方なんて分かるはずもない。
「リボン結びじゃダメかな」
「どうやるのだ?」
「こーしてこーして…リボンの形になるように」
俺は慣れない手つきで大きめの蝶々結びをした。結びが甘いのか、ダラッと斜を向いて不恰好だ。
ヴァレリアさんはひと目見ただけで、ササッと最初から結び直す。形のいいリボンが手際よく生み出された。お見事です。
「そんで、結び目は腹側じゃなくて、背中側に来ます」
「ふぅむ。では、後ろからこう垂らすのだな?」
「えーっと……いや、こんな風にヒラヒラ垂れ下がらないですね。余った部分はこうやって仕舞い込むんだと思います」
「ほうほう。成程の」
そう相槌をうちつつ、彼女は紐を帯に当てたり着物のシワを伸ばしたりしている。難しい顔で考え込む表情も綺麗だ。というか、美女と距離が近い。
女物の着物姿でああでもないこうでもないとしているこんな状況だけど、いやぁ、良いもんですなぁ。ドキドキしますな。
「それは大変。なんとしても残っていて欲しいところだが!その装束は持ち出しているのだね?」
「ええ。シャムドフ様のご意向もありますから、リヒャルトに持たせています」
「これ、リヒャルトや。わたくしにもお前が手に入れたニブシキとやらを見せておくれ」
「………」
元気を失くしてしまったリヒャルトは、それでも祖母の言葉に従ってアイテムボックスから年季の入った箱を取り出した。
彼女はそれを受け取ると、立ち上がってリヒャルトの隣に腰を下ろす。まるで弟の気を取りなす姉のようだ。
「おや、きれいな生地だこと。…なるほど、中途半端にダンジョンの核とつながっておるわ。フンッ!」
優雅な手つきで蓋を開けてそう言うと、ヴァレリアさんは中身に手を添えて似合わない声を上げた。
途端に箱から「ブチッ」と何かが千切れるような大きな音が鳴る。驚いて見つめる三人の前で、彼女はあっさり着物を持ち上げて眺めるのだった。触れている!
「品のある色だが、お前の髪や目には合わないねぇ…。仕方ない、よい上着を揃えよう」
「お、お祖母様!今のはどうやって…」
「ん?こういうのは、躊躇ってはいかん。ガっと一気にやればキレイに取れるでな」
「いや、コツを聞いてるのではなく…」
よく分からないが、ヴァレリアさんはダンジョンに取り込まれたアイテムの直し方を知っていたらしい。すげぇ。そんなテレビをぶっ叩いて直すみたいな感じなんだな…。
彼女はローテーブルに箱の中身を取り出しては並べていった。
最初に手に取ったのは着物の上半分のようだ。更に出てきたのは、同じ生地の下半分。中に羽織るっぽい薄い生地の着物。帯らしき長い布が二種類。同じ長さの紐が一つ。
この着物って、上下に分かれてるんだ。知らなかった。
「随分ゆったりとした装束だ。上着に巻きスカートに、これはベルトかの?」
「ファスナーもボタンも無いのか…」
「そこの異世界人や。試しにちょっと着てみとくれ」
「ん?え?」
さらっと告げられた無茶ぶりに付いてきそびれた俺は、慌ててヴァレリアさんを見返した。
いやちょっと待って、知らないってば…。
「む、無理ですよ、着たことないです」
「そうは言っても、僕らよりは知っているだろう?何となくこんな感じ、というのを見せてほしい」
「ええぇ?」
イアニスとヴァレリアさんが何を求めているのかはよく分かる。山荷葉の源泉へ辿り着くには、これを正しく着る必要があるのだ。
でも…何が悲しくて、知らん人の面前で女性ものの着物を身に付けねばならんのだ!?
「別に服を脱げと言ってるのではない。お前の故郷の装束であろう?流石のわたくしも、手本がなければ見当もつかぬわ」
「頼みますよ、シマヤさん」
「……お祖母様を待たせんじゃねーよ」
悲しいかな、避けられそうにない流れだった。
こうして、魔族三人を前にした悪戦苦闘が始まった。
ーーー
数十分後。
「結び紐のおかげで大体の手順は分かるんだね。成程」
「丈の内側がダレてきおるわ。みっともないのう。巻き方が緩いか…?フンッ」
「ぐえぇっ」
俺は結局上着を脱がされて、くるくるとされるがままのマネキンとなっていた。
ちょっと路銀を頂いてお暇するはずが、どうしてこんな事になってんだ?女性物の着物を脱いだり着たりしてる現状(しかもキラキラ美女とその他の前で)を深く考えないために、俺は着物へ意識を集中させるのだった。
着物が上と下に別れているのを見た時はお手上げかと思ったのだが、意外にも簡単にそれっぽく着ることができた。内側や脇腹にある結び紐のおかげで、すんなり襟を合わせられる。襟は左前みたいだ。
そうなるとヴァレリアさんはまるで研究員の如く二部式の考察をし始め、「合わせ目に寄せて、中心はここ」だの「最初にこれを着たら、次はこれ、最後がこっち」だのと手順を色々と解明していった。それが合っているのかは分からないが、いつの間にか着付けのスタッフさんのようになっている。
でもさ、孫でやってくれよ。言えないけど…。
当のリヒャルトは沈んだ顔のまま、しおしおとソファに寝そべってガムドラドさんの背中を撫でている。そこにはおはぎもちゃっかり乗っていて、退屈そうにこちらを眺めていた。
いつそんな仲良くなったの!?すごい怯えてなかった?
「このベルトは難儀だねぇ。決まった組み合わせがあるのだろうが…」
薄くてヒラヒラした藍色の帯と、見事な刺繍が入った山吹色の帯。2つの帯をどう結ぶのかで、リヒャルト以外の全員が頭を悩ませた。
「これは本当に、スカーフではないのかえ?」
「スカーフじゃないです。た、たぶんこれを内側に巻いて、その上にこっちの太い帯を巻くんだと思います」
うーん……俺は日本での記憶を呼び起こすも、うろ覚えすぎて全く役に立たなかった。
着物を目にする機会なんて、初詣の見知らぬ通行人くらいだ。それなのに、帯の結び方なんて分かるはずもない。
「リボン結びじゃダメかな」
「どうやるのだ?」
「こーしてこーして…リボンの形になるように」
俺は慣れない手つきで大きめの蝶々結びをした。結びが甘いのか、ダラッと斜を向いて不恰好だ。
ヴァレリアさんはひと目見ただけで、ササッと最初から結び直す。形のいいリボンが手際よく生み出された。お見事です。
「そんで、結び目は腹側じゃなくて、背中側に来ます」
「ふぅむ。では、後ろからこう垂らすのだな?」
「えーっと……いや、こんな風にヒラヒラ垂れ下がらないですね。余った部分はこうやって仕舞い込むんだと思います」
「ほうほう。成程の」
そう相槌をうちつつ、彼女は紐を帯に当てたり着物のシワを伸ばしたりしている。難しい顔で考え込む表情も綺麗だ。というか、美女と距離が近い。
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