ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな

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ゾナドフとラフィード

カーナビの導線だと2時間程で辿り着くゾナドフの街だが、着くのが大幅に早すぎてしまう。なので今回は、ナビを無視して街道に沿って移動する事にした。
地図を注意深く確認したところ、街道もナビも大きな違いがない。街道は川沿いの途中に広がる丘陵を大きく避けるのだが、ナビは真っ直ぐに突っ切っている。違いといえばそれくらいだった。遠回りには丁度いい。
ステルスで安全といっても、人も馬車もいないような場所をぽつんと進むのは心細い事だしな。

俺は道ゆく旅人たちの様子を観察しながら、のんびりと車を走らせていた。

「真っ直ぐの道は気持ちいいなー」

開けた道を走るのは随分久しぶりだ。近頃は王都の雑踏の中だったり、ダンジョンの迷路だったりと閉塞感の強い場所だったから、尚更そう感じる。
…そういやあいつら、あれだけ右に左に揺られてたのにダンジョンの中では酔ってなかった。いつの間にか車に慣れていたんだな。

今ごろ王都でレダートへ帰る準備でもしているだろう二人の魔族男子ズに思いを馳せていると、道の向こうに目を引く荷台が現れた。

「お、魚だ」

一頭の馬がのんびりと引いているのは、どっさり積まれた魚の小山だった。数人の男たちが同じペースで周りを歩き、談笑したり馬を励ましたりして移動している。
彼らが手にしているのは、魚獲りの道具だろうか。釣竿ではなさそうだ。

「大漁だなぁ」
「ギギィ?」(なにあの死体?)
「死体呼ばわりかよ……。あっちの道は川に出れるみたいだな。折角だから、見ていこうか」

荷馬車がやって来たのは進行方向とは別の分かれ道で、川辺へと繋がっている。俺はハンドルをきって、その分かれ道の方へ車を走らせた。
程なくして雑木林の先に、湖と見紛う長閑な水辺の風景が現れた。

川の対岸は遥か遠く、流れも緩やかで空や辺りの木立ちを鏡のように映し出している。風光明媚な場所に思わず感嘆の声が出た。
こんなにいい景色だし道も通っているのだから、もっと釣り人とかがいるのかと思いきや、周囲にいる人影はまばらだ。ベンチやテントの張れるスペースでもあれば、素晴らしい休憩スポットになるだろうに。

「釣りの名所かな」

周りにいる人たちは荷物を広げたり、弓や剣などを点検したりとまるでダンジョンのボスに挑もうとしているかのようだ。こんなのんびりした場所でも油断せず気を張っている旅人たちに感心した。

ここは是非、彼らの目の届かない所で降りてこの自然を堪能したい。ちょっと早いが休憩にして、おはぎのブラッシングでもするか。
そう思った矢先、俄かに怒号が上がった。

「魚影だっ!2撃目行くぞ!」

なんだなんだ?声につられて川の水面に目を凝らすと、巨大な水道管のような影がそこに現れる。
影は川面を突き破り、派手な水飛沫と共に長い何かが鎌首をもたげて現れた。

「うわああ何じゃありゃ!?」
「キィーーッ!」

海蛇…いや、川蛇!?
ともかく、鋭利そうな鱗に覆われた巨大な蛇が、陸地の旅人たちへ向けてシャーッと獰猛に威嚇していた。大人2人を一気に丸呑みしそうな、恐ろしいほどの大きさだ。
辺りは阿鼻叫喚…とはならず、しっかりと得物や装備を整えた人々が、気合いの入った声で川蛇と対峙しているのだった。

「援護開始!」
「目を狙え!」
「毒液と水魔法に注意しろ!」

ダンジョンでよく見た光景である。
一人状況に付いていけず固まる俺が見守る中、川蛇は魔法で押さえ込まれてから矢の雨をくらい、旅人たちに倒された。
ウオーッと歓声が上がり、先ほど魚の山を積んだのより遥かに大きい荷台が用意される。今から引き上げてあれに載せるのだろうか。

水辺のピクニック気分を綺麗さっぱり拭い去られた俺は、大物だと湧く人々を尻目に人知れず立ち去った。

「キィ…」(びっくりした)
「まさに大物だけど…流石にアレを魚なんて言わないよな」

異世界の川ってこんなに危険地帯なのか。近づかんとこ。

元の道に戻って、街道沿いを進み直す。先ほどすれ違った魚の荷馬車を追い抜かし、ぐんぐんと変わらない景色の中を運転していった。

「どれくらいかかるかね」

理想は昼過ぎから夕方に到着したい。車中泊は嫌なので、検問には間に合うようにしないと。
ダンジョンアタックのおかげである程度小粒の魔石が補充できたとはいえ、無駄遣いできる物ではないからな。ハニワも「そうだぞ」とニカニカ笑っている。

川蛇ショックから以降の道では魔物に出くわすこともなかった。ぽつぽつとすれ違う人々の身なりをチェックしながら進む。
隊列を組んだ立派な馬車が一度だけ、パカパカと通り過ぎていったが、あとは徒歩が多い。幌馬車も何度か見かけられた。

小さな集落を通り過ぎてから、人の数が減った気がする。それほど広くない林道を抜けたり入ったりしながら、なだらかな登り下りを延々と繰り返す。
時々小休止して目的地と現在地の位置を確認するのを忘れない。「この先しばらく道なりです」と言うナビだが、真っ直ぐな導線を無視し街道沿いに右へ左へと曲がる為、さっきから無言だ。

そうしてブロロロとハンドルを握る事しばらく。王都を出発してから、4時間弱が経った頃。

「およそ1キロメートル先、検問所です」

フロントガラスの向こうに、ゾナドフの検問が現れた。王都の聳えるような街壁とは違い、白い石造りの垣根に覆われた簡素なゲートだ。

俺は今、身分証を2つ持っている。冒険者ギルドのギルドカードと、ザクンダ商会の証明書だ。
色々と考えた結果、検問にはギルドカードの方を使う事にする。商会の者であると明かして「積荷を見せろ」と言われれば、アウトだからだ。

そんなわけで、俺はゾナドフの門兵に首から下げたギルドカードを提示した。

「うむ。通れ」
「従魔が1匹います」
「キッ」(よっ)
「……」

門兵のおっちゃんは「従魔のトラブルは主人のうんぬんかんぬん」というお決まりの注意事項を述べてから、俺の通行を許可した。前回もだが、おはぎを紹介するとかなり微妙な空気になる。
恐らくラフィードでも、その次のリモダでもなるのだろう。

まあ仕方ない。もし言うことを聞かなくて小さい子に噛み付いたりしたら、大変だもんな。
……。

「キィッ!」(なんかキタ!)
「この街でもお利口にな。勝手に飛んでくなよ」
「キィ~」(はいはい)

思わず魔繋ぎの紐に魔力を込めて注意を促しつつ、俺はおはぎと共にゾナドフの街に入った。

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