ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな

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ラフィードの街を囲う石垣が見えてきた。あそこが検問所だ。

俺はギルドカードを確かめ、路銀と護身用のスクロールをカバンに詰める。運転中は窮屈なので脱いでいた皮鎧を着用し、更にドルトナで購入したフード付きマントを被る。
これで雨でも問題なし。車を降りて徒歩で向かった。

検問の列は短く、すぐに順番が来た。

「通ってよし。くれぐれもそのチビスケから目を離さないこと」
「はい」

チビスケことおはぎと俺をじろじと見聞しつつも、門兵はそう言って通してくれた。怪しむというより、奇異なものを見る目だ。

検問の向こうは、これまでの街と違った景色が広がっていた。石畳や立ち並ぶ建物の代わりに、青々とした牧草、そして畑が目立つ。土を慣らした素朴な道に、門と同じ素材の石垣。広大な耕作地帯を、その石垣が区切っていた。しっとりと雨で濡れた空気に、動物たちの匂いがする。

自然豊かな田舎の風景。と思いきや、土と石垣の道を進むと密集された集落に到着した。ここは石畳が整えられ、花壇や噴水まである。冒険者ギルドもちゃんとあり、その向かい側には宿屋が数軒。その通りを更に進むと、ザクンダ商会の支部があった。

荷下ろしに良さそうなポイントを探しに行きたいが、この雨だ。先に宿屋をみつけよう。
雨止むと良いなぁ。

目についた宿にお邪魔して、従魔がいることを申告。すると店主のおっちゃんは衝撃的な台詞を発した。

「この街に従魔の泊まれる宿は…ねぇんじゃないかな?」
「えっ!?」

こうして、宿屋巡りが始まった。


1件目。
「あー、ダメダメ。うちはお断りだよ。悪いけど」

2件目。
「うわっ、プラムバット!?…は、従魔?なんで従魔にした…」

3件目。
「申し訳ありませんが、お引き取りください」

4件目。
「確かに大人しそうだけど…流石にコウモリをうちに入れるのはねぇ…」


街の方々を巡り夕方になってきたが、結果は全滅。この街の宿屋は全部で5軒だというので、頭打ちだ。

なんてこった…
ここはおはぎを信用して、空き家かどこかに待っていてもらうか?しかしそれは、思いっきり従魔から目を離す行為だ。その間にもしも誰かに追い回されたり、逆に誰かに噛み付いたりしたら…。ダメだな。
大体、俺が一人でノコノコ泊まりに来たら、どの宿屋からも「お前、従魔はどうした?」とツッコまれるだろう。

こうなれば、交渉してみるしかない。
俺は最初に訪れた宿屋、「ラミアの髪飾り亭」に再び顔を出す。

「あんたか。どうだった?」

出戻りの俺へ親切に声をかけてくれる店主のおっちゃん。気が引けたが、思いきって切り出す事にした。

「すいません。宿代を上乗せしてお支払いするので、どうかこいつも泊めてもらえませんか?」
「い、いやいや、無茶言わんでくれよ。他の客だっているんだ」
「そこを何とか…!」

困り顔のおっちゃんに、俺はおはぎの無害さをアピールした。
トイレの躾、万全です。
煩くしません。
他の部屋や客人、厨房にも絶対近寄らせません。
万が一部屋を汚したり、物を破損させた場合は宿代とは別できちんと賠償します。

しかし、おっちゃんはますます困り果てて渋い顔。ですよね。

「厩でもあてがってやりたいが…それはそれで馬が嫌がるしな」
「キィ~」(おはぎも部屋がいいよ~)
「うっ、出てきた」

マントの裏側からノソノソと伝って来たおはぎがアピールに加わると、おっちゃんは驚いておはぎを睨んだ。カウンター裏の厨房から奥さんもやって来て、迷惑そうに俺とおはぎを見ている。
うう、ダメそうだ。しかし粘ってみよう。

