ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな

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王都からゾナドフまでかかるとされる日数は2日。
一泊して1日経った今だとちょっと早いが、思い切って昼に商会へ行ってみる事にした。観光してもいいのだが…滞在費をかけてダラダラするよりは、今日中に出発したいと思ったからだ。

「おはようさん。大丈夫だったか?」
「キィー」(ヒマだった)

退屈そうなおはぎを迎えに行き、誰もいない厩でいそいそとブラッシングしてご機嫌とり。
宿屋の通りを後にする。

早朝は人がいないかと思いきや、昨日の夕方におとらず賑やかだ。
なるべく人通りの少ない方へと足を進めてしばらく、やっとこさ車の出せそうな路地裏にありつく。

「ちょっと待ってろよ」
「キィッ」(がってん)

路地の壁におはぎを残し、俺はステルスモードで姿をくらます。ナビでじっくりザクンダ商会の位置を確認してから、ゾナドフの分の積荷を下ろす準備。
手紙等の郵便物が一包みと、クラーテルジンジャー箱が2箱だ。

魔繋ぎの紐で合図を送る。

「キィー!」(こっちは誰も来ない!)
「こっちもクリア、と」

おはぎは片側の路地を、俺が運転席から反対の路地をチェックしてステルスを解除。
慌ただしく荷車ソリにジンジャーの箱を積んだら、車をロック。ロープで固定して移動の準備完了だ。

「よーし。何とかなったな」
「キキィ」

コソコソとクルマに乗り降りするのも板についてきたようだ。
しかし、そこからが大変だった。

「荷物降ろす位置、完全に失敗した…」

進み始めて数分、俺は荷車の不安定さに打ちのめされていた。
荷車といっても滑車のついたソリをロープで引っ張るものなので、何度もひっくり返しそうになる。箱には蓋が打ち付けられているので中身が溢れることはないのが幸いだ。

万が一にも破損させないように、牛歩の速さで慎重に運ぶしかない。昨日の川沿いに辿り着き、立派な橋を渡り切るまでに一苦労だった。
もう一息、と大通りをそれて曲がった俺の前に立ちはだかったのは、そこそこ長い階段。

「嘘だろ…」

もっと近場で積荷を下ろしていればこんな苦労はなかっただろう。…というか、それくらい前もって気づけよ、俺。
次の街からは必ず、商会周りの荷下ろしポイントを前もって探し出しておこう。焼魚の屋台に飛びついてる場合じゃなかった。

ひいこら、ひいこら。
担いだり引いたりして根気よく進み、ようやくザクンダ商会へ到着した。こちらは事務所と倉庫が一つになっているようだ。
二、三台の馬車が停まっていて、荷物を搬入している。「そいつはこっちへ」と指示を出している女の人を発見したので、俺は声をかけた。

「おはようございます。王都からレダート領の荷物と郵便をお届けです」
「ん?」

いかにも姐さん、といった大柄な女性は俺が差し出したザクンダ商会の身分証と受取証明書を手に取り、じっくり目を通した。

「へぇ、新入りか。荷物はそれだけかい?」
「はい。宜しくお願いします」
「はいはい、こりゃご丁寧に。随分急いで…と思ったら、キーストリアまで行くのか。やるね」

姐さんは何故か品定めするような目つきで俺を見る。多分「そんな冒険者には見えないが…」とでも思っているのだろう。
おっかないが、受け取りを渋ったり怪しまれたりしている訳ではなさそうだ。良かった。
姐さんが声を張り上げると、商会から別の男性がやってきて対応してくれた。指示された倉庫の片隅にジンジャー箱を納め、男性がリストを片手にチェック。郵便物は、そのまま彼が受け取った。

「見慣れない顔だけど、この辺りは初めてか?いい街だろう」
「ええ。川が綺麗だし、魚が美味いし、坂道も階段もほとんどなくて助かりました。平地最高…!」
「そ、そうか」

受取証明書に名前を貰って、任務完了だ。


ーーー


身軽になった後はのんびりと街の景色を楽しみながら戻り、昨日の検問所から川沿いの街ゾナドフを後にする。
例によって適当な場所で車に乗り込んだ。

飲み水、良し。昼飯に買ったフォカッチャっぽいパンとチーズ、良し。
ガソリンメーター、良し。目的地設定、良し。

空は生憎の曇り空。俺としては爽やかな陽射しの元が良かったが、日のあたりが強いとお気に入りの定位置に居られなくなるおはぎにとっては、良い旅立ち日和なのかもしれない。

「うし。行くぞ」
「……」

おはぎはその定位置にぶら下がって既に眠ってる。
次なる目的地・ラフィードまでの所要時間は、1時間半と少しだ。

車は丘陵地帯の新たな街道沿いを走る。
見晴らしの良い丘の風景は徐々に木立ちが目立ち始め、やがて森の中へと差し掛かった。森の入り口では、2、3組の冒険者や商隊らしき旅人が固まって野営している。

まだ昼になったくらいなのに、もう野宿か?
俺は不思議に思いつつその場を通り過ぎて、暫く走ると納得した。

森は霧が立ち込めたかと思うと、あっという間に雨模様となった。これは危険だ。ナビの導線と視界の悪い外を忙しなく見比べながら、徐行して進む。

いつだったかニュースで、カーナビの通りに走ったらいつの間にか湖に水没していたというアメリカの事故が報道されていたのを思い出す。
何もこんな時にだが、思い出したもんは仕方ない。一人ビクビクしながら、木立ちの切れ目に敷かれた街道を辿る事30分。霧が収まり、森の終わりに差し掛かった。

これで一安心と思った矢先、50メートルほど前方を数体の魔物がのっしのっしと横切っているのに出会した。

「うわっ、野生のオークだ」

ステルスモードの為こちらに気づかれる心配はないが、身構えてしまう。ムキムキの巨漢に牙の生えた凶悪な豚の顔。容姿は相変わらずだが、ダンジョンで見た時と違ってサイズにばらつきがあった。
小柄なもの、中くらいのもの…もしかして、家族だろうか。誰かを襲っている素振りは無い。ここに来るまで見かけた人といえば、森の向こうの野営していた一団だけ。なので、鉢合わせる事もないだろう。

小さな群れは程なくすると、雨に濡れた木立ちの中へと去っていった。
姿が見えなくなったのにホッとして、アクセルを踏む。魔物とはいえ、雨宿りもできないのは少し不憫だ。…そんなことを呑気に思える、このスキルに感謝せねば。

草木が広がる平原に、しとしとと雨が降り続いている。雨雲に霞んでなければかなり遠くまで見渡せただろうが、これはこれで良い景色だ。エンジンの音以外何もしない自然の中を、ひたすら走った。

こう雨が降ってては、流石に外で休憩とはいかない。居眠りから目覚めて暇を持て余したおはぎが、後部座席をパタパタと忙しなく飛び回りはじめた。やかましい。

「キィ~ッ」(おはぎのうつくしいターンを見よッ)
「ウロチョロすんな、危ないから!」
「およそ3キロメートル先、検問所です」

もうちょっとだから辛抱してくれ。
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