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車から出た二人はアイテムボックスから街で購入した松明を取り出し、準備し始める。
どうやらこの松明は灯り用というより、炎や光に弱い魔物を狩るために作られたものらしい。どこぞに生えている木の樹液が材料に含まれていて、ツンとする匂いにおはぎが釣られている。
「キィキィ!」(いい匂い!)
「あはは。これは蜘蛛をやっつける道具だから食べられないよ」
「キ…」(なんだ…)
「コウモリの丸焼きになりたくなきゃ向こうへ行け」
しっしっと追い払われたおはぎは諦めて俺の裾へ飛んできた。そんなもんまで食おうとすんじゃないよ。
「なぁ…アラクネってかなりでかい蜘蛛なんだよな?」
「大体コイツと同じくらいだ」
俺が恐る恐る尋ねると、リヒャルトが松明の先をロレッタちゃん・オーガのすがたへ向けてそう答えた。
あのでかさのバケモノ蜘蛛……心の準備をしないとな…。
「さぁさぁ、落ち着いて。シマヤさんが冷静でいてくれると、僕たちだって安心して挑めるよ」
「この私が虫けらごときに遅れをとるものか。馬鹿にするなよ」
俺の顔色を見た二人がそれぞれに激励してくれる。これから戦うのはあんた方だろうに、そんな余裕あるのか。
いいや。これまでしっかり話し合って準備をしてきた。イアニスは無理をしないと言っていたし、二人が相手どる事のできる魔物だからこうして挑んでいるのだ。今さらどうこう言っても始まらない。
腹を決めて、ドアを開け放つリヒャルトの後に続いた。
暗闇だった部屋が見渡せる。オーガ三兄弟の時と同じ広さの部屋は、壁が見えないほどの蜘蛛の巣で覆われていた。
松明を手にしたリヒャルトとイアニス、そしてロレッタちゃんが足を進める中、俺は真っ先に車を出して避難した。ステルスモードで雲隠れして、やっと部屋の奥に鎮座する怪物に目を向ける。
メラメラと燃えたぎる松明を掲げ突進していくロレッタちゃんを待ち構えているのは、熊のように巨大な蜘蛛だった。硬そうな毛に覆われた真っ黒な胴体に、8本の脚。特に巨大な2対の脚先には、鎌のような爪が光っている。
身の毛もよだつようなその姿から、人間の上半身がにょっきりと生えていた。毛むくじゃらが段々と白い肌へ変わっていき、一糸纏わぬ妖艶な女がロレッタちゃんを悠然と睨みつけている。
き、際どいッ!
バキッ
ブルーオーガの腕力で振るわれた松明はアラクネの頭ーーではなく、その前に庇うように現れた別の大蜘蛛にめり込んだ。
アラクネと並ぶと小さく感じるが、大型犬ほどはあるだろうか。ギィギィと悲鳴を上げてのたうち回る姿は正真正銘の蜘蛛で、人型はくっついていない。
「来た、眷属だ。まずは形成を覆すぞ」
「ああ。気を抜くなよ」
「はーい、リーダー」
イアニスが鞄を開けると2匹のネズミが素早く這い上がり、彼の両肩で待機した。
その間にも、あちこちの巣の奥からワサワサと大小様々な蜘蛛が姿を現してくる。俺は車内で一人悲鳴を上げ、おはぎに(うるさっ)と言われた。
「5……7…8匹かな?」
「8だ。新手がいたら請け負う」
「任せた。ロレッタ!その強い奴はいい。弱いやつから倒すんだ」
イアニスに指示されたロレッタちゃんは、3匹の蜘蛛に守られたアラクネから距離を取る。
しかし3匹蜘蛛から発射された糸がそれを追った。糸はロレッタちゃんの胴体や片足にへばり付き、身動きを封じる。動けなくなった獲物を狙い2匹の大蜘蛛が這い寄っていくがその脚をリヒャルトが氷漬けにし、すんでのところで食い止めた。
そうやってロレッタちゃんが大蜘蛛5匹の注意を引いている間、二人は並んでアラクネ以外の蜘蛛たちを観察している。
「決めた。あいつが大きくて強そうだ」
やがてイアニスが指針を決めたようで、肩のりネズミたちに優しく話しかけた。
「サマンサ、行ってらっしゃい。パメラはその奥にいるやつを捕まえてごらん。頑張ってね」
「しくじるなよ」
リヒャルトはアラクネの操る糸を氷で撃ち落としたり大蜘蛛たちの脚を氷漬けにしたりと、守りに徹している。注意深く全体を見渡してひっきりなしに氷を放っているので、いつもの氷柱攻撃をする余裕が無さそうだった。