「こいつ、食ってるか寝てるかのどっちかで、とても大人しいんです」
「いくらあんたがそう言ったって……コウモリは困るよ」
「一人部屋料金のもう一人分、お支払いします」
「ハァ!?そんなに?」
「ううーむ…」
「ホラ。お前も部屋で寝れるんなら、騒いだりしないでじっとできるよな?」
「キィ」(できるよ)

おはぎはソロソロとマントの上から全身を出し、毛を膨らませながらも店主夫妻へ向けてキィキィと語りかけた。宝物の萎びた木の実を取り出し、「見てもいいよ!」とアピールしてる。よしよし、変なコガネムシは出すなよ。

「なにしてるんだ?」
「安全とみなした人には自分の宝物を見せびらかすんですよ。信頼の証というか」
「いや、信頼されてもな…」

そう言いつつも、おはぎを見る夫婦の目つきが少しだけ和んだ。いけるかも?と思った矢先、おはぎは木の実と夫婦の顔を心配そうに見比べ始めた。

「キキィ、キッ!」(あ、あげないよ、見せるだけ!)
「あげないんかい。新しいの買ってやるから、ケチケチするなって」
「ギ!」(いやだ!)
「ちょいと…要らないよ。そんな汚いもん」
「…お兄さん、その子と話せるの?」

いつの間にか奥さんの後ろにくっついていた娘さんが、ぽそっと呟いた。金髪のおさげがよく似合う小学生くらいの女の子だ。

「ああ、うん。契約した時に。…別にコウモリ語が分かるわけじゃないよ」
「なんて言ってるの」
「自分もここに泊まりたいって」
「ふぅん…」

彼女はそう言うとくっついていた母親から一歩離れ、じーっと両親の顔を見上げた。

「泊めてあげないの?」

俺とおはぎの懇願に、女の子の圧が加わる。
その結果、おはぎと共にここへ泊まれる事となった。


ーーー


「無理いっちまったけど…何とかなって良かった」
「キィー」
「しかし散財したな…」

案内された1人部屋で、俺とおはぎはとりあえず雨を凌いでくつろいだ。備え付けの机の下におはぎのトイレ用布を敷いて振り返ると、窓枠にぶら下がったおはぎは嬉しそうに「キィー」(くるしゅうない)と声をかける。毛むくじゃらお代官め。

「親切な人たちだから助かったけど、本当は良くないんだぜ。おはぎ、絶対他の人にちょっかい出したり、違う部屋に勝手に入るなよ」
「キィ!」(大丈夫!)
「あの子に感謝だな」

大人しい娘さんだったけれど、おはぎを見つめる顔には好奇心が溢れていた。
撫でさせてあげたいが、両親は良い顔をしないかな。別の贈り物を用意しよう。おはぎも嫌がるかもしれないし。
…この際、おはぎにはアイテムボックスを使った一発芸でも覚えさせようか。
従魔の連れてける宿がないって場合が、きっとこの先もあるだろう。今日みたいに無害アピールを成功させれば、こうやっておはぎも泊めてもらえるようになるかもしれない。

試しにおはぎへ小銀貨を一枚持たせてみようとすると、毛玉は偉そうに羽をはばたかせてこう言った。

「キィーィ」(不味そうだからイラネ)
「まぁ聞けって。この先もお前が友好的な魔物なんだと思われれば、こうやって自由が効く。色々便利になるんだぞ」

かくかくと説得するも、おはぎは困ったように銀貨を見つめるだけだ。聞けば、要らないというよりアイテムボックスに出し入れできないらしい。

「キィキィー」(食べれるものしかできないもん)
「食べれる物しか?そんなアイテムボックスありかよ…」

とんだ食いしん坊スキルである。
そもそも魔物がアイテムボックスのスキルを待つことは無いって言ってたよな。相性の悪い者が無理矢理もったから、スキルに欠陥が出てしまったのだろうか。だったら、コイツのそれが普通よりちょっとおかしくても不思議じゃないのかもしれんが…。

では銀貨じゃなくフルーツで…なんて真似をしたら、溜め込んだ分を際限なく食い散らかして、デブコウモリと化すに違いない。
諦めよう。

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