ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな

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小休止を終え、5階のフロアへと出発する。4階に引き続き、この階も魔物チームが待ち構えている造りだった。
魔物チームはいつものメンツにグールという魔物が加わった。黒ずんだ小柄なミイラで、目が赤く光った不気味なやつだ。

そんなグールくんだが、たまにゴブリンくんが拳でちょっかいをかけてくるのにも無反応で突っ立っている。どうもゴーレムくんとキャラが被っているように見受けられた。

「僕らが来ないと、こいつらも案外平和に過ごしているんだねぇ」
「平和かな…?」

枯れ木のように佇むグールを小突いてゲラゲラするゴブリンたちの間を通り過ぎながら、俺とイアニスはそんな感想を溢す。リヒャルトはどうでも良さそうに眺めている。
すると、それまで無反応だったグールが突然一番近くにいたゴブリンに勢いよく飛びかかった。床に押さえつけられ、なす術なくガツガツと食べられていくゴブリン。とても直視できない。側で見ていた別のゴブリンたちは一瞬唖然としたが、食われた仲間を見て再びゲラゲラ笑いだすのだった。

「ひぃっ!地獄か!?」
「……じっくり観察するもんじゃないね」

そそくさと魔物どもの団欒(?)を後にして、迷路を走行する。少々コミカルに見えたのは気のせいで、やはり相入れない存在のようだ。

厄介さの増す階層だが、冒険者さんたちの人数も減ってはいない。この階からやっと本格的に稼げるようになるという。

「オークがレアで大粒の魔石を落とすようになるし、なんと言ってもグールの血液が出る。魔物避けの原料としてよく売れるんだ」
「俺たちはいいのか?」
「3人じゃぁ、挑むには人数が足りないよ」
「フン。2人の間違いだろう。貴様などあっという間にさっきのゴブリンと同じ目に合う」
「あ、うん、そうね。俺は車に隠れる係だからな」

稼げるというのでつい尋ねてみたが、確かに2人ぽっちで挑んでは囲まれてしまうな。相手しないに限る。
俺は納得したが、リヒャルトは引っかかるようだ。

「コソコソせずとも、私一人で充分な相手だ」
「ダメだ。負担の割に見返りが少ない。オーガ三兄弟やアラクネにたどり着くまで、消耗は控えておこう」
「期日まで16日しかないのだろう。ちんたらしていて良いのか?」
「良い訳ではないけど、今回は初めての攻略だ。今はとにかく先に進もう」

チーム・サンカヨウとして初めてのアタックである今回。10階まで行って帰ってくるのにどれほど掛かるのか、今後のペース配分を測るための様子見が優先だという。

交通安全のお守りとぶら下がって昼寝中のおはぎが同じリズムで揺れるのを目にしながら、5階の迷路も低速制覇を果たす。大階段とは違って、ここの階段は通路と同様薄暗く埃っぽかった。
陰鬱になってしまった階段を急いで登り、エリアボスのオーガ三兄弟がいる6階へと向かう。

「別に兄弟というわけではないよ。いつも3体で出現するから、そう呼ばれているんだ」

オーガ鬼人は知能も魔力も高い魔物で、それを同時に3体も相手取らなければならない。
いつも通り車でスルーできないのかと思ったが、それはできないらしい。エリアボスやラスボスのいる空間は特殊で、一度足を踏み入れると倒すまで出られないのだ。オーガ三兄弟を倒すことでその空間が一時的にセーフティエリアとなり、上へ続く階段が現れる。

入ったら最後、倒さなければ閉じ込められたまま…。リヒャルトとイアニスに何かあれば、勿論自分もお陀仏だ。事前に説明はされていたものの、緊張と不安が止めどなく押し寄せてきた。
魔物たちのメンツは5階から引き続きで、変わり映えは無し。冒険者さんたちは4、5人のパーティが殆どだったが、中には10人以上の大所帯の所もある。王都の兵士たちが訓練としてダンジョンを使っているそうだ。

オークたちがふんぞり返って屯する行き止まりをバックで延々と戻り、別の分かれ道へと前進する。すると、通路の向こうに見慣れないドアを発見した。

「お、いよいよ来たね。ちょうど人もいないし、降りようか」
「じゃあアレが、ボスのいるエリア?」

ドアの前まで来て、車を止める。二人がバタンと降りる中、俺は備品の最終チェックをした。これから謎の空間に閉じ込められるのだと思うと、恐ろしくて仕方ない。
ガソリンもとい魔石の小粒、よし。目くらまし・麻痺のスクロール、よし。ポーション類、よし。エリクサーも後ろのトランクからダッシュボードの中へ移動済みだ。万が一の時は二人をなんとか車内に引っ張り込んで、こいつを飲ませないと。

「いくぞ」

おはぎが裾にぶら下がっているのを確認してキーを閉めるや否や、リヒャルトは返事も聞かずに両開きの扉に手をかけた。中は不自然なほど真っ暗だ。
勇ましく入っていくリヒャルトは暗闇に消えてしまう。後ろからイアニスに励まされ、えいやとドアの向こうへ飛び込んだ。

入った瞬間、まるで明かりがついたかのように部屋の様子がよく見えた。広い部屋に3体のオーガが並んでこちらを睨んでいる。真ん中には斧を持った赤い肌のマッチョ。右には長い鉈を手にした青いマッチョ。そして左には同じ鉈を持った黄色いマッチョだ。
中央の赤オーガは、3メートルはありそうだ。

手にした獲物を構え、ズシンズシンと距離を詰めてくるオーガたちに足がすくむ。一方、リヒャルトとイアニスはそんな俺の前に進み出ると、いつもの調子で声をかけてきた。

「シマヤさんはここから移動せずに車で待機していて。何かあったら逃げ込むから、宜しくね」
「居眠りしてたら殺すぞ」

気負いのない普段通りな彼らの様子に、少しだけ落ち着きを取り戻した俺は車を出して乗り込む。ただいま。エンジンをかけてステルスモードに移行させた。

「キィ~?」
「さぁ…。無理はしないって言ってたから、勝算はあるんだろうけど」

アイツら大丈夫?と心配しているおはぎに適当な返事しかできない。俺も知りたいよ、本当に大丈夫なのか。

「狙いは?」
「赤と青。足止めお願いするよ」
「フン」

そう短く応酬を交わすとリヒャルトは両手を前方へ向け、イアニスは静かにそこから離れた。


ビシビシビシビシッ


乾いた轟音と共に、リヒャルトの前方に大きく氷の塊が湧き出てきた。広範囲に渡って生み出された真っ白な氷は、薮のように3体のオーガを覆う。

すごい威力だ。見ているだけで寒そうな光景に目を見張っていると、黄色オーガが鉈で氷を派手に打ち砕いた。己の両足を覆っていた氷から解き放たれると、怒りの唸り声を上げリヒャルトへ襲いかかる。

リヒャルトは鉈の一撃を跳んで避けながら、瞬時に生み出した氷柱を放つ。それはオーガの肩に当たるも刺さらず、砕け散ってしまった。
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