アラクネは周囲にある巣の糸を操り、二人と一体へ向けて攻撃している。その度にリヒャルトが氷の幕で相殺して防いだ。糸はとんでもなく粘着質で厄介なので、その場に残さないよう松明で焼き払うのが必須らしい。そうしないと周囲が糸まみれになり、いずれ捕まってしまうからだ。
イアニスたちが狙いを定めたらしい大蜘蛛は一際大きく、鎌のような爪を振りかざしてくる。イアニスはリヒャルトの前に躍り出ると、松明を剣のように振って蜘蛛の脚を振り払った。松明は脆い小枝の如くへし折れたが、すかさず新しい物をアイテムボックスから取り出して、次の一撃も受け止めた。
ヒヤヒヤと見守っていると、その大蜘蛛の動きがピタリと止んだ。そしていつぞやのように痙攣しだす。
「サマンサ、よくやったね。ハイターッチ」
どうやらサマンサちゃんが乗っ取りに成功したようだ。イアニスが2本指を合図のように掲げると、大蜘蛛・大ことサマンサちゃんはギラリと光る鋭い爪でそこにソフトタッチをした。水族館のアザラシと飼育員さんみたいな事してる…。
「ホラ見てご覧!パメラが初めて成功させたよ。よくやったねぇ」
イアニスは足元でじっとしている大蜘蛛ーー蜘蛛たちの中では一番小さく、小型犬ほどだーーに向かって嬉しそうに声をかけた。いつの間にそんな所へいたのか、パメラと呼ばれた大蜘蛛はイアニスに寄り添うように大人しくしている。
イアニスは大蜘蛛・小ことパメラちゃんにも屈んで指を掲げ、ちょこんとハイタッチした。
「おい!やってる場合か!」
「ごめんごめん。そろそろロレッタのガワが限界かな。よーし。パメラはアラクネの右にいる蜘蛛をお願いね。サマンサはロレッタを回収してから、左側の方を襲うんだ」
見るとロレッタちゃんは4匹の大蜘蛛を相手どっているが、リヒャルトの援護を受けているとはいえ多勢に無勢で苦戦していた。松明の火が追いつかずに殆どぐるぐる巻きにされている。そのそばで大蜘蛛がひっくり返って燃えているので、1匹は倒したようだ。
「頃合いだな」
「ああ。新手の眷属を呼ばれる前に仕留めてしまおう」
二人がそう声を掛け合うのが聞こえた。
どうやらこの松明は灯り用というより、炎や光に弱い魔物を狩るために作られたものらしい。どこぞに生えている木の樹液が材料に含まれていて、ツンとする匂いにおはぎが釣られている。
「キィキィ!」(いい匂い!)
「あはは。これは蜘蛛をやっつける道具だから食べられないよ」
「キ…」(なんだ…)
「コウモリの丸焼きになりたくなきゃ向こうへ行け」
しっしっと追い払われたおはぎは諦めて俺の裾へ飛んできた。そんなもんまで食おうとすんじゃないよ。
「なぁ…アラクネってかなりでかい蜘蛛なんだよな?」
「大体コイツと同じくらいだ」
俺が恐る恐る尋ねると、リヒャルトが松明の先をロレッタちゃん・オーガのすがたへ向けてそう答えた。
あのでかさのバケモノ蜘蛛……心の準備をしないとな…。
「さぁさぁ、落ち着いて。シマヤさんが冷静でいてくれると、僕たちだって安心して挑めるよ」
「この私が虫けらごときに遅れをとるものか。馬鹿にするなよ」
俺の顔色を見た二人がそれぞれに激励してくれる。これから戦うのはあんた方だろうに、そんな余裕あるのか。
いいや。これまでしっかり話し合って準備をしてきた。イアニスは無理をしないと言っていたし、二人が相手どる事のできる魔物だからこうして挑んでいるのだ。今さらどうこう言っても始まらない。
腹を決めて、ドアを開け放つリヒャルトの後に続いた。
暗闇だった部屋が見渡せる。オーガ三兄弟の時と同じ広さの部屋は、壁が見えないほどの蜘蛛の巣で覆われていた。
松明を手にしたリヒャルトとイアニス、そしてロレッタちゃんが足を進める中、俺は真っ先に車を出して避難した。ステルスモードで雲隠れして、やっと部屋の奥に鎮座する怪物に目を向ける。
メラメラと燃えたぎる松明を掲げ突進していくロレッタちゃんを待ち構えているのは、熊のように巨大な蜘蛛だった。硬そうな毛に覆われた真っ黒な胴体に、8本の脚。特に巨大な2対の脚先には、鎌のような爪が光っている。
身の毛もよだつようなその姿から、人間の上半身がにょっきりと生えていた。毛むくじゃらが段々と白い肌へ変わっていき、一糸纏わぬ妖艶な女がロレッタちゃんを悠然と睨みつけている。
き、際どいッ!
