ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな

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「あいつは実力だけなら充分Aランクと言えるんだろうけど、いかんせんあの通りで。Bランクより上には望めなくてね…」
「だろうよ」
「それでも、僕より上のBランク保持者だ。逆に言えばあんなのでもBでい続けられる実績と力はあるんだよ」

ボスのエリアとやらに出現するボス魔物をやっつけるのに、リヒャルトの力も必要。つまり奴の同行は必須であると。

「うーーーーん」

気持ち的には、行きたくないが優っている。絶対ゴタゴタするに違いない。イアニスの提案は美味い話なのかもしれないが、それ以上にダンジョンという場所が未知数でおっかなかった。

「お願いします、シマヤさん。突飛な提案で戸惑うだろうけれど、僕は是非この領にかつての温泉を復活させたいんだ」
「そんな、流行るかどうかも分からないのに。イアニスには他にも貴族としての仕事とかあるんだろう?」
「いいやむしろ、仕事がなくて困っていたとこなんだよ…。我が領は田舎でこれといった名物もなく、最近は魔境への立ち入りが制限されたせいで冒険者の足もぱったりだ」

このままでは廃れる一方だと。イアニスの中で温泉復興計画は千載一遇のチャンスなのだという。
領地愛の深い男だ。確か、レダーリア山に道を敷きたいとも言っていたな。その土木費を調達する手段がダンジョンだなんて、この世界ならではというかなんというか。

「魔境への制限も痛手だけど、僕にとってはそれ以前の余波の方が深刻だった。魔族は一気に肩身が狭くなったから」
「ん…?余波?」
「ああ、貴方は知らないよね。一部の暴徒化した魔族が、勇者ラスタの故郷を壊滅させたんだ」
「えええっ!?」

あまりの事に大声で驚いてしまう。
話を聞くと、その事件が起こったのは2年前。小さな村には一人の生存者もなかったという。
それまで勇者は王家にーーというより一部の有力な貴族にいいように使われているような状態で、その事件もお偉い様方の依頼で受けた魔族討伐の報復だったらしい。
その後、彼は王侯貴族の命に背き突如として出奔。足跡からベラトリアへ向かった事が分かったが音信はなく、ギルドはベラトリアへの制限を強化する事となった。

そんな事が…。俺は能面のように表情の動かないラスタさんの顔を思い出した。あまり自分の事を話したがらない人だったが、そこまでヘビーな目に合っていたなんて。

世間を震撼させた事件を受け、魔族でありながら貴族でもあるイアニスは国から監視対象とされた。
魔族への当たりが非常に厳しくなるそんな中、レダート家はイアニスを見捨てることなく国の尋問から懸命に守ってくれた。領民も全てとはいかなくても温かく迎えてくれたという。

「そうなのか…この間も思ったけど、すごい人望だな」
「お人よし民なんだよ。大らかで大雑把で…。僕は実の親の顔などもう殆ど覚えちゃいない。レダート家が、僕の家。僕の家族やレダートに暮らす人たちが豊かになるなら、なんだってする。報いたいんだ」

イアニスはやはり穏やかな顔だが、声にはどこか寒気すら覚えるような凄みを感じた。
どうも俺が思っていた何倍も領地愛が深そうだぞ。恩義のある領地が廃れゆくのを黙って見過ごせないというわけか。
それでも、色々とすっ飛ばしてるよな。

「そもそも源泉がなくなってたらどうするんだ?確かめようにも、あれじゃどうしようもないだろ」
「まぁね。温泉が生き残ってないなら、サンカヨウは諦めるしかない。ただあの山道は整備したいから、どの道費用が必要だ」
「…貴族の息子って、割と自由なんだな」
「あはは。僕はね」

いくら愛する地元のためとはいえ、自らダンジョンへ行って資金稼ぎしに行くなんて。当主からのお許しは貰えるんだろうか。

「元々その為にレダート家に招かれた身の上だ。小間使い兼、密偵兼、お目付け。ついでに次男坊って所さ」
「ついでが次男かよ」

イアニスの思惑は、まぁ分かった。
俺はびくびくと身構えていたのだが、彼が脅してくるそぶりは一向にない。お願いの姿勢だ。こちらの意思を伺うという筋は通す気らしい(それが普通だけどな、この詐欺男子め)。

俺はパンを頬張りながら、ちょっと考えを整理する。

ここで容易に頷くのは躊躇われる一方で、温泉にはそれなりに関心があった。叶うのなら、それに越したことはない。俺も温泉入りたい。
…でも、ダンジョン攻略だなんて危ない目に合わせようってんだ。もうちょっと俺に見返りがあってもいいんじゃないですか?イアニス先生。

ゴクンとパンを飲み込んで、俺はイアニスに切り出した。

「俺は、ダンジョンとかよく分からない。元の世界にそんなのなかったからさ。だからそういう場所で体を張ってお金を稼ぐって行為が割りに合うのか、どうしても疑問なんだ」
「ふむ。異世界から来たシマヤさんには、馴染みがなくて当然だね」
「うん。自分には不相応だと思ってる。けど、イアニスと…一応リヒャルトもか?…が本当に守ってくれるってのなら、一緒に入ってみてもいいかも」
「ああ、勿論だよ。それに繰り返すけど、やはり割に合わないと判断したのなら、そこで断ってもらっても構わない」

イアニスはやや弾んだ声で念を押す。それに頷いて、俺は続けた。

「その代わり、イアニスに頼みたい事があるんだけど」
「うん、何かな?」
「俺はこれから、自分のスキルを生かした仕事につきたいと考えてるんだ。例えば国を跨いでの運搬とか。日持ちのしない農作物を運んだり、個人から個人へ手紙を直接届けたりとか」

イアニスは顎に手を当てて、じっと考え込むように俺の顔を見返してくる。

「あとは何だろう。交通の便が悪い村へ物資を届けたりとか……。そういう仕事を、イアニスが紹介してくれないか?貴族の伝手でさ。探してくれるなら、ダンジョンの件は引き受けてもいいよ」
「クルマを使った運送、という事か……」

うーん、とイアニスは思案している。だがそれも僅かの間だった。

「分かった。商会をあたったり、ギルドへ指命依頼を出したりと、やりようはある筈だ」

この事は追って相談しよう、と快諾された。

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