ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな

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「…では、ダンジョンでなくなれば急速に倒壊するのでしょうか」
「だとしてもおかしくない。ダンジョン化を食い止めつつ、早急に主要な部分から改築する必要があろう。…ギルドが介入すれば、それも叶わぬ所だったわ。イアニスが話のわかる者で助かったね」

もしギルドへ報告すればここは基本立ち入り禁止となり、工事を進めようにもいちいち王都ギルドの偉い人へのお伺いが必要になる。別にいいじゃんと思いきや、返事が来るのに何十日と待たされる事だってあるらしい。確かに、それはしんどいな。偉い人は忙しい。
こちらとしては、レダーリア山に道を敷くという体で人員や資材を運び込み、こっそり山荷葉の改修を始める。ギルドにバレる前に、ここがダンジョンでなくなれば良し。ダンジョンでなくなる前に、建物の改築・修繕を行えれば良し。

「ヨシ!つっても、かなり人手がいるよな。どうすんだろ」
「領主がやれと言えばやるだろう」
「そこは、あの小僧の面目如何よの」

そんな話をしながら向かうのは、一階の千本橋の湯。先ほど源泉で魔法陣を起動させた大浴場だ。
内湯の湧き出し口に魔力を込めると、そこから勢いよくお湯が溢れ出した。汚れた浴槽へサーっとお湯が広がっていく。
洗い場にも似たような魔法陣の石が埋め込まれており、魔力を流せばシャワーヘッドからお湯が出た。

「すげー!」

感動を禁じ得ない俺は、思わずその場をシャワーでビシャビシャにした。
本当にこんなボロ廃墟が復活できるのかと懐疑的だったが、こうしてお湯が出るのを目の当たりにすると途端に温泉への憧れが強まってくる。
……もし本当に温泉宿オープンできたら、一泊無料で泊まらせてくれないかなあ。


ーーー


山荷葉から戻ると、ヴァレリアさんはヘソを曲げたガムドラドさんと街の外にとどまった。辺りには様々な魔物の死骸と、冒険者の人たちもいる。

置いてけぼりの腹いせにそこらの魔物を狩りまくったガムドラドさんは、驚き慄いて集ってきた冒険者たちを「どうした、こんなのも仕留められんのか?ぼくちゃん達は」と煽り散らかして悦に浸っていたという。
ピキピキした冒険者の皆さんは「侮られたとあっては」と魔物退治に繰り出すが、あちこちでガムドラドさんに横から討伐途中の獲物をかすめ取られ、憤怒するはめになった。

「全く、何をしておるか…。場末の人間相手にみっともない。愚かな子だねぇ」
「申し訳ありません、わが主」
「ヘッ!やつらが『食わないならこいつらの素材をくれ』なんてバカ抜かすからだ。おれ様の獲物だぜ?図々しいにも程があらぁ」
「確かに卑しい台詞を吐くものだ、いかにも人間だの。だがそれはそれ、これはこれ。お前への罰は、そのみっともない人間どもへの謝罪だ。頭を下げる屈辱を受けよ」
「グフフ…主の仰せのままに」
「ごめんなさ~い。ぼくちゃんたち~」

ガムドラドさんを叱っていると見せかけ、主従合わせて人間を侮りまくってる姿に、並んでこちらを伺っていた冒険者の皆さんはピキピキピキと青筋を立てている。

絶賛トラブル勃発中だ。
ハラハラと見守るしかない俺と火に油を注ぐ気満々のリヒャルトを、しかしヴァレリアさんは街へ帰らせる。

「よい。お前たちは中でゆっくりおし。あの小僧が戻ったら、ダンジョンでひと稼ぎするのだろう?」

いいからいいから、と直接対峙する気でいるヴァレリアさんに促され、二人で門をくぐる。

「だ、大丈夫かなアレ」
「フンッ、あんな石ころどもが、お祖母様とあいつの相手になるわけないだろう」
「いやそっちでなく。冒険者さんが喰われちまわないかって」
「知らんな。心配なら貴様が止めてみろ」
「嫌っス」
「なら黙ってろ、間抜け」

気まずい空気のなか宿屋へ戻ると、そこには小さな待ち人がいた。正確には人でなく、鳥だ。

「クルッポーォ」

綺麗な青い羽のハトはピジョニーという魔物で、イアニスの従魔らしい。足に手紙が括り付けられており、それを外すと軽やかに飛び去って行った。
リヒャルトはその場で文を開き、内容に視線を落とす。

「イアニス、なんて?」
「合流にはまだ数日かかるが、ダンジョン行きは許可が降りたから確定だと。ちんたらしやがって…」

ぶすっとしたいつもの表情で、リヒャルトは手紙を俺に押し付ける。なんだなんだ。

「手形だ。こいつを持って、宿代の追加をギルドから落として来い。私は先に休む」

紙にはイアニスのサインと金額、そして物々しい印が押されている。これって、イアニスの口座からお金落とせるのか?
背を向けて「虹色瓜亭」へ入ろうとするリヒャルトへ、俺は声をかけた。

「なぁ。ダンジョンの誘い、引き受けたのか?」
「…なんだ。文句があるのか?」
「いや別に。でもお前、温泉なんてどうでもいいって態度だったろ?いつの間に協力する気になったのかなと思って」

リヒャルトはくるりと振り返って俺を睨みつけた。赤い瞳には、悔しさが滲んでいる。

「どうでもいい、温泉なぞ…人間どもの道楽地になぞ、かけらも興味ないわ!」
「ならどうして」
「仕方がないだろう!お祖母様があんなに嬉しそうな顔をなさるのだ…。わざわざこんな所まで飛んできて、夜鍋で装束の謎を解いて。これで嫌だなど言えば、悲しませてしまう…」

そっちの方が嫌だ。だから仕方ない…と暗い顔で呟く。やはり、相変わらず落ち込んでいるようだ。

「貴様こそどうなのだ、荷物を返せだの旅の途中だのとうるさくゴネていたくせに」
「あれがうるさくゴネたって認識なの…!?至極真っ当な言い分だろうが」
「やかましい。いいか!この私が人間の真似事などして、ダンジョンで卑しく小金稼ぎをするのだ。ひれ伏して感謝しろ、そして役に立て!もし足を引っ張ったら氷像にして置いていくからな!」
「うわ、出たよ…」

こんなことを言う奴の冒険者チームにこれから入るのだ。不安を覚えない奴が果たしているだろうか。いや、いない。

「俺は素人だから、いざって時は守ってもらわないと困るんだけど」
「少しばかり特別なスキルを持つからといって、調子に乗るなよ!己の身は己で守る。その気概すら持たないのなら、ダンジョンなどに入るな」
「そ、それはそうかもしれないけど……突然まともになるなよ」
「私はずっとまともだ、バカ野郎!さっさと行け!」

くそー。このキレ芸野郎め。
俺はすごすごと手紙を持ってギルドへ向かう。「キィ」(どんまい)というおはぎの慰めの声が、上着の裾から上がった。
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