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オリハルコンの国
国章の映えスポットから離れて奥に目をやると、数十ヶ所ものゲートがずらりと並んでいた。待機列は全員がミスラー皇国への入国者たちだ。向こうからモストルデン王国へ来る人はどこにいるんだろう。
門兵の指示に従って、緑の旗が並ぶゲートへ向かう。他にも青やオレンジ、紫のゲートがあった。緑ゲートは圧倒的に人が多く、みな横並びの列を作って順番待ちしている。
長々と待たされた後、やっと列が進んでゲートの元へ向かう。
先ほどの門兵と揃いの服を着た男性が、ゲートの窓口から声をかけて来た。髭の似合うダンディなおじ様だ。
「これより先は、ミスラー皇国となる。入国の目的を聞かせてくれ」
「はい。キーストリア王国を目指してますので、その通り道として入国します」
宿で会ったテイマーさんの言っていた通りだ。事前に話を聞いてたおかげで、難なく対応する。
「経由予定の街は?」
「マドゴアとベインザイル。道中で必要になったら、近隣の街や集落にも入ると思います」
「ふむ。…Eランクとあるが、ソロなのか?」
「はい。あっ、でも相棒がいます」
「キッ」(いるぞっ)
「俺の従魔です」
「……そうか。その通り道に当たるフリツェラード領では現在、Cランク以上の冒険者へ討伐依頼の参加義務が課せられている」
「…!?」
さらりと恐ろしい事を言い出すイケおじ門兵に、俺は慄いてしまう。
参加「義務」?冒険者ギルドってそんなのあるのか?聞いてないよ!
「Cランクだ、C。お前は強制じゃない」
俺の形相を見て、イケおじがそう宥めてくれた。
「村一つが魔物どもにやられたんだ。力ある者は手を貸してくれと、ただそれだけの話さ」
何でも、魔物の群れにマホチェクという小さな村が襲われてしまったらしい。群れがまだ見つかっておらず、捜索と討伐が急がれていると。
マホチェク村があったのは、国の中央寄りにあるフリツェラード領。…あとでナビをチェックしないと。
魔物が群れて村を襲うとは……本当に恐ろしい。村や集落には、都市部のような立派な街壁も門兵もいない。死と隣り合わせな環境なのだな。
ご冥福を祈ろう。
「Eランクがしゃしゃり出ても迷惑になるのがオチだ。ただ、そういう事情があるのは留意すること。ベインザイルまでの長旅なら、道中のギルドでチームを組むのを薦める」
「…わかりました。情報ありがとうございます」
親切に注意してくれたイケおじに礼を言うと、彼はニヤッと笑って頷いた。
「ようこそ、ミスラー皇国へ」
評判の悪い国だとしても、そこにいる人が悪人ばかりという訳ではない。
気を引き締めつつ、色眼鏡で見ないで過ごそうと思う俺なのだった。
ーーー
ゲートを通過して暫く進むと、門の向こう側へ出る。相変わらずの高い峰々が青空を覆っていて、その山間に沿うように石造りの道が続いている。
「うわっ、高え」
馬車3台が余裕で並びそうなほど広い道は、高架橋のようになっていた。地面はかなり下だ。真下を覗こうとしたが、道のへりは分厚い石畳で囲われてて叶わない。まるで城壁のようだ。
何だか、高速道路を徒歩で歩いてるようだ。少し楽しい。
ワイワイといつの間にか人通りが増えていく。うず高く木箱が積まれた貨物馬車が頻繁に行き来し、小さな子連れの母親がピリピリしている。飛び出したら大変だもんな。
そんな光景があるかと思えば、ここでも貧しい身なりの難民らしき人たちが蹲っていた。その数はモストルデンより多く感じる。
再び長いウォーキングを経て、道の終わりに辿り着いた。
モストルデンと違い、ミスラー側には国境の街というのは存在しない。集落とも呼べないような、恐らく門兵の駐屯所なのだろう家や巨大な倉庫があちこちに点在しているのだった。
様々な出立ちの馬車がずらりと並び、辺りは各々の目的地へ向かう人でごった返している。乗合馬車の合間には門兵が立ち、行き先となる街の名前を大声で告げていた。その声に釣られ、人波が右に左に流れてく。
長居できない人混みだ。乗合馬車に用のない俺は、一目散にそこから抜け出した。
「やっと出られた…おい、くっついてるか?」
「ギィ…」(ニンゲンいすぎ…)
「そりゃ仕方ないよ」
