ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな

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 必要な荷物を車から引っ張り出し、キーをロック。車が消えたのを確認して、早足でキャンプ場……じゃなくて魔除けの休憩場へ向かう。ドルトナで購入した野宿セットが久々に日の目を見る。

 魔除け場はかなり広く、俺1人の寝床くらいは自由に選べるほどだ。ぼっちでいるのは俺くらいで、3人組の冒険者らしき者もいれば、10人以上の騎士っぽい格好の団体もいる。
 その中でも話しかけやすそうな人を探して、あのオベリスクについて尋ねてみた。使い方や効果を何も知らないままでいる訳にはいかない。

 馬に水を与えている若い男女に声をかけてみると、2人は訝しそうにしながらも教えてくれた。

「えっ、あんたストーン見た事ないのか」
「あらまぁ~、今までどうしてたの?」
「とりあえず、魔力込めてこいよ。ほら、あのツルッてしてるとこ」

 オベリスクことストーンは、思った通り魔除け魔法陣の上位互換のような代物らしい。使い方はほぼ一緒で、魔力を込めるだけ。
 魔法陣だと効果があるのは周囲のみだが、この巨大な媒介によって生み出される魔除けの力は広範囲にまでもたらされる。おはぎと別れた場所も、結構離れてたもんな。

 若者に促されてストーンの元へ行くと、白い半球の魔石が四方の面に嵌め込まれているのがわかった。魔法陣の中央にあったのとかなり似ている。成る程と合点がいき、手を添えてそのツルッとした石に魔力を込めた。ストーンの表面にみっちりと刻まれた魔法陣の模様が、ポワワンと光って消えた。
 訪れる旅人がこうして込め続ける事により、半永久的に魔除け効果を持続させているのだという。

 凄いな。これの小さいのを作って身につけてれば、魔除けのお守りになるんじゃないか?某RPGの「せいすい」的な、敵とエンカウントしなくなるやつ。

「そういうマジックアイテムもあるけど、貴重なものだから」

 俺の疑問に、女性が苦笑してそう答えた。
 ストーンは心強いが、良いことばかりではない。魔除けで気が立った魔物が他所で凶暴化し、被害が出る事もあるのだ。
 毛を逆立てストーンを睨みつけるおはぎの様子を思い出し、俺は納得した。皺寄せが別の場所に行ってしまうのか…。そうだよな。もし何のリスクも無かったら、世の中はもっとストーンまみれになっているだろう。

「俺はモストルデンから来たんだけど、ミスラー皇国だとこれが普通の魔除けなんですか?」
「あらまぁ~、モストルデンから」
「それで知らなかったのか。この国お得意のオリハルコン製ってやつさ、コイツも」
「オリハルコン…?」

 なんか聞いた事ある……。ファンタジーな鉱石じゃなかったっけ?RPGで目にする単語だ。

「この国お得意ってことは、沢山採れるんですか?」
「あらまぁ~、聞いたことない?ミスラーはオリハルコン製錬でとっても有名なのよ」

 思わず聞いてみると、二人はまた困惑したように目を丸くした。
 この様子だと、一般常識だったっぽいな。折角ストーンに対する無知さを納得してもらえてたのに…。

 何でもこの国を興した初代皇王は土の神の加護を持つ人物だったらしい。その威光から、ゆかりの深い土魔法は誇りとして特に研鑽されてきた歴史がある。
 その中でも世紀の発明となったのが、土魔法を駆使した高純度オリハルコンの製錬・加工技術。現在に至ってもミスラー皇国がそれを独占し、無二の技術となっているんだとか。はえー。

 そういえば、マップにでかい採掘場があった。そうか。ここは金属製造が盛んな国なのか。オリハルコンがどういった物質なのかイマイチわからないが、この高性能なストーンもオリハルコン技術の賜物というわけだ。

 二人に礼を言って別れ、いい感じに開いたスペースに寝床を決めて荷物を下ろす。ちょうど先人のものらしき焚き火跡があり、草地の地面に燃え広がらないようになっていた。ありがたいので、ここにする。

 すっかり暮れつつある薄闇の中、薪となる太枝をなんとか集めて夕食の準備を始める。以前リヒャルトとイアニスとで野営をした際の記憶が頼りだ。
 苦心して薪を集めた後は、ランプの灯りを頼りに小鍋と葉野菜、干し肉を取り出す。葉野菜は先ほどの集落で購入したもの。干し肉は、はるか以前にモストルデンで買ったやつの残りだ。いくら日持ちするといっても、いい加減やっつけないと。

 枝の山を拵え、火おこしのスクロールで着火。小鍋に水を張っていざ具材を…とそこで、肉を切る包丁がないのに思い立つ。やはりナイフくらい買っとかなきゃダメだ…。
 仕方ないので葉野菜は手でちぎり、干し肉はそのままぶち込んだ。

 熱々に煮えた小鍋へ、最後に生姜湯ならぬクラーテルジンジャー湯を入れておしまい。特製スープの完成だ。見た目はイマイチだが、生姜のいい香りはするぞ。
 火傷に気をつけつつ、スプーンで一口。

「……うっすい」

 これはスープではなく、具の入ったクラーテルジンジャー湯だ。う~ん、オーガニック。温かなものを口に入れるとホッとするね…!このでけぇ肉が邪魔だけどね!誰だこんなもの入れた奴。
 残してもしょうがないので、黙々と食べて飲み干す。肝心の空腹は少しだけマシになったから、まぁいいか。
 
 折角苦労して拵えた焚き火なので、揺らめく火でも眺めてリラックス……と思ったが、周囲の人たちが寝支度を済ませているのに気がついた。火の灯りは魔物を呼ぶ。周囲に倣って寝る事にした。

 焚き火を慣らして火を消し、なるべく柔らかそうな地面に寝袋を敷いた。
 疲れていたが、背中が固くて中々寝付けない。元々生粋のインドア派で、宿屋のベッドがお馴染みの身としてはこうなって当たり前か。

 月明かりにこうこうと照らされるストーンを見上げながら、いつもより長い夜をじっと過ごした。


ーーー


 翌朝。ヒヒーンと鳴く馬のいななきで目が覚める。

「…あー…背中いてー…」

 周囲は馬だけでなく、わいわいと出発支度をする旅人たちで活気付いている。日の明かりから見て早朝だろうが……冒険者たちの朝は早いのだな。
 もぞもぞと起き上がって寝袋を畳む。俺の出発準備はそのくらいだ。あとトイレ(といっても、トイレ施設が整っているわけでは当然無い。大自然を五感で感じながらのお花摘みである)。

 しんと冴え渡った朝の空気の中、俺は早足でおはぎとの合流地点へ急ぐ。どの辺だったかな…と思った矢先、聞き慣れたキィキィ声が森の中に響く。木の枝にぶら下がるおはぎを見つけた。

「キッキィーッ」(おそいっ)
「おはようさん、無事だったな」

 一夜ぶりの毛玉はいつも通りの呑気な様子でホッとする。肩の力を抜きながら、道から逸れて車を出した。
 荷物を載せてエンジンをかけ、ガソリンをチェック。よし、満タンだ。

「キィキィー」(はやくはやくー)
「早速かよ。へぇへぇ、分かった」

 おはぎはいつものように乗り込もうとせず、キラーバットの到来を待ち構えている。
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