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切り拓かれた山道を、車はひたすら走る。
国境から出発してしばらくは、ほとんど馬車しか見なかった。ナビの導線に従い1時間以上走ると、ようやく黒い山岳の景色に変化が訪れる。
現れたのは、荒涼とした平野地帯だ。見渡す限り広がるのは立ち枯れた草木と、黄土色の地面。
しかし、閑散としているわけではない。事あるごとに現れる集落や、度々行き合う馬車たち。景色はうら淋しくとも、交通量はモストルデンより遥かに多い気がする。ここまで来ると、冒険者らしき徒歩の旅人も散見されるのだった。
今回ナビで検索したのは宿でなく魔除けの休憩スポットで、旅人たちのためのそれがこの国は充実しているのがわかった。
今向かっているのは、この荒野を抜けた先の森にある魔除けスポットだ。あと2時間と少し。
一度休憩がてら適当な集落に立ち寄ってみたが、やはり今までのような贅沢な宿屋は無い。プライバシーのプの字もない、旅人を長屋に押し込めるような場所でどうしても泊まる気になれず、軟弱者な俺はすごすごと立ち去るのだった。
「余所者の隔離場所って感じだな。格安だったけど」
「キィキィー」
「こっちはやたら高ぇや」
宿付近の小さなショップ(ほぼ民家だ)で、おはぎのジャガイモと適当な葉野菜を購入した。荒地に育つ野菜は貴重なのかお値段割り増しだ。
旅人歓迎、という雰囲気ではなかったので、とっとと退散。
更にひたすら走ると、荒れた黄土色の大地が徐々に緑になってきた。眠気と空腹に耐えながら、草や低木が現れ始めた景色を横目にハンドルを握る。
「眠いのに腹減るとか最悪だな…」
視界良好でだだっ広いので、ウトウトしてしまう。しかし目的地は森の中だ。何としても日が沈む前に到着しないと。
そんな俺におはぎが「たべる?」とベリーを恵んでくれようとしたが、かえって空腹が増しそうなので遠慮した。気持ちはサンキュー。
「珍しいな、俺に食い物くれるなんて。…まさか、不味いのか?」
「ムシャムシャ」(うんまい)
「あっそう」
俺が断ったベリーを、おはぎは美味そうに食べだした。
食い意地のはったおはぎは、一度アイテムボックスにしまった食い物を出したがらない。まだ王都でダンジョンアタックをしていた頃、調子に乗って渡しすぎたフルーツたちを回収しようとしたら、ギィギィ怒られたものだ。
それ以降、肥満防止のため気をつけて与えているのだが…施してくれる時もあるんだな。
俺は機嫌良くベリーをムシャる毛玉へ打ち明けた。
「おはぎ、今日は野宿だ。悪いけど今夜は森の中で一晩凌いで貰うぞ」
「キッ?」
今向かっているのは、魔除けの休憩スポットだ。地図で見るとかなり広くて、森を切り開いたキャンプ場のようになっている。地図から見れば、だが。
つまり今夜、おはぎには一時的に野生へ返って頂く事になる。
「ギギーーーッ!」(えーーッ!いやだ!)
予想通り、大いにごねた。
許さんぞ!と怒って牙を剥くおはぎに、俺は前から密かに思いついていた提案を持ちかけてみる。
「一晩我慢してくれたら、キラーバットと自由に遊ばせてやるぞ。どうだ?」
「!!」
元々こいつがくっついて来るようになったのは、車が快適なのと、代行モードのキラーバットの姿に一目惚れしたからだ。キラーバットで釣れば、ワンチャン言うことを聞くかもしれないと思い付いたのだ。
といっても会話ができる訳でもなく、せいぜい一緒に飛び回るのが関の山だが…。
「キキキキィーーィッ!」(わーいっ、いいよ!)
