ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな

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餞別もらった

「ましてやチーム組むなんてムリ!…ってのに、そんな奴とダンジョン潜ってやっていけてる旦那がたが不思議なのよねー」
「脅されたのか?それとも、本当に仲が良いん?」

じろじろじろーっ、と好奇心に満ちた若者の目が俺たちに向けられる。

「少しの間だけだから…」
「そう。本日で解散さ」
「へ?そーなんだ」
「もうやめちまうんか?…ま、いくら魔族っつっても魔法使い3人ぽっちじゃ、長期は厳しいか」
「ん?いや!?俺は魔族じゃ…」
「そうなんだよ。元々王都へは、短期の出稼ぎで来たからね。君たちは王都は長いのかい?」

しどろもどろな俺とは違い、イアニスは穏やかに受け答えをしている。若干菩薩の笑みが出ているから、「かわいいなぁ」とでも思っているのかもしれない。これがジジイの貫禄か。
お二人からの質問をのらりくらりとかわしつつ、他愛無い世間話をする。例のBランクパーティが明日からにもダンジョンへ戻るらしいと聞いてギョッした。

「あ、あんな血塗れになったのに、また行くってのか!?」
「攻略意欲の高い連中なんだろーね。Bランクだし」

冒険者チームは傾向が多様だ。俺たちチーム・サンカヨウやこのお二人の属するチームのような、計画を立て慎重に稼ごうとする者達もいれば、明日をも知れぬ身・ならば一攫千金とばかりにずんどこ邁進する人たちもいるという。
俺からすればとんでもないが、それが冒険者というものなのかもしれない。こんな世界だ。そうしなければ生きていけなかった境遇の人だっているのだろう。
そんな界隈に身を置く若者二人へ思わず視線を注げば、「「?」」と不思議そうに首を傾げられた。兄妹みたいだな。

「旦那ら、従魔がいたよな?あのネコとプラムバットは連れてないの?」
「オハギちゃんならいるよ。ウチの子らは留守番だ」
「キィ?」(呼んだ?)
「わっ、出た!」

自分が話題に上がったと察したおはぎが、ノソノソッと裾の内側から伝ってきた。

「ほんとにただのプラムバットだ…。ネコもプラムバットも、ダンジョンでどうやって役に立つの?」
「いや、よく見ろよ。コイツ妙に毛がツヤツヤだ…!やっぱりなんか秘密があるんじゃないのか?」
「なんの秘密よそれ」

ツインテ女子とイケメン剣士にじろじろ眺められ、警戒したおはぎは毛をふわーんと膨らませた。ツヤツヤなのは今朝のブラッシングのせいだぞ、諸君。

「キ…」(なんだよぅ、こいつら…)
「別に大丈夫だよ。毛が綺麗だねって褒めてくれてるぞ」
「キィー?」(良いヤツなの?)
「そうそう」
「キィ、キーィ!」(じゃあまた自慢する!)
「せんでいいから」

いつぞやのように自分の宝物を自慢しようと意気込む毛玉を抑えている間に、二人の関心はイアニスの方へ向けられた。「ネコってテイムできるの?」という疑問に「あの子たちとはたまたま気があってね」と流れるように嘘を吐いている。
リヒャルトは有名人だが、イアニスは冒険者として特に知られていない。ギドーホッグのテイマーである事も貴族である事も、明かす気はないらしい。

「ダンジョンにいると気持ちが殺伐としちゃうだろう?だから可愛いモフモフに心を癒してもらうのさ。リヒャルトもあの子達にはメロメロなんだよ」
「あっははは!想像しちゃった…!」
「だ、旦那ァ…マジでいってる?」

因みにダンジョン攻略中、リヒャルトがロレッタちゃんたちに癒されていた素振りは全く無い。むしろイアニスの操るスズメバチにぶっ刺されて敗北した身だ。裏で勝手に猫好きキャラにされていると知ったら、キレるに違いない。

「本当だって。気持ちが和めばコミュニケーションがスムーズになって全員の士気が上がる。つまり僕らがパーティとしてやっていけたのは、あの子達のおかげでもあるんだよ」

さも本当かのように真面目な面持ちで言い張るイアニスに、二人とも困惑気味だ。嘘だよ、ウソ。
やがて根掘り葉掘り聞くのを諦めたツインテ女子とイケメン剣士は、手を振って仲間の元に去って行った。俺たちも「達者でね」と別れの挨拶で見送る。

「さて、荷車を調達しようか」
「なんか知らんが、やけに勘繰られたな」
「ああ。僕らはともかく、シマヤさんも魔法使いと思われてたね」
「というか魔族にされてた…」
「そりゃ従魔がいればね~」
「キキィ~」

魔物を従えるテイムは魔族の専売特許のようなものだ。人間と違って魔族は魔物の言葉が分かるもんな。

「見た目はシマヤさんが年長だし……案外、僕とリヒーの師匠だと思われてたりしてね?」
「そりゃないだろ、いくら何でも。…てか、やめてくれ。俺はピチピチの25だ」
「人間でも25はピチピチじゃないでしょう…」

なんでも、10代後半で所帯をもつのはザラだという。ぐぬぬ…悲しいから、この話題はもうよそうか。
悲しいといえば、あの可愛いリス獣人の受付さんに最後一目お会いしたかったなぁ。非番なのか、今日は見かけられなかったや。
さようなら、モストルデンの冒険者ギルド。

その後、荷車を求めてごみごみとした商店街マーケットを歩く。観光がてら何度か来たが、ここは色んな店が建ち並んでいる。何でも揃っている量販店というものは無く、靴は靴屋、食器は食器屋といった具合に品種の数ほど店があるのだ。
おかげで訪れるたび発見があって楽しいが、今みたいに何かを探している時は大変だ。

やっと目についた家具屋で、良さげなものを購入。滑車が付いた木製のソリだ。これなら車に積んでもあまりスペースをとらない。
さて、帰ろう。
店だけでなく人でもごった返す商店街を離れ、イアニスに周囲を見張ってもらいながら車を出す。乗り込んだ時には俺もイアニスもくたびれて、おはぎはぐっすり眠っていた。声をかけて、いつもの定位置にぶら下がってもらう。

「ほら、起きろ。ケツに敷いちまうぞ」
「キ…」
「ハァー…この窮屈だけど便利なクルマとも、今日でお別れか」

イアニスが大きく伸びをしながらしみじみといった口調でそうこぼす。
そうだった。報酬も受け取った事だし…これで明日、商会の荷物を運び込めば、俺が王都にいる必要はなくなる。

「口利きはしたけれど、この先商会で長くやっていけるかは貴方の働き次第だ。頑張ってくださいね」
「うん。まー…色々あったけど、ありがとうな」
「こちらこそ」

上手くやっていけるかという不安は途方もない。しかし、この世界で仕事という「やる事」が見つかったからか、今までにない安堵感のようなものを持てた。
やったるぞ。全ては、地に足のついた生活の為。それができなきゃ、またこの二人に頭を下げて塔ダンジョンで金稼ぎする羽目になりかねん…!魔物もそうだが、もうあのクランク地獄にはしばらくお目にかかりとうないのだった。

車はやっぱり、屋外を走らんとな。
感想 3

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