ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな

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でかいドラゴンだ!
飛竜、というのは人や物を乗せて運ぶドラゴンの総称で、あの2頭はパナドラゴンという種類の魔物らしい。パナってなんだ?
てくてくと歩み寄り、初めて目にするドラゴンを観察する。ややずんぐりした黄土色の両脚に黒い爪。広げたら相当な面積になりそうな大きな翼は、今はしっかりとたたまれている。

2頭の間には車輪の無い馬車的な乗り物が鎮座し、防寒着に身を包んだ男性が二人、ヴァレリアさんへ丁寧にお辞儀をしていた。彼らはテキパキとドラゴンに乗車部分を固定して、出発の準備を進めている。
これがたった1日で魔族の国からやって来たという飛竜か。ちなみに俺の最速ジズ車でもグウィストン家到着までには41時間かかる。ジズもドラゴンには勝てないのだった…。

「リヒャルト、またすぐ会おうぞ。心配はしておらぬが、油断せずに励むのだよ。良い知らせを期待している」
「はい、お祖母様!」

危険なダンジョンへ向かう孫へ「気をつけて」ではなく「励め」なのは、魔族ならではなのだろうか。どちらも笑顔を交わしつつ、名残惜しそうに別れの挨拶をしている。
「お元気で、リルファ様」「リルちゃん、またなー」とのしのしやってきたガムドラドさんの頭をリヒャルトが撫でて応えた。

「達者でな、子供たち。困ったことがあればわたくしに知らせなさい。温泉のためならば大抵のことは厭わぬ」

その昔は魔族の国の大貴族だったヴァレリアさん。つまり大変な資産家なのだが、遠い魔族の国からレダート家へ突然大規模な資金や人材が行き来するのは、要らぬ不興をかいかねない。という事で、彼女からの援助は大っぴらには受けられないのだった。
だが常では得られないような知古を数多く有する為、腕利きの職人さんや資材調達に役立つ商会の仲持ちをしてくれるという。
そんなヴァレリアさんは、ふとドルトナの街壁を目を細めて眺めた。

「不思議なものよ……。リヒャルトが人間の国なぞでどうしてやっていけるか、何となく分かった気がするぞ。田舎だが、悪くない街であった」

そう呟くと、コツコツと踵を鳴らして優雅に馬車的な乗り物へ入っていった。ガムドラドさんもぐにゃぐにゃと姿が歪んだかと思うと、いつの間にか中へおさまっている。ちょっと狭そうだ。

3人と1匹で見守る中(おはぎはパナドラゴンに恐れを成し、またもや裾の下で縮こまっていた)、リヒャルトのお祖母様を乗せた飛竜は危なげなく空へと飛び立った。ドラゴンに挟まれた乗車部の窓から、美女が鷹揚に手を振る。
しかしそれも、あっという間に遠ざかり見えなくなってしまった。

リヒャルトは長いこと空を仰いで、遠ざかる家族を見送っている。
彼の「行くぞ」という声がかかるまで、イアニスも俺も同じようによく晴れた空を見上げていた。


ーーー


冒険者だけあって国中を行き来しているリヒャルトに、ジズが降りても騒ぎにならないようなスポットを教わる。そのおかげで、王都へは1日半で辿り着けそうだ。
ダンジョンアタックへの準備は全て王都で行うので、ドルトナでできる事はない。男3人コウモリ1匹で、早速出発となった。

「いやー…ヒマだねえ」
「狭い。足がイライラする」

最初のうちはジズでの飛行にわいわい言っていた二人だったが、3時間も経つとそんな有様だ。今の所、車酔いはしてなさそう。

「お前らはいいよ、そのままグースカ寝てられるんだから。俺はこの体勢で何時間も運転してんだぜ。せめて文句は心の中に留めとけよな」
「キキキー…」(眩しいよー)
「そんなとこにいるからだよ。リヒャルトの隣にぶら下がってろ、あっち日陰だから」
「キィ」

おはぎの定位置が、日の角度によってカンカン照りになっている。こりゃたまらんと羽に頭を埋めて情けない声を出す毛玉にそう勧めれば、ぱっと飛び立ってリヒャルトの頭に避難した。

「このチビ、乗るな!」
「キィキィ」
「ははは。シマヤさん、随分仲良くなったね」
「案外素直で助かってるよ…コウモリだけど」

ジズで進めるのは、王都まであと三分の一くらいという地点だ。そこから先はステルスモードや徒歩になる。
徐にイアニスが「そうだ!」と言い出したのは、それから更に数十分経った頃。地上は穏やかな草原がなりを顰め、大きな川や崖が散見され始めていた。

「ちょうどいい。現地に着いたら忙しくなるから、今の内に決めておきたい事があるんだ」
「何だ、突然」

腕を組んで窓の外を眺めたまま、リヒャルトが気のない返事をする。
決めておきたいこと…。まぁ、色々あるよな。決行日とか、報酬の内訳か?

「冒険者チームの名前、どうする?」
「ああ…」
「え、名前…?」

何それ。ウキウキか。
冒険者チームは割と自由に結成や解散ができるが、やはりその都度ギルドへの登録をしておくものらしい。その際は、チーム名が必要になる。
まぁ確かに、今は他にやることもないからちょうどいいけど。少々拍子抜けしてしまった。

「特にないのなら、『レダート温泉開発同盟』なんてどう?」
「却下だ。『リヒャルト・グウィストンとその他』にしろ」

領地本意なネーミングのイアニスやあからさまに考える気ゼロのリヒャルトに、俺は呆れ返る。よくチーム名に自分のフルネームなんて突っ込めるなお前。

「どっちもダサくない?あまり長くない方がいいと思う」
「あ?だったら言ってみろよ。何にするのだ?」
「そうだなぁ、うーん……『温泉トリオ』は?」
「ダッサ」
「いや、ダサいよそれも」

ブロロロとよく晴れ渡った空を走りながら、名前の候補たちを上げていく時間が続いた。
『チーム・サンカヨウ』『銭ゲバ隊』『レダーリア・リゾート』『グウィストン共戦同盟』『レダート湯けむり組合』『おはぎ団』……各々思い付きを片っ端から口にし、収集がつかなくなってくる。

そうこうしていると、ジズから陸路へ切り替えるポイントまで辿り着いた。地上は崖地を通り過ぎ、大規模な農園が広がっている。稲…ではなく、あれは小麦だろうか?
見晴らしのいい畑のど真ん中だ。リヒャルトによれば、収穫期でない今なら人の目につかないはずらしい。確かに辺り一帯に民家はないが、大事な畑にジズが降りてきたらパニックになりそうだ。大丈夫だろうか。

俺は畑に侵入しないよう慎重に降下して、農道へ車を乗り入れた。狙いすまして着地するのは緊張するが、何となく慣れてきたような気がする。
ドシンと降り立って、すかさずナビでステルスモードに変更。これでよし。

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