おはぎは全身で喜びを現し、快諾した。
目論見どおりで良かった良かった。あとは、無事に一晩過ごせるよう準備しないとな。
ーーー
車は森の中へと差し掛かり、目的の魔除けスポットに到着する頃にはすっかり夕暮れとなっていた。藪の中に伸びる道をナビに従っていくと、やがて前方に木立ちの切れ目が現れる。
ステルスモードのままソロソロと徐行して、魔除けスポットの様子を車から眺めた。
ふむ。かなり広いキャンプ場だ。
森の中にぽっかりと空いた広場に、ポツポツと簡易テントが点在している。5、6組程だろうか。そんな彼らよりも真っ先に目についたのが、広場の真ん中にドドンと聳え立つオベリスクだ。
夕暮れのキャンプ場にあるには、かなり場違いなオブジェ。何か意味があるのかと注意して見れば、この場の何処にも魔法陣と魔石のサークルがないのに気がつく。
ではあれが、魔除け効果の発生装置ってことか。
隣りのおはぎが忌々し気にオベリスクを睨んでる様子からみるに、恐らくそうだろう。
「プスーッ」(デカい、キモい、ウザい)
「モストルデンで見た魔法陣より効き目ありそうだな…」
毛玉は聞いたことのない鳴き声でシンプルな悪態をついている。やめたまえ。オベリスクくんが可哀想だろ。
一旦その場を通り過ぎて、おはぎと明日落ち合う場所を決める。魔除け効果の効かない程離れた場所に放逐されるというのに、おはぎは危機感もなくウキウキだ。
こちらには便利なスクロールがある。近づいてくる者の有無を知らせてくれる「探知」のスクロールだ。こいつを使ってやろうとカバンから取り出しながら、おはぎに声をかけた。
「俺が言うのも何だけど、気をつけて過ごせよ。車の中にいる時みたいにダラけてたら魔物に食われちまうからな」
「キッキィ~」(逃げるの得意だもん)
「魔繋ぎの紐、使えるな?なんかあったら知らせろよ。迎えにいくから、できるだけここにいてくれよ」
「キィッキィッ!」(いやだ、遊ぶ場所探してくる!)
ウキウキが絶頂のおはぎはキラーバットと心ゆくまで遊び尽くそうと、森の中の偵察に駆り出すと言い張った。
俺は大層たまげた。魔物でもデートの下見なんてするんですか!?
「いや、あのな。…そんな事してやばい魔物に見つかったらどうすんだよ、大人しくしてろって。偵察なんて明日明るい内にやればいいから」
「ッキーィ!」(だって暇なんだもん!)
気を取り直して説得するも、おはぎは頑として聞きやしない。夜目が効いて夜行性のこいつには、「明るくなってから」なんてそもそも無意味らしい。
そう言い残し、毛玉は宵闇の藪中へさっさと飛び去ってしまった。
嘘だろあいつ。
元は野生とはいえ、最近じゃ車や宿でぬくぬく過ごしていたのだ。一晩も無事に居られるか、不安でしかない。
暗がりの森林に取り残された俺は心配のあまりうだうだとその場に留まっていたが、すぐそばの藪からバサバサッと鳥が飛び立つのにビビり散らし、慌てて車に戻った。
こうなったらもういいや。支度しよう、支度。
国境から出発してしばらくは、ほとんど馬車しか見なかった。ナビの導線に従い1時間以上走ると、ようやく黒い山岳の景色に変化が訪れる。
現れたのは、荒涼とした平野地帯だ。見渡す限り広がるのは立ち枯れた草木と、黄土色の地面。
しかし、閑散としているわけではない。事あるごとに現れる集落や、度々行き合う馬車たち。景色はうら淋しくとも、交通量はモストルデンより遥かに多い気がする。ここまで来ると、冒険者らしき徒歩の旅人も散見されるのだった。
今回ナビで検索したのは宿でなく魔除けの休憩スポットで、旅人たちのためのそれがこの国は充実しているのがわかった。
今向かっているのは、この荒野を抜けた先の森にある魔除けスポットだ。あと2時間と少し。
一度休憩がてら適当な集落に立ち寄ってみたが、やはり今までのような贅沢な宿屋は無い。プライバシーのプの字もない、旅人を長屋に押し込めるような場所でどうしても泊まる気になれず、軟弱者な俺はすごすごと立ち去るのだった。
「余所者の隔離場所って感じだな。格安だったけど」
「キィキィー」
「こっちはやたら高ぇや」
宿付近の小さなショップ(ほぼ民家だ)で、おはぎのジャガイモと適当な葉野菜を購入した。荒地に育つ野菜は貴重なのかお値段割り増しだ。
旅人歓迎、という雰囲気ではなかったので、とっとと退散。
更にひたすら走ると、荒れた黄土色の大地が徐々に緑になってきた。眠気と空腹に耐えながら、草や低木が現れ始めた景色を横目にハンドルを握る。
「眠いのに腹減るとか最悪だな…」
視界良好でだだっ広いので、ウトウトしてしまう。しかし目的地は森の中だ。何としても日が沈む前に到着しないと。
そんな俺におはぎが「たべる?」とベリーを恵んでくれようとしたが、かえって空腹が増しそうなので遠慮した。気持ちはサンキュー。
「珍しいな、俺に食い物くれるなんて。…まさか、不味いのか?」
「ムシャムシャ」(うんまい)
「あっそう」
俺が断ったベリーを、おはぎは美味そうに食べだした。
食い意地のはったおはぎは、一度アイテムボックスにしまった食い物を出したがらない。まだ王都でダンジョンアタックをしていた頃、調子に乗って渡しすぎたフルーツたちを回収しようとしたら、ギィギィ怒られたものだ。
それ以降、肥満防止のため気をつけて与えているのだが…施してくれる時もあるんだな。
俺は機嫌良くベリーをムシャる毛玉へ打ち明けた。
「おはぎ、今日は野宿だ。悪いけど今夜は森の中で一晩凌いで貰うぞ」
「キッ?」
今向かっているのは、魔除けの休憩スポットだ。地図で見るとかなり広くて、森を切り開いたキャンプ場のようになっている。地図から見れば、だが。
つまり今夜、おはぎには一時的に野生へ返って頂く事になる。
「ギギーーーッ!」(えーーッ!いやだ!)