バキッ
ブルーオーガの腕力で振るわれた松明はアラクネの頭ーーではなく、その前に庇うように現れた別の大蜘蛛にめり込んだ。
アラクネと並ぶと小さく感じるが、大型犬ほどはあるだろうか。ギィギィと悲鳴を上げてのたうち回る姿は正真正銘の蜘蛛で、人型はくっついていない。
「来た、眷属だ。まずは形成を覆すぞ」
「ああ。気を抜くなよ」
「はーい、リーダー」
イアニスが鞄を開けると2匹のネズミが素早く這い上がり、彼の両肩で待機した。
その間にも、あちこちの巣の奥からワサワサと大小様々な蜘蛛が姿を現してくる。俺は車内で一人悲鳴を上げ、おはぎに(うるさっ)と言われた。
「5……7…8匹かな?」
「8だ。新手がいたら請け負う」
「任せた。ロレッタ!その強い奴はいい。弱いやつから倒すんだ」
イアニスに指示されたロレッタちゃんは、3匹の蜘蛛に守られたアラクネから距離を取る。
しかし3匹蜘蛛から発射された糸がそれを追った。糸はロレッタちゃんの胴体や片足にへばり付き、身動きを封じる。動けなくなった獲物を狙い2匹の大蜘蛛が這い寄っていくがその脚をリヒャルトが氷漬けにし、すんでのところで食い止めた。
そうやってロレッタちゃんが大蜘蛛5匹の注意を引いている間、二人は並んでアラクネ以外の蜘蛛たちを観察している。
「決めた。あいつが大きくて強そうだ」
やがてイアニスが指針を決めたようで、肩のりネズミたちに優しく話しかけた。
「サマンサ、行ってらっしゃい。パメラはその奥にいるやつを捕まえてごらん。頑張ってね」
「しくじるなよ」
リヒャルトはアラクネの操る糸を氷で撃ち落としたり大蜘蛛たちの脚を氷漬けにしたりと、守りに徹している。注意深く全体を見渡してひっきりなしに氷を放っているので、いつもの氷柱攻撃をする余裕が無さそうだった。
アラクネは周囲にある巣の糸を操り、二人と一体へ向けて攻撃している。その度にリヒャルトが氷の幕で相殺して防いだ。糸はとんでもなく粘着質で厄介なので、その場に残さないよう松明で焼き払うのが必須らしい。そうしないと周囲が糸まみれになり、いずれ捕まってしまうからだ。
イアニスたちが狙いを定めたらしい大蜘蛛は一際大きく、鎌のような爪を振りかざしてくる。イアニスはリヒャルトの前に躍り出ると、松明を剣のように振って蜘蛛の脚を振り払った。松明は脆い小枝の如くへし折れたが、すかさず新しい物をアイテムボックスから取り出して、次の一撃も受け止めた。
ヒヤヒヤと見守っていると、その大蜘蛛の動きがピタリと止んだ。そしていつぞやのように痙攣しだす。
「サマンサ、よくやったね。ハイターッチ」
どうやらサマンサちゃんが乗っ取りに成功したようだ。イアニスが2本指を合図のように掲げると、大蜘蛛・大ことサマンサちゃんはギラリと光る鋭い爪でそこにソフトタッチをした。水族館のアザラシと飼育員さんみたいな事してる…。
「ホラ見てご覧!パメラが初めて成功させたよ。よくやったねぇ」
イアニスは足元でじっとしている大蜘蛛ーー蜘蛛たちの中では一番小さく、小型犬ほどだーーに向かって嬉しそうに声をかけた。いつの間にそんな所へいたのか、パメラと呼ばれた大蜘蛛はイアニスに寄り添うように大人しくしている。
イアニスは大蜘蛛・小ことパメラちゃんにも屈んで指を掲げ、ちょこんとハイタッチした。
「おい!やってる場合か!」
「ごめんごめん。そろそろロレッタのガワが限界かな。よーし。パメラはアラクネの右にいる蜘蛛をお願いね。サマンサはロレッタを回収してから、左側の方を襲うんだ」
見るとロレッタちゃんは4匹の大蜘蛛を相手どっているが、リヒャルトの援護を受けているとはいえ多勢に無勢で苦戦していた。松明の火が追いつかずに殆どぐるぐる巻きにされている。そのそばで大蜘蛛がひっくり返って燃えているので、1匹は倒したようだ。
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