ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな

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名前、どうする?

数日後。

レダート家当主はイアニスの報告を受け、レダーリア山の整備に着手することを決定。しかし山荷葉の復興に関しては、条件が出された。

「16日以内にダンジョンで300万G稼ぐ事。それがルーシェ…父上から出された条件だ」

ドルトナへ戻ってきたイアニスはそう説明する。
宿屋の食堂にて3人で夕食を取りながら、これからの予定を話し込む。俺は率直な疑問を口にした。

「できそうなのか?それって」
「無理な数字ではない。具体的には…10階層以降のボスを標的に、繰り返し通ってドロップアイテムを集めれば、届くかな」
「10階層か。アラクネだったか?」
「そう、その辺だ。現地に着いたら需要の高い素材を調べないとね。どうも今は、ゴーレムコアが熱いって噂だけど」

できるんだ…300万。

ダンジョンの魔物を倒すと得られるドロップアイテム。倒した魔物によって異なるそれらの品々は、その時の需要によって売値が上下する。だから、高く売れるドロップアイテムが何かを見極めて収集する必要がある。
そういった相場に関係なく高値がつくのが、エリアボスのドロップアイテムだ。総じて質が良く貴重な素材が手に入るらしい。

「えーっと、なら俺はその10階まで車を走らせなきゃならないんだよな?距離はどのくらいなんだ?」
「距離か…中は迷路のように入り組んでいるからね。あまり当てにならないけれども、迷わず進めば半日で辿り着くくらいかな」

そんな強行突破はした事ないから、なんとも言えないが。とイアニスは笑う。
魔物と戦ったり、休息を入れたりしながら進むのが通常のダンジョンアタックで、その場合だと10階へ着くのに2、3日はかかるらしい。どんだけ入り組んでんだよ。

「貴方のナビ頼りだ、シマヤさん。上手くいけば、10と言わず17階層までだって狙えるかもしれない。ちなみに、あのダンジョンの最上階は25階だよ」
「そ、そんなとこまで行かないよな?」
「はは、勿論。流石のリヒャルトさんもヴイーヴル相手に勝ち目はないよ。なあ?」
「おい。他人事みたいなセリフだが、まさか私一人に働かせる気じゃないだろうな。貴様を使い捨ての囮にしてもいいんだぞ?」
「やだなぁ、そんな訳ないだろ。僕たちも加勢するって」

リヒャルトに睨まれて、イアニスは苦笑しながら否定した。僕「たち」とは、彼が引き連れる従魔の事だ。スズメバチくん重労働だな。

ちなみにアラクネというのは半分人間の大蜘蛛で、最上階にいるラスボスのヴイーヴルは半分人間の竜蛇らしい。
怖っ!会いたくねぇ!
というか…蛇人間には勝てなくても、蜘蛛人間には勝てるのか。すげーなこいつら。

その時、ドアが開いてヴァレリアさんが姿を現した。帰りの飛竜を手配したので、再び騒ぎにならないよう街やギルドへ申告しに行ったらしい。それから、顔馴染みとなった冒険者さんたちへの挨拶もしてきたと。

「お祖母様…!お帰りなさいませ。お供もできずに申し訳ありません。人間どもに煩わされませんでしたか?」
「ただいま、リヒャルト。良い良い。互いに明日は街を発つ身だ、気を使うな」

冒険者の皆さんと一触即発となったあの日、帰ってきた一同は驚くほど態度が一転して、和気あいあいとした関係を築いていた。
何でも、冒険者たちの狙う獲物の低質さを嘆いたヴァレリアさんは全員を郊外へとけしかけ、そこらの森林地帯を長らく根城にしていたシルバートレントとかいう魔物(木の化け物らしい)を退治させるに至ったという。

不穏な見知らぬ魔族から大物討伐の立役者となったヴァレリアさんはその日以降「姐さん」「グウィストン嬢」「お姉様」と畏敬を込めて呼ばれるようになり、彼らとは挨拶を交わす仲となっている。
リヒャルトは不愉快極まれるという態度だったが、ヴァレリアさんは満更でもなさそうなのだった。

「若い衆でゆるりと過ごせ。わたくしは年だから、先に休ませてもらうぞ」

ヒラヒラと気安げに手を振ってそう告げる彼女だったが、リヒャルトは一も二もなく立ち上がる。

「この連中との打ち合わせは済みました、お祖母様。ご一緒します。明日からはまた暫くお別れなのですから、お側に居させてください」
「んもーーッ!本っ当に可愛い子だねぇ!お前ときたら!」

孫を猫可愛がりする祖母とおばあちゃん子の孫は、こちらを見向きもせずに仲良く宿の階段を登っていった。イアニスは「まだ済んじゃいないんだけどね…ま、いっか」と笑ってる。

「ヴァレリアさんがいなくなったら、あの面白いリヒャルトも見納めだな。元のキレ芸チンピラ魔族に戻っちまうのか…」
「はは。僕は気持ち悪かったけどね、あのしおらしいリヒャルト」
「まぁ確かに」

しかしなあ、と俺はもぬけの殻になった席を眺めて思う。孫と祖母とはいえ、あの二人が同じ部屋で寝泊まりしてるってどうなんだ。特にリヒャルトよ…あんな目も眩む美女と同伴してるのにケロッとしやがって。まぁ家族なのだから、当然っちゃ当然だが。もっとこう、恥じらいとか遠慮とかせんのか?あれじゃまるで姉妹じゃん…。
そこまで考えて、俺は何とも言えない違和感を覚えた。だがその時は大した気にもならず、出発前夜は更けていくのだった。

そして、翌日。
快適なベッドと涙の別れを果たし、数日間世話になった「虹色瓜亭」を後にする。おはぎとガムドラドさんを迎えに厩へ行くと、そこには街の子供達の姿があった。

「双子のわんわん、また来てねー」
「ええ。またいずれ」
「次はいつ来るんだ?ガオガオダブル」
「サァね」

すっかり子供達に懐かれたガムドラドさんが、横柄に受け答えしている。変なあだ名付けられてるな。
その子達の中には以前泊まった「花売りコカトリス亭」の店主の息子くんもいて、父ちゃんにチクるなよとお願いされた。親に内緒で来てたらしい。

ヴァレリアさんが笑いながら許可を出したことで、彼らはガムドラドさんの赤黒い毛並みを一斉にわしゃわしゃ撫で回した。一通り満足した子供達の「バイバーイ!」という歓声を背に、皆で門へと向かう。

「我らへの接し方に少々難のある存在のようです」
「触られんのはまだいんだが、うるせ~の何のって」
「ウフフ、ご苦労だったね」

ガムドラドさんの愚痴を聞き流しながら門を潜れば、数百メートル離れた先でも巨体だとわかる生物が2体、存在感をありありと放っていた。

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