ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな

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話しかけようにも話題も無いし…口をひらけば憎まれ口だもんな。どうしようかと考えていると、ふいにあることを思い出した。

「そうだった。お前に聞きたいことがあったのに、忘れてたよ」
「あ?何だ」
「前に酔っ払いの精霊様と会った時、お前とおはぎが付けていた紐があったろ」
「ああ……魔繋ぎの紐だ」

リヒャルトの赤い目が怪訝そうにこちらを向く。それがどうした、という顔つきだ。
おはぎの食い気のせいではぐれた昨日の経緯を話すと、リヒャルトは馬鹿にしたように鼻を鳴らして言った。

「くだらん。それでは従魔ではなく、ただのペットではないか」
「俺はもうそう思ってるけど」
「キィ~?」(ペットってなに?)
「ハッ!友人か何かのつもりか?主人がそれでどうする。曲がりなりにも契約を交わした仲なら、下僕しもべに役割を与えるのが務めだろうに」

役割りねぇ。
ふとダンジョン攻略での一場面を思い出した。あの時リヒャルトは勝手に声をかけ、おはぎに隠し部屋の偵察へ行かせていたっけ。

「そういうもんか…?」
「そうだ」
「キィッ」(おはぎは役に立つぞっ)
「嘘つけ。食ってるか寝てるかだろ」
「ギ!?」

とにかく。目を離している間に何かあった時のため、あの便利なヒモが欲しかったのだ。どこで買ったのかを聞いて調達するつもりだったのに…すっかり忘れてしまった。
後ろ髪を引かれていると、ふいにリヒャルトの手がずいっとこちらへ差し出された。

「ほらよ」

そこには、何処からともなく取り出された2組の紐がプラプラと揺れていた。金と黒のミサンガだ。

「ん?これ…」
「くれてやる。互いに魔力を込めてから結んでみろ」
「おっ?いいの?ほんとさっきからどうした!?具合でも悪いのかよ」
「何だと!?」

リヒャルトは怒りながらも、なんと魔繋ぎの紐を俺とおはぎにくれた。今日は中身が違う人なんだろうか。
俺が魔力を込めた紐をおはぎの後ろ脚に付け、おはぎが込めた紐を俺の手首に付ける。ファンタジー世界のミサンガは夢があるな。…しかしお揃いで付ける相手がちんちくりんの毛玉なのが微妙だ。

試しに手首の紐へ魔力を込めると、おはぎが「キィッ」(なんかキタ!)と反応する。逆も同様で、手首の周りがほんのり暖かくなった。
これで目が届かなくても、お互いを呼び出す合図くらいにはなる。少しだけ安心だ。

「ありがとな。これでGPSでも付いてりゃ完璧だけど、それは欲張りだな」
「じーぴえ?…また異世界のアイテムか」

礼を言う俺に構わずスタスタと再び歩き始めるリヒャルトに続いて、王都の通りを進んでいく。数分もすると、街壁の門へ辿り着いた。ダンジョンへ行く為に通った西の門とは反対の、東門だ。
出る際は並んだりしないようだが、入る時は検問の列ができる。今日も外にはずらっと人々が並んでいた。

「ここもすげー人だなぁ」

思わず呟く俺の隣で、リヒャルトは通りの向こうを眺めている。何か気になっているようだ。しかし俺がそちらへ目を向ける前に、いつもの不機嫌な声があがる。

「さぁ着いた。あばよ、クルマ人間」

おお。本当に何も企んでいなかったようだ。人を人造人間みたいに言うな。
どういうわけか知らないが、言葉通りに見送ってくれたリヒャルトにも最後の挨拶をしよう。

「はいはいあばよ、クソ魔族。温泉宿のオーナーがお客様にそんなお見送りしてたら、あっという間に潰れちまうからな。気をつけろよ」
「口の減らない野郎め」
「お前だ。全くもってそれはお前だから」
「貴様こそ、その見合わんスキルがバレて一文無しにならんようせいぜい気をつけるのだな」
「わかってるよ…!」
「キィキィッ」(さよならーっ)

最後までこんな感じなのだな。俺はさっさと歩みを進めて、人々の賑わう門へと向かった。おはぎを連れて。

門を潜って街の外へ出る。踏み鳴らされた街道が平地に伸びており、屋台や馬車、そして人々がワイワイと喧騒をなしている。
何となく振り返ると、ここから見える街の通りにリヒャルトの姿はもうなかった。

「はーぁ。今度は変なのに絡まれないようにしなきゃな…」

元はと言えば、ドルトナの街を出た途端に声をかけられたのが全ての始まりだった。また同じ目にあってたまるか。
周囲に立ち並ぶ露店への好奇心を抑え、街道を早足で進む。王都へ向かう人の流れは多いが、逆は少なかった。

ナビの地図によると、街道はゾナドフ方面へと続く河と並行して伸びていた。ここから見えるのは河沿いに茂る林の緑だけで、河自体は確認できない。水辺寄りは人が居そうだが、何処かの木立ちで車を出せるだろう。

てくてくてくと歩いて木立ちへ入り込み、おはぎに周囲を見張ってもらって車に乗り込めたのは、それから20分ほど経った頃だ。ブィーっと窓を開けておはぎを迎え入れながらナビを起動。
よく慣らされた街道に沿って、出発だ。

「ステルス運転モードへ移行します。車外へ出るときは安全を確認しましょう」
「じゃ、行きますか」
「キィ」(いいよー)


ーーー


遡ること3日前。
チーム・サンカヨウが最後のダンジョンアタックを終え、晴れて目標を達した翌日の事だ。

「随分と稼いでるって聞いたぞ」
「少なくとも1日で8階まで行ったとか…」
「3人パーティだよな?一体どんな装備だよ」
「上級ポーションまで持ってやがったって話しだ」
リヒャルトと、お貴族様と…?あと一人」
「誰アレ?」
「何だァあいつ?」
「見ない面だぜ」

ここは王都の冒険者ギルド。
買い出しのため口座から金を引き出す列に並んでいるシマヤの背中を眺めつつ、イアニスは周囲からの視線にすまし顔で応えていた。

ーーすっかり悪目立ちしてるや

無理もない。ぽっとやってきて結成したばかりのチームが忽ち荒稼ぎしだしたのだから。
その上、これまでリヒャルトが他の冒険者たち相手に起こしたトラブルは枚挙にいとまがない。そんな奴が筆頭となって立ち上げたチームの快進撃だ。面白くないと思う連中は大勢いるだろう。

半月近くに渡って勤しんだダンジョンアタック中、顔馴染みになるほど出くわした者たちもいる。ひょっとしたら、自分たちがクルマに乗り込む所を見られているかもしれない。何せダンジョンは見通しがいいとは言えない場所だ。気づかれない内に人目に触れていた可能性は十分ある。

そうなると、困った事になるのはあの苦労人の人間だ。

「フム……一人や二人に見られてた所で別に問題ないか。まずいのはギルドだな」

以前確認したところ、シマヤは冒険者登録の際自分の特殊スキルについては伏せていたという。
クルマという、異世界の技術で造られた乗り物を召喚するスキル。今ではそんなもんかと慣れてしまったけれど、初めて目の当たりにした時はあまりの特異さに開いた口が塞がらなかった。
特にあの常識はずれなマップ機能。あれはまずい。村や街までの正確な距離、森林の規模、水源の位置関係等々…領主ですら把握しきれていないだろう領土の全貌が、彼のスキルひとつで丸裸にされるのだ。実際、レダーリア山にひっそりと忘れ去られていたサンカヨウの廃墟など、誰も知りようのない存在である。
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