上着の裾からちゃんとおはぎの返事がきたのを確認して、その場を離れる。大きな屋根付き厩で休んでる馬たちを横目に通り過ぎ、倉庫らしき建物も更に通り過ぎた。
ここいらでいいかな。
俺とおはぎの目で周囲に人がいないかをしっかり確認して、車のキーを開ける。バタバタ乗り込んでエンジンをかけ、何はともあれのステルスモードを選択。
「よーし…!無事に入国だ」
ふぃーっ、と安堵の息をつく。
これで重い荷物とも堅苦しい皮鎧ともおさらばだ。いそいそと身軽になる。おはぎも定位置のサンバイザーにぶら下がり、ピコのぬいぐるみとハニワに向かって「よっ」と挨拶した。
さて。改めて目的地の確認をしよう。
ミスラー皇国での荷物の受け渡しは一箇所。マドゴアという街だ。そこでジンジャー3箱を納めたら、次に目指すのがベインザイル。キーストリア王国との国境に最も近い街だ。
そこからまた、入国手続きを受けキーストリアへ入る。…今後も律儀に国境越えの列に並ぶか、代行モードのジズでひとっ飛びするかはその時決めるとしよう。ひとまずは、通常の国境越えの仕方を体験しておく。
ポチポチと目的地を設定し、経路と所要時間が出る。現在地からマドゴアまでは8時間。なんとモストルデンの王都からゾナドフ、ラフィード、そしてリモダまでの合計所要時間より更に長い。
途中で何処かの街に寄らねばならない。弾丸なんて嫌よ。
「それから…フリツェラード領だったよな」
件の村襲撃があった地点をナビで確認してみると、それはマドゴアを通過した先にある領だった。イケオジ門兵の言った通り、国の中寄りだ。
「本当に通り道にあるんだな…」
マドゴアからベインザイルまではおよそ6時間。その間の、ちょうど休憩に良さそうな一帯がフリツェラード領だった。小さな村が幾つもあって、危険地帯を示す赤い色は薄い。取り立てて危険となっている訳ではなさそうだぞ。
ステルスで通過するから大丈夫かな。それともいっそ、ベインザイルには行かず別の街で補給をするか。
…時間はたっぷりある。取り敢えずマドゴアに着いて荷物を納めてから決めればいいや。ウォーキングでやや疲労気味の俺は、考えるのを放棄した。
本日の宿を探す。が、従魔可の宿が無い。
宿どころか、この辺りは小さな村や集落ばかりで街が無い。規模の大きな宿場町のような所はあるが…名前をよく見てみれば『グンシャドル第三採掘場』とある。これ街じゃないの?その辺の村よりデカいけど。
「1人部屋の宿にはありつけないかもなぁ」
やだなー、とブツブツ文句を垂れながら、マップを眺める。どうも規模の大きな街は国の中央に寄り集まっている感じだ。
マドゴアには従魔OKの宿があるので一安心だが、今日の寝床をどうしたもんか。
ピピピッと暫く目的地検索を繰り返すこと数分、ようやく目星をつけた俺はステルス車を発進させる。
そこで痛恨のミスに気がついた。
「ゲッ、飯買うの忘れてた!」
おはぎは逆さまにぶら下がってスヤスヤと就寝しており、俺の悲痛な叫びはただ虚しく消えていくのだった。
門兵の指示に従って、緑の旗が並ぶゲートへ向かう。他にも青やオレンジ、紫のゲートがあった。緑ゲートは圧倒的に人が多く、みな横並びの列を作って順番待ちしている。
長々と待たされた後、やっと列が進んでゲートの元へ向かう。
先ほどの門兵と揃いの服を着た男性が、ゲートの窓口から声をかけて来た。髭の似合うダンディなおじ様だ。
「これより先は、ミスラー皇国となる。入国の目的を聞かせてくれ」
「はい。キーストリア王国を目指してますので、その通り道として入国します」
宿で会ったテイマーさんの言っていた通りだ。事前に話を聞いてたおかげで、難なく対応する。
「経由予定の街は?」
「マドゴアとベインザイル。道中で必要になったら、近隣の街や集落にも入ると思います」
「ふむ。…Eランクとあるが、ソロなのか?」
「はい。あっ、でも相棒がいます」
「キッ」(いるぞっ)
「俺の従魔です」
「……そうか。その通り道に当たるフリツェラード領では現在、Cランク以上の冒険者へ討伐依頼の参加義務が課せられている」
「…!?」
さらりと恐ろしい事を言い出すイケおじ門兵に、俺は慄いてしまう。
参加「義務」?冒険者ギルドってそんなのあるのか?聞いてないよ!