予想通り、大いにごねた。
許さんぞ!と怒って牙を剥くおはぎに、俺は前から密かに思いついていた提案を持ちかけてみる。
「一晩我慢してくれたら、キラーバットと自由に遊ばせてやるぞ。どうだ?」
「!!」
元々こいつがくっついて来るようになったのは、車が快適なのと、代行モードのキラーバットの姿に一目惚れしたからだ。キラーバットで釣れば、ワンチャン言うことを聞くかもしれないと思い付いたのだ。
といっても会話ができる訳でもなく、せいぜい一緒に飛び回るのが関の山だが…。
「キキキキィーーィッ!」(わーいっ、いいよ!)
おはぎは全身で喜びを現し、快諾した。
目論見どおりで良かった良かった。あとは、無事に一晩過ごせるよう準備しないとな。
ーーー
車は森の中へと差し掛かり、目的の魔除けスポットに到着する頃にはすっかり夕暮れとなっていた。藪の中に伸びる道をナビに従っていくと、やがて前方に木立ちの切れ目が現れる。
ステルスモードのままソロソロと徐行して、魔除けスポットの様子を車から眺めた。
ふむ。かなり広いキャンプ場だ。
森の中にぽっかりと空いた広場に、ポツポツと簡易テントが点在している。5、6組程だろうか。そんな彼らよりも真っ先に目についたのが、広場の真ん中にドドンと聳え立つオベリスクだ。
夕暮れのキャンプ場にあるには、かなり場違いなオブジェ。何か意味があるのかと注意して見れば、この場の何処にも魔法陣と魔石のサークルがないのに気がつく。
ではあれが、魔除け効果の発生装置ってことか。
隣りのおはぎが忌々し気にオベリスクを睨んでる様子からみるに、恐らくそうだろう。
「プスーッ」(デカい、キモい、ウザい)
「モストルデンで見た魔法陣より効き目ありそうだな…」
毛玉は聞いたことのない鳴き声でシンプルな悪態をついている。やめたまえ。オベリスクくんが可哀想だろ。
一旦その場を通り過ぎて、おはぎと明日落ち合う場所を決める。魔除け効果の効かない程離れた場所に放逐されるというのに、おはぎは危機感もなくウキウキだ。
こちらには便利なスクロールがある。近づいてくる者の有無を知らせてくれる「探知」のスクロールだ。こいつを使ってやろうとカバンから取り出しながら、おはぎに声をかけた。
「俺が言うのも何だけど、気をつけて過ごせよ。車の中にいる時みたいにダラけてたら魔物に食われちまうからな」
「キッキィ~」(逃げるの得意だもん)
「魔繋ぎの紐、使えるな?なんかあったら知らせろよ。迎えにいくから、できるだけここにいてくれよ」
「キィッキィッ!」(いやだ、遊ぶ場所探してくる!)
ウキウキが絶頂のおはぎはキラーバットと心ゆくまで遊び尽くそうと、森の中の偵察に駆り出すと言い張った。
俺は大層たまげた。魔物でもデートの下見なんてするんですか!?
「いや、あのな。…そんな事してやばい魔物に見つかったらどうすんだよ、大人しくしてろって。偵察なんて明日明るい内にやればいいから」
「ッキーィ!」(だって暇なんだもん!)
気を取り直して説得するも、おはぎは頑として聞きやしない。夜目が効いて夜行性のこいつには、「明るくなってから」なんてそもそも無意味らしい。
そう言い残し、毛玉は宵闇の藪中へさっさと飛び去ってしまった。
嘘だろあいつ。
元は野生とはいえ、最近じゃ車や宿でぬくぬく過ごしていたのだ。一晩も無事に居られるか、不安でしかない。
暗がりの森林に取り残された俺は心配のあまりうだうだとその場に留まっていたが、すぐそばの藪からバサバサッと鳥が飛び立つのにビビり散らし、慌てて車に戻った。
こうなったらもういいや。支度しよう、支度。
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