「Cランクだ、C。お前は強制じゃない」
俺の形相を見て、イケおじがそう宥めてくれた。
「村一つが魔物どもにやられたんだ。力ある者は手を貸してくれと、ただそれだけの話さ」
何でも、魔物の群れにマホチェクという小さな村が襲われてしまったらしい。群れがまだ見つかっておらず、捜索と討伐が急がれていると。
マホチェク村があったのは、国の中央寄りにあるフリツェラード領。…あとでナビをチェックしないと。
魔物が群れて村を襲うとは……本当に恐ろしい。村や集落には、都市部のような立派な街壁も門兵もいない。死と隣り合わせな環境なのだな。
ご冥福を祈ろう。
「Eランクがしゃしゃり出ても迷惑になるのがオチだ。ただ、そういう事情があるのは留意すること。ベインザイルまでの長旅なら、道中のギルドでチームを組むのを薦める」
「…わかりました。情報ありがとうございます」
親切に注意してくれたイケおじに礼を言うと、彼はニヤッと笑って頷いた。
「ようこそ、ミスラー皇国へ」
評判の悪い国だとしても、そこにいる人が悪人ばかりという訳ではない。
気を引き締めつつ、色眼鏡で見ないで過ごそうと思う俺なのだった。
ーーー
ゲートを通過して暫く進むと、門の向こう側へ出る。相変わらずの高い峰々が青空を覆っていて、その山間に沿うように石造りの道が続いている。
「うわっ、高え」
馬車3台が余裕で並びそうなほど広い道は、高架橋のようになっていた。地面はかなり下だ。真下を覗こうとしたが、道のへりは分厚い石畳で囲われてて叶わない。まるで城壁のようだ。
何だか、高速道路を徒歩で歩いてるようだ。少し楽しい。
ワイワイといつの間にか人通りが増えていく。うず高く木箱が積まれた貨物馬車が頻繁に行き来し、小さな子連れの母親がピリピリしている。飛び出したら大変だもんな。
そんな光景があるかと思えば、ここでも貧しい身なりの難民らしき人たちが蹲っていた。その数はモストルデンより多く感じる。
再び長いウォーキングを経て、道の終わりに辿り着いた。
モストルデンと違い、ミスラー側には国境の街というのは存在しない。集落とも呼べないような、恐らく門兵の駐屯所なのだろう家や巨大な倉庫があちこちに点在しているのだった。
様々な出立ちの馬車がずらりと並び、辺りは各々の目的地へ向かう人でごった返している。乗合馬車の合間には門兵が立ち、行き先となる街の名前を大声で告げていた。その声に釣られ、人波が右に左に流れてく。
長居できない人混みだ。乗合馬車に用のない俺は、一目散にそこから抜け出した。
「やっと出られた…おい、くっついてるか?」
「ギィ…」(ニンゲンいすぎ…)
「そりゃ仕方ないよ」
上着の裾からちゃんとおはぎの返事がきたのを確認して、その場を離れる。大きな屋根付き厩で休んでる馬たちを横目に通り過ぎ、倉庫らしき建物も更に通り過ぎた。
ここいらでいいかな。
俺とおはぎの目で周囲に人がいないかをしっかり確認して、車のキーを開ける。バタバタ乗り込んでエンジンをかけ、何はともあれのステルスモードを選択。
「よーし…!無事に入国だ」
ふぃーっ、と安堵の息をつく。
これで重い荷物とも堅苦しい皮鎧ともおさらばだ。いそいそと身軽になる。おはぎも定位置のサンバイザーにぶら下がり、ピコのぬいぐるみとハニワに向かって「よっ」と挨拶した。
さて。改めて目的地の確認をしよう。
ミスラー皇国での荷物の受け渡しは一箇所。マドゴアという街だ。そこでジンジャー3箱を納めたら、次に目指すのがベインザイル。キーストリア王国との国境に最も近い街だ。
そこからまた、入国手続きを受けキーストリアへ入る。…今後も律儀に国境越えの列に並ぶか、代行モードのジズでひとっ飛びするかはその時決めるとしよう。ひとまずは、通常の国境越えの仕方を体験しておく。
ポチポチと目的地を設定し、経路と所要時間が出る。現在地からマドゴアまでは8時間。なんとモストルデンの王都からゾナドフ、ラフィード、そしてリモダまでの合計所要時間より更に長い。
途中で何処かの街に寄らねばならない。弾丸なんて嫌よ。
「それから…フリツェラード領だったよな」
件の村襲撃があった地点をナビで確認してみると、それはマドゴアを通過した先にある領だった。イケオジ門兵の言った通り、国の中寄りだ。
「本当に通り道にあるんだな…」
マドゴアからベインザイルまではおよそ6時間。その間の、ちょうど休憩に良さそうな一帯がフリツェラード領だった。小さな村が幾つもあって、危険地帯を示す赤い色は薄い。取り立てて危険となっている訳ではなさそうだぞ。
ステルスで通過するから大丈夫かな。それともいっそ、ベインザイルには行かず別の街で補給をするか。
…時間はたっぷりある。取り敢えずマドゴアに着いて荷物を納めてから決めればいいや。ウォーキングでやや疲労気味の俺は、考えるのを放棄した。
本日の宿を探す。が、従魔可の宿が無い。
宿どころか、この辺りは小さな村や集落ばかりで街が無い。規模の大きな宿場町のような所はあるが…名前をよく見てみれば『グンシャドル第三採掘場』とある。これ街じゃないの?その辺の村よりデカいけど。
「1人部屋の宿にはありつけないかもなぁ」
やだなー、とブツブツ文句を垂れながら、マップを眺める。どうも規模の大きな街は国の中央に寄り集まっている感じだ。
マドゴアには従魔OKの宿があるので一安心だが、今日の寝床をどうしたもんか。
ピピピッと暫く目的地検索を繰り返すこと数分、ようやく目星をつけた俺はステルス車を発進させる。
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